表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
テイルウィンド  作者: 双子烏丸
最終章 レースの決着
175/183

接戦と、アクシデント


 先頭を飛行するのは、やはりテイルウィンドとホワイトムーン。

 ここまでずっと、一対一の接戦を繰り広げていたわけだ。

「やっぱり、一番のライバルは……シロノってわけかよ! 

 フウマは今までにないくらいに集中し、真剣な様子でレースに挑んでいた。

〈そう言う事、ですね。やはりこうしてライバルがいるのは、良いものです!〉

 対してシロノは、いつもの余裕の表情。

 ……かに見えたが、彼もまた、手加減は一切なしの全身全霊でフウマに挑んでいた。

 どちらも出せる限りの力を以て、勝負を繰り広げているさ中だった。


 

 そして、何かを思い出すかのように、少しように懐かしい様子でシロノは続ける。 

〈そう言えば、フウマとの付き合いも長いものですね。あれから……どれくらい経ったでしょうか〉

 フウマもまた、思い出すかのような様子で、返事を返す。

「うん。――たしかに、もう何十回も、レースで勝負をして来たからね。

 あれから僕も、ずいぶん成長したのかな」

〈――ふふっ、初めの頃はまだまだ、未熟ではありましたね。

 丁度その時も、こうした感じの、海の多い星でのレースでした。……確かに腕の良い感じではありましたが、それでもトップの私には遠く及んでも、いませんでしたしね〉 

 それに、フウマはかつての自分を思い出す。

「はっきり言うじゃないかよ。けど、その時から僕は、シロノをライバルにしようと決めた。

 圧倒的に差をつけて、それでも余裕な感じでゴールしてさ、悔しいけど……格好いいとも思ったんだ。

 思えば、あれからずっと、何だかんだシロノの背中を追いかけてた気がするよ」




 ――そう。フウマとシロノとの関係は、思えば長かった。

 何度も二人は、ともにレースで競い、勝負を繰り広げた。

 元よりそれなりの腕と才能はあるが、まだまだ未熟なフウマと、彼よりも高い実力を持ち既に完成された天才レーサー、シロノ。

 二人のレースでは常に、勝利していたのはシロノの方。

 フウマは口惜しい思いを重ねて来た。……が、何度も敗れながらそれても確実に、その度に自分の腕を磨き、レーサーとして成長していた。




 この長い積み重ねがあって、今のフウマはここにいる。

 シロノがいなければ、決して、ここまで来れなかった。

 プロレーサーとしてのフウマがいるのは、彼と言う――ライバルがいたからこそ。

〈……レーサー冥利に尽きますね。そう言われると、私も嬉しいものです〉

 薄く微笑み、シロノも良い表情を見せる。

「たしかに、最初の頃は僕もまだまだだったさ。でも……昔よりはちゃんと、成長しているんだ。

 それを――見せてみせるよ!」

 フウマはそう言うと、操縦桿を瞬時に動かす。

 それに呼応するかのように、テイルウィンドは俊敏な動きで、ホワイトムーンの右上へと高速移動し、そして――。




〈くっ!〉

 ホワイトムーンを追い抜いた、テイルウィンド。

 ――これで僕が、トップだね。後はこのまま――

 だが、フウマがそう考えていた、その瞬間に……同時に一機の黒い影が、更にテイルウィンドを越して行った。

「あれは――!」

 


 その姿は――そう、ジンジャーブレッドのブラッククラッカーだ。




 ―――

 驚いたのは、シロノもまた同じであった。

 ――まさか、ジンジャーブレッドがここまで――

 ジンジャーブレッドは、すでにボロボロであった。その事はシロノも、よく分かっていた。

 ……なのに、それでも彼は、再びG3レースのトップに上り詰めた。

 ――あなたも、そこまでして、レースを――

 彼の熱意はシロノにも、十分伝わっていた。

 ――分かりました。では私も……最後のスパートをより一層――



 が――そんなシロノの、ホワイトムーンの真横に真紅色の機体が並ぶ。

〈ふっ! ジンジャーブレッドばかりに、気を取られているからっ!〉

 通信では、マリンの勝ち誇った様子がうかがえた。

「まさか、マリンまでも、こうして!」

〈そりゃもちろん! だって、私だって――勝ちたいもんね!〉

 更に次の瞬間には、クリムゾンフレイムも続けて、ホワイトムーンを越して行った。

「マリンっ!」

 気持ちよさげに、カラカラと笑う。

〈フウマくんもだけど、私だって成長してるって訳! このまま彼も追い抜いてみせるわ〉


 

