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テイルウィンド  作者: 双子烏丸
最終章 レースの決着
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人質

 時間は、少し前へとさかのぼる



「……うーん



「大丈夫……ミオさん」

 朧げな意識の中、誰かの声が聞こえる

 ようやくミオが目を覚ますと、そこは見知らぬ部屋だった。

「良かった! 長く眠っていたから、心配していたんだ」

 そう声をかけたのは、目の前にいるアインだった。

「あれ……アインさんも、どうして? それに、ここは……」



 辺りを見回すと、そこはホテルの一室のようであった。

 なかなかに豪華で立派な部屋であるものの、天井の四方には監視カメラのような物が、設置されていた。

 そしてそこには自分と、アイン、そして……

「おう! ようやくお目覚めだな。アインの奴、結構心配してたんだぜ」

「ピー!」

「全員目覚めたのは良かった。だが……今の状況は、相変わらず、分からないままだが」

 他にも、見覚えのある顔がいくつもあった。

 トゥインクルスター・シスターズのティナに、マリンのペットであるスノゥ、そしてリッキーの父親である、リオンド・マーティスまで。

「みなさんまで……。でも、どうして」

 目覚めたばかりもあり、ミオはきょとんと、何が何だか分からない様子。

「ハハハ! それは俺も聞きたいさ! 何しろフィナと別れて通路を歩いていたら、いきなり気を失って、気が付いたらこの部屋に閉じ込められていたんだからな。

 他だって、似た感じさ」




 そんな説明をする、ティナ。

「けど、こうしていないで、部屋から出ないと――」

 ミオは部屋の扉に向かい、開けようと試みる。

 ……が、扉は開く様子がない。まるで外側から、カギがかけられたみたいに。

「言っただろ? 閉じ込められたって。

 部屋としては快適な部屋なんだけどな。……こうして出られないのは、困り物だな」

 ティナは苦笑いして、ベッドに寝っ転がる。

「……はぁ、君は緊張感が、ないのだな。我々は一体どうなるか、分からないと言うのに」

 リオンドはそう言うも、彼女は相変わらずベッドでぐでーっとなっていた。

「そう焦ったところで、どうにかなるわけでもないだろ。せっかく良い部屋にいるんだから、ゆっくりくつろいだ方がいいさ」




〈さすがティナ、ずいぶん肝が据わっているじゃあないか〉

 すると、どこからか誰かの声が流れて来た。

「……部屋の中に、スピーカを仕掛けているのか。でも、一体どこから」

 アインはそれを探ろうと、試みるが……

〈くくく……この部屋は普段はただのホテルの一室だが、いざと言う時のための、特別室でな。スピーカー以外にも、様々な監視機器なんかが内蔵されているって訳だ。

 さすがゲルベルト重工のクイーン・ギャラクシー号だ、妙な所は凝っていると来た〉

 どうやらミオ達が閉じ込められているのは、豪華客船、クイーン・ギャラクシー号の一室らしい。

 ――豪華客船の部屋なら、大声で助けを求めたら誰かが――

 ミオはそう考えたが、途端に……。

〈おっと! 大声を出そうとしても無駄だとも。音が外に漏れないように、防音機能も万全にしてあるからな〉

 そんな事を、自慢げにしゃべる声の主。しかし……

 ――でも、この声は、どこかで聞いた気が――

 


 その声に、どこかで聞き覚えがあるミオ。

 更に、どうやら覚えがあるのは彼女だけでは、ないらしく……。 

「……おい」

 するとさっきまでベッドで横になっていた、ティナが起き上がり、口を開いた。 

〈ん、どうしたのかな? オジサンに答えられる質問なら、嬉しいんだけどな〉

 やはり、聞き覚えのある口調。もしや――。

「何の冗談だ。……随分と粋なマネをするじゃないかよ。え! ジョセフさんよ!」




 このティナの言葉で、ミオもようやく思い出した。

 ――ジョセフさんって、あの時の――

 そう、彼女が気絶する前に、会場から連れ出した男。その名前もジョセフと言った。

 そしてティナの言葉は、正解だった。

〈はぁーあ、気づいちまったか。いかにもオジサンは、ジョセフ・クレッセンだとも〉

 私立探偵でもあり、そしてレースにも出場していたジョセフ。それが今、このような形で出会うとは……。

 そして四人の中で、一番彼と面識があるのもティナ。

 彼女はさらに続ける。

「にしても……どう言うつもりさ、ジョセフ! ジョークにしては笑えないぜ」

 だが、ジョセフは愉快そうな、声をあげる。

〈悪いな。俺は元々、ゲルベルトに依頼されて、レースの動向を監視していたんだ。

 フォード・パイレーツからブラッククラッカー、そしてその秘密を守るためではあったが……状況が変わってな。訳あって、ナンバーズ・マフィアとともに、君たちの誘拐の手助けしたわけだ。

 ――これで俺も共犯者だが、仕事も少なく貧乏な身としては、金が欲しいのさ。悪く思うなよ〉



 一体どこまでが本気で、冗談かも分らないジョセフの様子。

 ……だが、こうして閉じ込められているのも、また事実。

「はんっ……! 良い奴だと思ってたのにさ、残念だよ!」

 ティナはそう言うも、彼は苦笑いをしたようだ。

〈それは申し訳ないな。……おや?〉  

 するとジョセフに対し、今度はティナではなく……。



「ジョセフ――さん」

 そう言ったのは、ミオであった。

〈……ほう?〉

「私たちをここに閉じ込めて、一体……どうするつもり、ですか」

 精一杯気丈に振舞おうとするものの、不安で彼女の膝は少し、震えていた。

 それにジョセフは……。

〈心配しなくても、傷一つつけるつもりはないとも。

 君たちは人質。シロノ、そしてフウマと言った強力なレーサーをレースから手を引かせて、ジンジャーブレッドを優勝させるためのための……な〉

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