ジンジャーブレッドの誓い
だが、ゲルベルトはなおも嫌味な表情を向ける。
「だといいがな、君とブラッククラッカーには、随分と資金をかけているからな。……無駄にはしないでくれよ。
君たちに特別に用意した、賓客用の客室もだ。せいぜいゆっくりとくつろぐがいい、その分、本番では働いてもらうからな」
「くっ!」
ジンジャーブレッドは小さく舌打ちし、ゲルベルトに背を向けた。
「ご厚意には感謝するが……、ここからは俺は一人で開催地まで向かう。ここのベッドやソファーは柔らかすぎる、長く居れば身体がなまりそうだからな。
ブラッククラッカーは持って行くぞ、今のうちに、軽く肩慣らしさせてもらう」
、対するゲルベルトは、背中越しにジンジャーブレッドに言い残す。
「好きにするといい。――だが、宙域座標『SC―899CW』には近づくなよ。小型機用のワープ地帯であり、ここからだと一番の近道であるが、迂回して行け。……どの道、そこまで遠回りになることはないだろう」
それを聞いているか、聞いていないか分からない様子でジンジャーブレッドは、会長室から去った。
一人となったゲルベルトは、乱暴に鼻を鳴らす。
――ふん! いい気になりおって! ……まぁ構わん、最後に笑うのは、この私だからな――
彼はワインを再びグラスへと注ぎ、それを口につけた。
ジンジャーブレッドは、一度、自分達に用意された客室へと、戻って来た。
「只今戻りました。身体は……大丈夫でしたか?」
客室のベッドには、彼の父親と思われる、老人が治療用ベッドに横たわっていた。身体につながるチューブの先には、幾つもの点滴や栄養剤がぶら下がっている。
老人は、呼吸器のせいで聞き取り辛いが、何かを言った。ジンジャーブレッドにはそれが、聞き取れるようだ。
「……問題はなかったみたいですね、それは良かった。
私は、散々なものだ。あのゲルベルトめ……、レースについて何も知らないくせに、言うことだけは一丁前だからな」
再び、老人は何かを言う。
「確かに、嫌な人間ではあるが、奴がいなければ……私はこうして居ることはなかった。それに約束もある。もし優勝すれば……再び正式なレーサーとして、宇宙レースに復帰出来ると」
ジンジャーブレッドは老人の様子を確認した。
「……問題は、ないみたいですね。貴方を置いていくのは少し心苦しいですが、私は先にブラッククラッカーで開催地に向かう。いつまでもあの男の傍にいるのは、御免ですから」
老人は、小さく頷く。
「では、行って来ます。貴方のために――そしてジンジャーブレッドの名にかけて、私はレースに勝利してみせます」




