伝説への挑戦
〈へぇー、透明に澄んだ……綺麗な青空……。それに、こんなに広い空は初めてね、とても素敵じゃない? シロノ?〉
ツインブルーの広大な無風地帯、クリムゾンフレイム、そしてホワイトムーンは、無風地帯の巨大な空を飛行している。
「ええ、それは私だってこの景色は、もちろん素晴らしいと思いますよ?
しかし……、まだこうして、通信を繋げているのですね」
通信ディスプレイには、相も変わらずマリンの顔が映っている。
〈あら? ついて来るように言ったのは、シロノじゃない? ……それとも、私の事が嫌い?〉
「いえ……そんな訳では、ありませんけど……」
〈なら別に問題ないじゃない! それに――――正面を見てみて〉
正面の景色、彼方まで広がる青空に、ぽつんと浮かぶ黒い影……。
それは二機の先を行き、首位に君臨するブラッククラッカーの姿だ。
「あのジンジャーブレッドの新しい機体、――ブラッククラッカー。ようやくここまでたどり着いた、と言う所でしょうか」
彼もレーサーとして、かつて伝説と呼ばれる程の活躍を見せたジンジャーブレッドに、一種の畏敬の念を持っていた。
――それが今、目の前に立ちはだかっている。さすがに私でも、気分の高揚を隠せません――
今こそ、あのジンジャーブレッドを超えられるかもしれない――。それはシロノ、そしてマリンも同じ感情だった。
〈こんなチャンス、逃さないわ! まずは先手必勝よ!〉
クリムゾンフレイムに残る、僅かな燃料。マリンはそれに勝利をかけ、機体を強く加速させる。
――やはり全力で行きますか。なら私も、ここで出し惜しみだなんて、している暇はありませんものね――
シロノは軽く微笑むと、ホワイトムーンの出力を、更に引き上げる。
ジンジャーブレッドの後ろから迫る、二機の機体。
その中の一機は、つい先ほど相手にした機体、クリムゾンフレイムだ。
――あの娘、あれから再び追い上げて来たか。あの時は乱気流に吹き飛ばされたらしいが、随分と立ち直りがいいものだ。やはり彼女には見込みがあるな。それに――
今度は、残りの一機、ホワイトムーンを確認する。
――ホワイトムーン……確か、あのシロノ・ルーナの機体だったな。やはり彼は、口先だけの青年ではなかったと言うことか。
ここまで追い上げたと言うことは、言うほどの実力は、十分にはあるようだ。さてと、残るは、私との決着だけだ。だが、決着の行方はとうに分かっている――
ブラッククラッカーとの神経接続は良好だ。
確かに接続に関しては、人間の感覚を機械につなげ、無理に拡張しているせいで、多少なりの負担がない訳ではない。
しかし、このシステムを使いこなすことでジンジャーブレッドは、現役時代において常勝無敗を誇っていた。
そして今回も……例外ではないはずだ。
「……シロノ」
親善試合は遂に大詰めを迎える。
フウマは映像に映るホワイトムーン、クリムゾンフレイム、そしてブラッククラッカーの決戦を前に、一言そう呟いた。
〈ふっ、いよいよこの親善試合、最後の決戦ね。まるで、本番のような白熱ぶりだわ〉
別画面のレイは、レース終盤の解説を、行っている。
〈ゴールまであと僅か、それに無風地帯だけあって、随分と眺めの良い景色ね。今まで惑星のガス気流で、ほとんど様子が分からなかった状態とは、大違い。
うんうん、まさに試合最後の決着の場としては、これ以上ないくらいに相応しいじゃない〉
リオンドもそれに頷く。
〈ああ。そして……マリンにシロノ、首位にジンジャーブレッド、か。ふむ、ここは……順当、と言うべきか〉
〈あら? リオンドさん、そうでもないんじゃないかしら? だってジンジャーブレッドを相手にあの二人、あそこまで迫っているのよ。特にマリンなんて、さっきもジンジャーブレッドに迫っていたじゃない。私、正直あの娘ならやるんじゃないか、って思っていたのよ〉
〈ふむ、解説で一選手を贔屓するのは、少し感心しないな〉
〈まぁまぁ、少しは多めに見てよ。それよりも……ようやくここまで来たのよ。どう決着がつくか、まさに見所よね!〉
そんな解説は聞こえはするが、フウマはそれを意に介してはいなかった。
そう、三機はゴールまで後僅か。決着は、間もなくつく。
今回の彼は観客として、レースの行方を見ているくらいしか出来ない。
――けど、ここで簡単に負けないでくれよ。たって、僕の一番の、ライバルなんだから――
それでも、こうして誰かを応援している。こうした立場になり、そんな気持ちになれたのは、もしかして初めてかもしれない……。そう思うフウマであった。




