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火山の国の軍師

サイプレスが橙の園に侵入した、その次の日。

再び、火山の国で三大国の軍師たちは会合をしていた。

正方形の形をしたテーブルに向かい合うように、アカンサスとミスト。

そして、その両者の隣に位置する、反対側を向いた椅子の側には、ロシェが控えていた。

その椅子は背もたれの部分が高く、誰が座っているのかは、アカンサスからもミストからも見えないようになっていた。


「そちらの軍師は、顔を見られたくないのか?」


口を開いたのはアカンサスだった。不機嫌そうに眉をひそめる。

入室したときから、ずっと反対側を向いた椅子。

誰かが座っているということは、気配から察知できる。

何故、こちらを向こうとしないのか。

それが二人には疑問だった。


「顔を見せられないような人間を軍師に向かいいれたのか?」


アカンサスの言葉はミストも同意なようで、何も言わずに静かに背もたれを見つめた。

ロシェは椅子にそっと近づく。何かを指示されたようで、何度か頷いた。


「私は、あなた方と比べれば小さい存在だ。それに、人を見かけで判断するような者とは顔をあわせないし、あわせたくもない。…と、仰っている。」


アカンサスは小さく舌打ちし、ミストは仄かに微笑んだ。


「では、話を進めるぞ。」


言いながら、アカンサスは地図を広げた。

三大国、そして、橙の園の位置関係が描かれている。


「橙の園の場所が分かったのか?」


驚いたのは、ロシェだった。

そんなロシェの反応を見て、アカンサスは得意げに鼻をならした。


「草原の国に侵入した、アオチという男が吐いた。」


「…情報は正確なんですよね。」


「当然だ…スリジエ王子の命令で、一度侵入したからな…。」


後半部分は小声だったが、殺気立っているミストにははっきりと聞こえた。


「侵入した?侵入しただけ、ですか?」


「…暗殺部隊の報告によると、少し暴れたらしい。」


その言葉にミストは立ち上がり、テーブルを力任せに叩く。


「…ふざけるな。これは遊びではない!!戦争…、粛清なんですよ…。勝手な行動をされて、我々が動きにくくなっては困る…。」


血走った瞳には確かな殺意が込められている。

殺意が向けられた相手は他ならぬ、大海の国のエストレザー家を傷つけ、殺した橙の民たち。


「…勝手な行動をとったことに関しては謝罪する。申し訳ない。」


ミストの剣幕に押され、アカンサスらしくもなく、素直に謝罪の気持ちを表す。

先の争いで、大海の国に侵入した橙の民はあろうことか、大海の国のイリゲート王を射殺した。

国王を亡くした大海の国軍は、橙の民の抹殺を望み、国全体が敵を討とうと殺気立っていたのだ。


「…場所は、山に囲まれた地形か。」


悪くなった空気を払拭するように、ロシェは橙の園の地形を確認した。


「ああ、南側の山は緩やかだが、東西挟むように険しい山がある。アオチによると、橙の民の人数はそこまで多くないらしい。その情報から考えるに、南側の山を重点的に守っているだろう。」


地図に描かれている、橙の園の位置を円を書くようにくるりと、指で囲みながら、アカンサスは意見した。

しかし、ミストはその意見に眉をひそめる。


「…そのように、単純に捉えても良いのでしょうか?確かに、南側から攻め入るのは常套手段だと思います。…ですが、橙の園には、ゲイル殿のような軍師がいるのではないですか?あの方はなかなかの智者でした。そんな人を策の一部としてみすみす三大国に送るとは、私は思えない…ゲイル殿以上の智者がいて、その方が全てを仕切っているとしたら…我々の裏をかくことを考えるかと。」


尤もな発言である。

ゲイルはフキノトウと名を偽って、アカンサスの代わり、草原の国の智者として振舞っていた切れ者の男。

ただ一人の智者を自国から易々と離れさせるということは、その間の国政を維持するのが難しくなる。

他にも全てを取り仕切る軍師がいる。

その考えも間違ってはいないはずだ。


「ならば、どうしろと?いるかどうかも分からぬ軍師の影に怯えて、打つ手は無しということか!?」


「誰がそんなことを言いましたか?私はあなたのような単純な考えは間違っていると、指摘したまでです。」


火花を散らすように睨み合う二人をみて、ロシェはまた始まったと、溜息をついた。

こうなってしまえば、しばらくは話が進まないとジルベルが聞いていたため、どうしたものかと天を仰ぐ。


「ミストちゃんの意見も、アカンサスさんの意見も正しいし、でもどこか違ってるかな。」


椅子から声。まだ幼さの残る声である。

ミストとアカンサスは言い争いをやめ、椅子に目を向けた。


「ゲイルって言う人が、草原に送られたことも、サランとか言う人が火山に送られてきたことも、三大国の三種の神器を狙って、橙の民が侵入したことも、ロシェから聞いて大体のことは把握しているわ…。ここで、私が疑問に感じたことは、侵入した人数が少なすぎることと、穴がありすぎる策だということ。仮に軍師がいたとして、ゲイルとサランの件が失敗したときに、何も仕掛けてこなかったのはおかしい。」


