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テイルウィンド  作者: 双子烏丸
第三章 新たな強敵達
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二人の時間

 フウマ、そしてミオの二人は、いきなり同行者が二人も居なくなったことに戸惑い、しばらくキョトンとする。

「結局……私たち二人だけになっちゃったね、フウマ」

 最初に口を開いたのは、ミオの方からだった。

「……そうだね。でも、まぁ……よくある事だしね。大体、テイルウィンドの修理やメンテなんかも、僕たちでするじゃないか?」

「でも、こんな素敵な場所に二人で来れるなんて、そうないでしょ?

 ……ほら見て! 星が、あんなに大きく見えるなんて」

 ミオが喜々として指さす先には、宇宙に青く輝く二重惑星、ツインブルーの巨大な姿がある。

 ドームにうつる大迫力のこの光景は、まさに絶景の一つだろう。

「へぇ、確かに。こんなの僕も初めてだな」

 フウマも、これには少し感心した。

 ――思えば、レーサーとしてあちこち回ったけど、こうした形では初めてかも。そして――

「ほら。ちょうど席も空いているし、一緒に座ろ?」

 彼女に言われるまま、フウマは会場に並ぶ観客席に座る。

「観客席でレース観戦か。これも……僕には初めての体験だね」

「いつもフウマは、レースをする側だったものね。ウィンドボードをしていた時からずっとそう。『見ているだけなんて退屈だ』ってね。

 でも、私は見ているだけでも良いと思うわ。それだけでもとても楽しいし…………フウマとテイルウィンドの応援だって出来るもの」

「応援って、僕の?」

「ふふっ、他に誰がいるって思ったの?」

 ミオはさらに、こう続けた。

「私に出来るのは、テイルウィンドの修理。レースが始まれば……応援すること。……少しでも、私はフウマの力になりたいから」

 とても真っ直ぐな、初めて聞く彼女の告白。

 フウマ自身、長い付き合いでそうした思いは幾らか察していたつもりだったけれど、それを直接聞くのとでは大違いだ。

「えっ! ミ、ミオってば?」

 そんな風にどぎまぎしているフウマに、ミオは悪戯っぽく言ってみせる。

「もちろんよ。だって、私とフウマの仲じゃない」




 レースが始まるまでには、まだ少しかかりそうだ。

 売り子の声が聞こえてくる。

「飲み物はいかがですかー。爽やかなラムネや甘いジュース……。一本たったの3UCユニバースクレジット、レースの観戦に、ぜひどうぞー」

 フウマ達の所にも、売り子がやって来た。

「お二人さんもどうですか? お勧めですよ?」

 持って来た金銭には余裕がある。せっかくだから、何か頼む事にした。

 さっき売り子で言ってた『ラムネ』、そんな飲み物は初めて聞いた。少なくとも、エアケルトゥングではラムネなんて聞いた事はない。

 ――このラムネって飲み物、何だか気になるな――

 そんな好奇心を、フウマは抱く。

「なら、ラムネを二本貰うよ」

「ありがとうございます。ラムネ二本なら6UCです」

 フウマは言われた通り料金を払うと、ラムネを二本受け取った。

 それはガラス瓶に入っている、水色の液体だった。上の部分は、キャップシールで隠されている。

 彼は自分の分を一本、手元へと置く。

「ほら、ミオの分。喉が渇いただろ?」

 そしてもう一本のラムネを、ミオへと渡す。

「ありがと、フウマ」

 彼女に渡し終えると、フウマは改めてラムネを見た。

 どんな物か早速飲んでみようと上のシールを剥がすと、妙な形のラムネの口に、緑のキャップが付いていると分かった。

 ――えっと、普通にキャップを外せばいいのかな?――

 こう考えてキャップに触れると、それは呆気なく外れた。

 しかしラムネの口はキャップとは別に、何か透明なもので塞がれている。

「あれっ、おかしいな? どうしてこうなってんだ……?」

 フウマがそう呟きながらラムネを目の前に持ち上げていると、それを見ていたミオが可笑しそうにしている。

「プププっ、フウマってば……。ラムネの開け方、もしかして知らないの?」

「えっ?」

「見てて、開け方を教えてあげる。まずキャップの外側をこうして外して……」

 ミオはキャップの外側を外す。そして内側の突起を、ラムネの口に押し込む。

 するとプシュッと軽い音とともに、口を塞いでいたガラス玉が、ビンの中へと落下した。 

 いとも簡単にラムネを開けたミオは、さっそくそれを口をつけた。

「うん! とても爽やかで美味しい! フウマも開けて、飲んでみて」

 フウマもミオと同じように、ラムネの口にフタの突起を押し込む。

 その瞬間、さっきよりも大きなブシュっと音を立てて、すごい勢いで中身が噴き出した。

「ぷっ!!」

 噴き出したラムネは、フウマの顔にかかる。

「フウマってば、ぷぷぷっ……気を付けないと」

 ミオは思いっきり、吹き出しそうになるのを堪えていた。

 一方で顔にかかったラムネを拭きながら、若干不機嫌そうに呟く。

「むぅっ、他人事だと思って」

「まぁまぁ、とにかく美味しいんだから、フウマも飲んでみて」

 そう勧められるまま、フウマもラムネを飲む。

 すると、さっきまでの不機嫌さが、嘘のように消えた。

「……! ミオの言うとおり、爽やかな味だね。こんなに美味しい飲み物、初めてだよ」

「味が気に入って、良かったねフウマ。……ほら? こうしているのも、悪くないでしょ?」

 フウマの傍で、ミオは微笑ましそうに頬をつく。

 そんな中、フウマは何か変な気分になる。

 ――やっぱり彼女の言う通り、こんな事はそうないよね。それに、ミオと今こうしていると、何だか落ち着くって言うか、心地いいって言うか――

「どうしたの? そんなにジロジロと私を見て? ……少し照れちゃうな」

 ちょっと顔をうつむけて、僅かに照れながら上目づかいで彼を見ているミオ。そうしている姿は、何故か少しだけ、色っぽく見えた。

 フウマはドキッとした。

 ――そう言えば、僕とミオの関係って? 幼馴染? 親友? 確かにその通り。けど他にも、もっと何かあるような……。もしかして…………恋人とか?―― 

 フウマはこう考えた瞬間に、思わず顔を赤らめる。そしてそれを誤魔化そうと、すぐにミオから顔を背けた。

「ふふふっ、何だか今日のフウマは、とても変ね」

 彼のそんな様子に、ミオは不思議そうにしている。

 軽く深呼吸して、何とか気持ちを落ち着けてから、フウマは改めて、考えを深く巡らす。

 ――でも正直、僕達の関係は、そう考えても不思議じゃないよね。自分で言うのも何だけど、それなりに……親密な訳だし。むしろ逆に、今までそうならなかった方が不思議かも。そもそも、僕がレースにばかり、熱中していたからかな。だとすると、ミオには悪い事をしていたかも――

 そこまで考えると、フウマは慌てて首を横に振る。そして更に考え込む。

 ――いや、まだミオがどう思っているか、全然分からないじゃないか。けど少し前に、何か思わせぶりな事を言ってた気が……。ええっと……やっぱり考えるだけじゃ分からない、この機会だし、直接ミオに聞いてみようか――

「あのさ……ミオ」

 そうフウマが話掛けようとした時、後ろから何者かの声が聞こえた。

「――まさか、こんな所でテイルウィンドのパイロット、フウマ・オイカゼと会えるなんて……実に光栄だね」


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