月夜の凪
ある日、大陸にある三つの国、大海の国、草原の国、火山の国を大過が襲った。
橙の民という神から加護を受けた者たちが起こした戦争は、各国の王子たちによってことなきを得た。
しかし、火山の国の親衛隊長を務めたサラン、そして、草原の国の宰相を務めたゲイル。
知力に長けた二人が何故、成功率の作戦に手を出さなくてはいけなかったのか…。
月明りの美しい夜。
大海の国の牢から釈放された者がいた。
ゲイルとサランの二人だった。
普通、三大国のうち一つでも敵に回した者は重罪人として罰せられる。
しかし、二人は国民には危害を加えなかったため、三大国の頭脳三人。ミスト、ジルベル、スリジエの三人が色々と手をまわし、情状酌量となったのだ。
大海の国の国境付近までついた時、ゲイルは大海の国の城を見上げ静かに礼をした。
サランも慌てて礼をする。
自分たちの行ったことが間違いだったということは、二人ともよく理解していたが二人―特にゲイルの顔はあまり思わしくなかった。
「ゲイルさん、顔色が優れないみたいですが…大丈夫ですか?」
「…あぁ、俺は大丈夫だ。だが…。」
ゲイルの言わんとしていることを理解してかサランは唇をかみしめる。
「今、あそこに戻ったら…今度はあいつらが何をしでかすか…。」
橙の民の仲間の顔を思い浮かべ、ゲイルはぽつりと呟いた。
月が雲に隠れ辺りは暗闇に包まれた。
再び月が現れたとき地面に映し出された影は三人分あった。
ゲイルは一瞬警戒したが、その正体が自分たちのよく知っている者だとわかると安堵し、笑顔を作った。
「ここまで迎えに来てくれたのか?ツムジ。」
三人目の影の名はツムジ。橙色の髪をお団子でまとめた年若い女性だ。
橙の民の民族衣装に身を包み、身の丈以上の大鎌を携えていた。
「こんばんは。ゲイルさん、サラン。」
サランよりも年下であろう女性はサランを呼び捨てにする。
上司なのだろうか。
「さようなら。」
先程までと何ら変わらず、にこやかにツムジは大鎌を振るった。
反射的に避ける二人。
「いきなり何を…!?」
ツムジは表情を崩さず、虚を突かれたゲイルめがけて大鎌を振り下ろした。
血が飛ぶ。
ゲイルの首が消えていた。
「ゲイルさん…?」
サランは茫然と、その場に立ちすくんだ。
ツムジは下から救い上げるように、サランの心臓へと刃を運んだ。
血を吐くサラン。
影は一つに減っていた。
辺りは血に溢れる。
ツムジの服も汚れていた。
ツムジは汚物を見るような瞳で、ゲイルとサランだったものを見つめた。
大鎌を薙ぎ、血を振り払う。
「我らが神を裏切った。我らの神の期待を裏切った。許せないよ…ゲイル。」
転がっていたゲイルの首を持ち上げる。
サランのほうもみたが、一つ鼻で笑うと夜の闇へと消えていった。