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テイルウィンド  作者: 双子烏丸
最終章 レースの決着
168/183

それぞれの、葛藤

――――


 あれから再び、部屋で過ごしていたミオたち。

 確かに部屋は、居心地の良いものではあるが、状況が状況……気分は良くなれない。

 それぞれ、様子を伺いながら、今後を考えていた四人。すると――

〈やぁ。皆さん、調子はどうかな?〉

 再び、ジョセフからの通信が届いた。

「……何だ、またジョセフかよ。こうして人質とお喋りするのも、依頼の一つって訳か?」

〈くくっ、つれない事を言うなよ、ティナ。せっかく君たちに、いい情報を持ってきたと言うのにさ〉



 ティナの嫌味に、ジョセフは含み笑いをして、こんな事を伝えた。

〈レーサー達は、こちらの条件を呑んでくれた。

 であれば……こちらも事をこれ以上大きくするのは、望んでいない。条件通りG3レースに負けてさえくれれば、君たちはちゃんと、無事に帰れるとも。

 ……ま、そのまま帰すのは不都合だから、ここでの記憶は全部消させてもらうことにはなるけどな〉

 これには、周囲に動揺が走る。

 ――そんな。フウマが……私のせいで――

 自分が人質になったせいで、フウマがレースを諦めることになった。ミオはそれに、ショックを受ける。

「……ごめんなさい、兄さん」

「まさか、こうなるとは。リッキー、すまないな」

 アインも、そしてリオンドもその気持ちはミオと同様だった。

 また。ティナも言葉は発しないものの、悔しげな様子で、拳を握っている。

〈おやおやおや、せっかく無事に帰れると言うのに、あんまり嬉しそうではないじゃないか。

 ……まぁ、レースよりも君たちが、無事でいることが彼らの喜びさ。気に病むことはない〉

 確かに、ジョセフの言うとおり。

 レースの勝利よりも、大切な人の安全――。レーサー達もそれを望むからこそ、この選択をしたわけだ。

 それでも……やはり。

「……こんな終わり方、あんまりだよ」

 ミオは辛そうに、一人呟いた。




 ――――


 レースは淡々とすすみ、ついにジンジャーブレッドをトップに、最終目的地である惑星サファイアの大気圏を、降下する。

 ――ついにここまで、来たか。だけど――

 フウマは、寂しげに、目の前に広がる大海原を眺める。

 ――もう僕たちには、関係ない……か――

 もはや、レースをしているわけではない。

 こんなのは、ただの、猿芝居にすぎない。

 過ぎないのだが……。



 ――それでも、ちゃんと負けないと……ね。ミオの無事が、かかっているんだからさ――

 大切な人の、運命がかかっている。せいぜい約束は、果さなければ。

〈……フウマ〉

 すると通信で、心配そうに封魔に、通信を送るシロノ。

「シロノ、か。まぁどうにか……元気だとも」

 フウマはシロノに、無理に笑ってみせた。

 それに対して――

〈フウマってば、無理をして。やはりそんな様子を見るのは、辛いですね。……私も人のことは、いえませんけど〉


 