「では、軍師はいない。ということか?」


ミストへの多少の嘲笑も込めて、アカンサスは言った。


「それも違う。軍師がいないのなら、もっと馬鹿げた策をとるでしょうね。例えば…民全員で攻め入るとか。」


一度間を開け、唇を噛み締めた。

こんなことがあってほしくない。そう思いながら。


「あくまでも、私の推測だけれど、ゲイルもサランも攻めてきた橙の民も、その全員が死ぬことを前提として送られた…いえ、むしろ死んでくれたほうが有難い…何ていうことが、あったとしたら…。」


「橙の園の真の狙いは、三大国に喧嘩を売ること、か。確かに、あの小僧が草原の国に侵入した目的は、三大国への恨みを晴らすこと、でもあったな。」


苦虫を噛み潰したような顔で、アカンサスは言った。


「恐らく、戦の隙に三種の神器を奪うつもりなのでしょう。三種の神器には神の力が封じ込められていると言います。彼らはそれを使い、神の力を取り戻す気なんじゃ…。」


「…失礼ながら、火山の国の軍師殿、あなたは一体何者なのですか?普段は敬語を使わないロシェ殿が、あなたには敬語を用いて話していることから、それなりの地位にいる人間だというころは察せます。…それに、橙の民や三種の神器にも詳しい…私はこの世にある古文書を全て読んだと自負しています…ですが、橙の民と三種の神器がそこまで密接な関係になっているなんて…記憶にありません。」


椅子から聞こえる声をかき消すように、ミストは一気に疑問を投げかける。

ミストに呼応するように、アカンサスも続けた。


「我らが草原の国のスリジエ王子も、橙の民の過去については各地の伝承から推測できたと仰っていたが…。三種の神器を何故、橙の民が集めようとしているのか分からないと言っていたな。」


すると、椅子の向こうからは、大きなため息が聞こえた。


「ミストちゃん、歴史が知りたくて、古文書を読むのは確かに常套手段…悪い手ではないわ。でも、歴史を知るにはもう一つ有効な手段があるの。…童話がね。」


「童話…?」


「そう。童話に描かれている内容は、子供向けのいわば“戒め”がほとんどよ。童話を読めば、当時の風潮が分かると思うわ。もう廃盤になってしまって、どこにも売ってはいないけど、ある童話に橙の民の力について描かれていた。私はその童話を読んで、橙の民と神の力と三種の神器の関係を知ったの。」


その言葉が合図と言わんばかりに、ロシェは懐から一冊の絵本を取り出し、机の上に置いた。

ところどころ傷んでおり、タイトルもはっきり読めない。表紙には子供向けのイラストが描かれている。

パラパラとページを捲ってみると、ミストは最後のページに三種の神器と思われる品と、それらを手に持つ橙の民のような橙色の髪の者が描かれているのを見つけた。


「神は力を神器に封じ込めました。またいつの日か、橙の民がこれらの力を持てる日が来ることを信じて、…最後のページに描かれているのは大体こんなこと。この童話を読めば、橙の民が神の力を取り戻すため、神器を狙うのは、容易に想像ができるでしょ。」


椅子からの声は童話の内容を全て暗記しているのか、スラスラとミストの開いたページの内容を言う。


「なるほど…中々面白い話しだ…それでは、火山の国の軍師殿。あなたの考えを是非お聞かせ願いたい。橙の園へはどのように攻めるのが上策か?」


未だに納得のいっていないミストを後目に、アカンサスは朗笑し問う。

普段は見せない姿に、ミストは驚きの眼をした。


「まず、南から攻め、そのすきに北と西から攻め入りましょう。囮は私たち、火山の国がやります。構わないわよね?ロシェ。」


「…仰せのままに」


「さぁ、これで全てが決まったな。」


恭しく椅子に向かって一礼するロシェを見て、アカンサスは立ち上がり、部屋から出て行った。

ミストもそれを見て、慌ててアカンサスに続いた。




「アカンサス殿!」


馬車の止められている小屋に続く、長い廊下。

ミストは先にそこへと進んでいたアカンサスを呼び止めた。

アカンサスは不機嫌そうに足を止める。


「何故、火山の国の軍師の正体を聞かず、そのまま帰ろうとするのですか?」


「…これだから、小娘は困る。」


ミストはアカンサスの性格をよく知っていた。

疑惑に関して何も解決しようとせずに放置するなど彼らしくなかった。

ミストの問いに答えず、アカンサスは再び馬車へと向かう。

御者がそれに気づいて、馬車の乗り口を開けたとき、アカンサスは足を止め、後ろを見ずに独り言のように呟いた。


「…一つ、教えてやろう。火山の国のジルベル王には、実の姉がいる。数十年前、愚王が地下牢に閉じ込めた哀れな姉姫がな。」




出陣の時は来た。

火山、草原、大海の連合軍 対 橙の園。

強大な連合軍を相手に、橙の園はどのような行動を見せるのか。





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