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神童の怒り

橙の園にある、屋敷。

そこにある一際豪華な扉の先には祈祷室があった。

祈りを捧げているのは、10歳ほどの巫女シナト。

橙色の髪を肩の高さで切りそろえ、きらびやかな着物や宝石を身に着けていた。

シナトを中心にして、円形に六つ等間隔に燭台が置かれている。

シナトが目を閉じて、何かを呟くたび、蝋燭の炎が呼応しているように揺れた。


「…。」


ふと、瞳を開け立ち上がる。

控えていた男がそれに気づいた。


「巫女、如何なさいましたか?」


男の名は、ウラガン。

巫女の側近である。


「…近いうちに、侵入者がやってきます。あれは…緑髪…草原の国の…女。」


先ほど見えたであろう光景をゆっくりと、ウラガンに伝えた。


「この者は、たくさんの仲間を殺します。ですが、最後にはハヤテによって殺されます。」


シナトは予知能力を持っていた。たびたび未来に起きることを予見していた。

橙の民たちの中でも、シナトの能力はずば抜けており、神の再来として崇められていた。

彼女の才能を発見したウラガンは、その時から、彼女の側近となった。


「…分かりました。ハヤテにそのように伝えておきましょう。」


ウラガンは深々とお辞儀をし、いったん祈祷室から出て行った。

シナトはウラガンが出ていくと緊張の糸が解かれたのか、その場に座り込んだ。

手足が震えている。

彼女は一人で、声を押し殺すように、泣いていた。




草原の国の城内。

まもなく、日が暮れるため、窓から西日が差し込む。

サイプレスは一人静かに赤く染められた廊下を歩いていた。

目的地はスリジエの部屋。

呼び出されるのは、いつものことだが、先日の橙の民の侵入から、スリジエは何処かピリピリとしている。

何かに怒っているような、そんな危険な雰囲気を持っていた。


コンコン


扉の前で一度呼吸を整えてから、ノックを二回する。

すぐに返事がきたので、サイプレスはゆっくりと扉を開けた。

スリジエはポットを右手で持ち、机の横に立っていた。

机上には、ティーカップが二つ置かれている。

その間には、何も入っていない菓子皿が。


「やあ、いらっしゃい。サイプレス。」


スリジエはそういって彼女に、椅子に座るように促した。

普段なら、適当な理由をつけて断っているが、今日のスリジエはどこか怖い。

逆らわず、素直に腰かけた。


「確か君はミルクたっぷりで、砂糖が少なめだったよね。」


「はい、よく覚えてらっしゃいますね。」


「君に紅茶を淹れるのも、数えきれないほどになったからね。紅茶を御馳走する人の好みはきちんと覚えておきたい主義なのさ。」


サイプレスの目の前で、怪我した右手をかばいながら、慣れた手つきで紅茶をいれる。

普通、給仕はメイドの役目なのだが、スリジエは自分でお茶を淹れることが、とても好きだった。

サイプレスもたびたび御馳走になっている。

スリジエの淹れた紅茶を一口飲んで、聞いた。


「王子、御用件は何でしょうか?」


サイプレスの目の前に座り、紅茶の香りを楽しんでいたスリジエは、微笑み、机上の何も乗せられていない菓子皿を指さす。


「お菓子がね。無くなってしまったんだよ。だから、取ってきてくれないかな。不味くても構わないよ。橙色のお菓子を取ってきて。」


にっこりと微笑むスリジエをみて、サイプレスはその心中を読み取る。

部屋に入った瞬間に感じた、危険さと怖さはこれかとサイプレスは思った。


「かしこまりました…では、今夜にでも王子にご満足のいただけるものを。」


「僕だけが満足するものじゃない。…僕も、ローレルも、父様も。皆が満足するそんな結果を待っているよ。」


サイプレスは部屋を出て、自室へと急いだ。


「…王族の絆って、これほどまでに恐ろしいものなのかしら…。」


ぽつりと呟き、“サイプレス”と書かれた部屋の扉を開けた。



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