「無理をしているのは、お互い様……だろ」

 こう言っているシロノであるが、彼もまた、無理をしていた。

〈そんなことありません。……と、言いたいところですが、弟を人質にとられたら、こうもなりますよ〉

 彼も彼で、弟が人質に取られていた。やはり心配なのだ。

「まさか、こんな事になるなんて、さ。

 僕やシロノだけじゃない。リッキーにマリンさん、フィナだって同じように、大切な人をとられているんだ。

 ジンジャーブレッドさんだって――」

 正面に映るのは、単調な飛行を続ける、ブラッククラッカー。

「彼も、大丈夫……なのかな」




 そう気に掛けるフウマに対し、シロノは……。

〈……フウマはどうして、ジンジャーブレッドの事まで。

 ゲルベルトのもとでレーサーとして出場し、彼もまた、これに少なからず関与しているはず。

 なのに――〉

 シロノはジンジャーブレッドを、責めていた。

 そしてフウマがそこまで、彼の肩を持つのか、分からなくもあった。

「それは……僕には、言えない」

 だが、フウマはそれに、答えることは出来ない。

〈一体、どうして?〉

「ジンジャーブレッドさんと、約束したんだ。……誰にも

、このことは言わないでくれって」

 どうやら、理由は言えないようだ。

 シロノはそれに、仕方がないと言うように、諦めを見せる。

「でしたら……仕方がないですね。まぁ、今はそれどころでないことも、事実ですしね。

 ……この事は、忘れることにしましょう」

 彼にはこの事に追及する、余裕もなかった。



 そしてまた、フウマも……

 ――本当に、僕に出来ることなんて、ないな。……情けないよ――

 出来ることと言えば、レースに負けることくらい。それでも……仕方がない、やれることはそれしかないのだから。





 ――――


 レースの実況を行う、レイ。

〈さて、G3レースはいよいよクライマックス!

 トップを飛行するワールウィンドにアトリ、クリムゾンフレイムとホワイトムーン、そして二位のテイルウィンドと一位のブラッククラッカーの六機は、ついに惑星サファイアへと戻って来たわ! ついに、決着が間近に迫った感じね〉

 横のモニターには、サファイア上空を飛行する、六機のレース機の姿が見える。

 トップのブラッククラッカーが先を行き、残り五機が後ろに固まった感じ、である。

「小惑星帯での勝負は白熱していたけど、ここに来てからは順位に変動は……ない感じね。少し変な感じもするけど、これもレースだから、仕方ないのかもね」

 


 やはりレイも、このレースには違和感を持っていた。

 やや不自然なまでの、勝負感のなさ……。気になってはいるものの――。

 ――でも、司会である私が、変なことは言えないしね。

 ここは……どうにか、場を持たせないと――

 気にはなるが……自分の立場上、どうしようもない。

「……優勝に近いのは、ジンジャーブレッドね! でも、レースは最後まで何が起こるかわからないもの! どうか最後まで、楽しんで行ってね!」

 とにかく今は、自分なりに出来ることを、しておきたいレイである。




 ――――

 

 部屋にはモニターも置かれており、ミオ達もまた、レースの様子を見ていた。

 人質をとられた、レーサーたち。このままではジンジャーブレッドの、優勝になるだろう。

「このままだと、フウマが負けちゃう。どうにかして、脱出してこの事を知らせないとだけど……」

 ミオは部屋のあちこちに、視線を移す。

 ――あれから、部屋の天井床や、通気口、壁や床など、どこかに抜け道がないか全員で探した。……だが無駄だった。

 ジョセフの言うとおり、ここは特別室、逃げられないよう部屋は厳重に、固められていた。



 誰も彼も、もう半分諦めかけている、そんな様子だった。

「はぁ、せめて外部と連絡を取れれば良いんだが、通信機器も没収されてしまっている。これでは、な」

 リオンドの言う通り、元々持っていた通信端末など、外と連絡を取る手段はすべて取り上げられていた。

 一方ティナは苛立って、蒲団を被る。

「けっ! 本当にムカつくぜ! どうすりゃいいってのさ」

「僕も、タブレットを取られてしまったんだ。せめてもう一つ、万が一のために別の通信機でも、用意しておけば……」




 と、そこまで話していたら、ふと突然何かを思い出したような表情を、アインは見せた。

「そうだ! 確か僕は……」

 彼は何か言いかけようとするも、慌てて口を閉ざす。

「どうしたのさアイン、そんな様子をして、気になるぜ」

 ティナはその様子に、気にする様子を見せる。

 するとアインは、盗聴を警戒し、小声である事を伝えた。



「外との通信だけど、僕なら何とか取れそう……なんだ」


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