 先を行くクリムゾンフレイムは、今度はそのままテイルウィンドへと向かう。

 ――私も、負けてられませんね!――

 シロノはホワイトムーンを駆り、先を行く二機と、そしてトップのブラッククラッカーへと迫る。



 ――――


 迫りくる、クリムゾンフレイムとホワイトムーン。 

 二機はそれぞれ、テイルウィンドの左右について、並ぶ。

〈やりますね! フウマ! しかしまだ終わりませんよ!〉

〈私もね! あと少しだけど、諦めないんだからっ!〉

 これには、フウマも舌を巻く。

「二人とも、やっぱりやるね。――たしかに、もう残りは僅かだしね」

 見ると、前方に見えるオーシャンポリスの姿は、大きくなっていた。

 それにトップを飛行する、ジンジャーブレッドにも、三機は次第に迫る。

 G3レースも、もう後僅か……。

 ――二人もだけど、ジンジャーブレッドの決着だって。

 ……ふっ! 今の僕とテイルウィンドなら、これくらい――

 そう、フウマにはまだ十分な勝算があると、考えていた。



 ――だが。



「……なぁっ!」

 

 突如、目の前の大海原から、丸々として巨大な、一匹のバルーンホエールが水飛沫を飛ばし――ザブンと宙に舞う。

 恐らく、群れから離れ、一匹のみで回遊していたのだろう……それが運悪く、レースのコース上へと現れたのだ。

 


 しかも――もう残り僅かの、最後の最後で。

 テイルウィンド、ホワイトムーン、クリムゾンフレイムの三機を塞ぐ、大きな影。

 ――く……うっ!―― 

 これには当然、フウマも回避を取る。……しかし。



  

 この突然な出来事に、唯一対応出来たのは、シロノのホワイトムーンのみ。彼はは上手くバルーンホエールをかいくぐり、引き続きジンジャーブレッドを追う事が出来たが……。

 対してクリムゾンフレイムはそのままでは間に合わず、、バーニアを逆方向に噴かせ、急ブレーキを行いどうにか避けようとするも、それさえ間に合わない。

 避けようとしたクリムゾンフレイムであったが、その機体の真横に、バルーンホエールの身体の一部がぶつかり、態勢を大きく崩した。

 それによりクリムゾンフレイムは、更に大幅に失速――。後続のワールウィンド、アトリにも先を越される。




 そしてフウマの、テイルウィンドもまた、クリムゾンフレイム程ではないが、回避の際に態勢が崩れ、速度もまた低下した。

 ……先を行くブラッククラッカー、ホワイトムーンには距離が離れ、最後になって差がつけられた。

 ――まさか、こんなことになるなんて――

 これで同列二位から、三位に下がる。

 すぐ後ろにはリッキーとフィナの機体と、更に後方にはマリンのクリムゾンフレイムが確認出来る。

 しかも先頭のブラッククラッカーとホワイトムーンが接戦中であるのに対し、フウマを含めた三位以降の四機の間には、大きい隔たりが生まれていた。

 ――こうなったら優勝は、結構厳しくなったかも。……残りの距離で、巻き返せるか!? ――



 

 もうゴールまで、あと少し。

 二機のさらに先に存在する、迫り来るゴールを前に、焦りを見せるフウマ。

 ここまで来て、こんなしくじりを犯すなど……。彼が強く焦燥感を感じ、モニターに目を移した、そんな時――。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