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テイルウィンド  作者: 双子烏丸
最終章 レースの決着
178/183

誰よりも強く……

 ――――


〈さぁ! もうすぐG3レースのフィナーレだわ! トップに立つのは、フウマのテイルウィンド、シロノのホワイトムーンにそして……ジンジャーブレッドのブラッククラッカーの三機!〉

 最後と言うことで、司会のレイはいつもよりずっと、テンションを上げていた。

 別モニターで映し出されるのは、サファイア上空を飛行しゴールへと迫る、レース機の姿が見える。

 対して実況のリオンドもまた、感嘆の表情である。

〈――互いに譲らず、三機同時に互角の勝負、凄まじいデットヒートだな。だが――ジンジャーブレッドは、もう〉 

 そう。彼の言う通り、ジンジャーブレッドはすでに、失格となっているのだが――

〈それは本人だって、分かっているはずよ。でも、…やっぱりジンジャーブレッド。本当に見事な、レースをしているわね〉

〈ああ。まるでかつての……現役の頃のようだ〉

 二人はジンジャーブレッドのその姿を、まじまじと眺めていた。



 そしてリオンドはこうも、続ける。

〈だがフィナのアトリと、リッキーのワールウィンドもまた、追い上げを見せている。

 あのペースではもしかすると、ゴール寸前にはもしかすると……そして〉

 もう一機、先頭の三機に向かい、超高速で向かい来る、真紅の機体――。

〈あれはマリンの、クリムゾンフレイムね! 親善試合や前半戦で見た、あの加速機構を、最後に使ったって訳ね!〉




 六機と、六人のレーサー、誰が勝ってもおかしくない。

〈とにかく、間もなくG3レース、ついに決着ね。

 ここまで長かったけど、それももう終わり――。どうか最後まで、見守りたい所ね!〉

 レイはそう締めくくり、クライマックスを見届けることにする。



 ――――


 レースの観客は、半透明の円天井が広がる、会場にいた。 

 オーシャンポリスの、見晴らしの良い高層建築物の頂上に位置する、この会場。

 モニターも表示されているが、そのモニターを介することもなく、丸天井を介して空には――飛行して接近する六機のレース機が、直接目に見える距離にあった。

  


 対決しながらも、ゴールに迫る機体の数々。……テイルウィンドもまた、その中にあった。

 ――フウマ――

 会場の観客席で、レースの結末を見守っていた、ミオ。

 あれから彼女は、観客として再びレースを、こうしてここで観戦していたのだ。

 ――今さらかもしれないけど、凄いな。だってあんなに、立派なレーサー達を、相手にしているんだもん――



『白の貴公子』ことシロノ・ルーナと、常勝無敗の伝説を持つレーサー、ジンジャーブレッド。

 最もジンジャーブレッドはオリジナルのクローンであると言うが、そんな事はどうでもいい――重要なことじゃない。 なぜなら彼はもはや、実力そして信念ともに、あの頃のジンジャーブレッドに勝るとも劣らないものであったからだ。

 


 他にも、マリンにフィナ、そしてリッキー……彼女らもまた、素晴らしいレーサーだ。

 そんなレーサー達を相手に、こうして対等に渡り合っているフウマ。今さらながら考えると、彼もかなり凄いのだ。

 ――やっぱりこうしているフウマが、一番格好良いんだ。 ……そして、最後まで誰よりも、応援してる。だって私もフウマの事――宇宙一、大好きなんだから!――

 ゴールは、もう間もなく。ミオはいつものように――いや、いつもよりもずっと、フウマの事を強く想っていた。




 ――――


 ――海上都市、オーシャンポリスの全景が視界いっぱいに見える。

 そして、ゴールとなる黄金のリングは、モニターに大きく迫る。

 

 ――後一歩、ジンジャーブレッドさんより、シロノよりも一歩先に行ければ――

 

 ここに来てまで、テイルウィンドは未だ二人と同列のままだった。

 優勝の座は一つ、誰よりも速いと言う事に証明のために……ここで退くことは出来ない

〈ふっ――ここまでやるとはな、フウマ〉

 通信で、ジンジャーブレッドは語りかける。

「まあね! だって、ゴールする瞬間まで、諦めないしさ!」

〈威勢はいいな。……だが、私とて!〉

 

 

 次の瞬間、ほんの僅かだが、ブラッククラッカーがテイルウィンド、ホワイトムーンよりも先に出た。

「――くっ!」

 フウマはしてやられたと言うような表情、そしてシロノも――。

〈まさか、ここまで来てだなんて……やはり伝説のレーサーと、言うことでしょうか〉

 二人は心から悔しがっているが、ジンジャーブレッドの首位には、もはやG3レースそのものの公式の結果としては、何の意味を持たない。

 だが、この瞬間、そんな事はフウマ達にとってどうでも良かった。

 今彼と、こうしてレースをしている。ただそれが全てだった。


 、

 

 しかしシロノもまた、負けていられないようだ。

〈確かに、ジンジャーブレッドさんには尊敬ですが、私もまだ――〉

 と、まさにそんな時……

〈――来たわよ、シロノっ!〉

 威勢の良い声とともに、後方から高速接近する――クリムゾンフレイム。

〈なっ! マリンまで!〉

〈言ったでしょ? 優勝とシロノ、両方とも手に入れるって!

 ここまで来たんだから、頂くわよ!〉

 マリンだけではない、クリムゾンフレイムのすぐ後ろには、フィナのアトリに、そしてリッキーのワールウィンドまでいた。

〈さて、と、私も最後の最後まで諦めませんから!〉

〈右に同じく! それにフウマ……随分と成長したみたいだが、俺もまだまだ行けるぜ!〉


 

 ――結局みんなまとめての、クライマックスってわけか――

 六人とも、一気に集結しての、大勝負。だが今一番の相手は……

〈フウマ! ここで決めてみせますよ!〉

 ジンジャーブレッドが先頭に立ち、二位はフウマとシロノの二人。

「ふっ、結局良い所は、シロノと争うわけか。さすが、僕のライバル!」

〈ライバル……ですか〉

 シロノはフッと笑い、そして言った。

〈いつのまにか私も、フウマとのこうした関係が……ずいぶん、楽しむようになっていた気がします。

 やはり競い合う相手がいてこその、レースですね。ですが――今回も、私が勝たせていただきますよ〉



 フウマと――シロノ。

 二人は長い間、レーサーとして競い合って来た。

 フウマが一方的にシロノを、ライバル扱い。何度も、何度も二人は勝負を繰り返し、それでもフウマは一度も、シロノに勝てた事がなかった。

 ……だが、今のフウマなら――。



「確かに、これまではシロノに、負けっぱなしだったさ。

 けど――今の僕なら!」

 そしてフウマは、刹那の瞬間で、テイルウィンドをフルスロットル! ついにホワイトムーンよりも、先へと越した。

〈……つっ!〉

 シロノの予想よりも、腕の上がっていたフウマ。まさかの

追い上げは、彼にさえ思いもよらなかった。


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