想定外の状況
車やバイクが多く走る街の中央道路を、バイクは走る。
この道路はタイヤ付きの地上走行車両向けの道路であり、上空にもエアカーの列が、幾筋も交差しながら飛び交っていた。
向かうは街の南部、宇宙港を目指してフウマは急ぐ。
やがて、目の前に円形のターミナルと、広大な飛行場に、幾つもの宇宙船の影が見えた。
フウマは広い飛行場の敷地を迂回し、裏口から中へと入ろうとした。
裏口には警備員がおり、バイクに乗るフウマを止めた。
「失礼ですが、許可証はお持ちでしょうか? 関係者以外は飛行場への入場を禁じていますので」
フウマはヘルメットのバイザーを上げ、顔写真付きの許可証を見せた。
「ここの六番ドックを借りているフウマ・オイカゼだ。普段の恰好じゃないけど、急いでいるんだ、入場には問題ないだろ?」
「失礼しました。身元も確認できましたので、どうぞお入り下さい」
警備員の許可も得たことで、フウマはバイクに乗ったまま飛行場へ入り、貸しドックへと急ぐ。
ようやく六番ドックにたどり着くと、そこには黒塗りのエアカーが一台、ドックの前にとまっていた。
それは学校前にあった、あの車と同じものであった。
バイクから降りると、フウマは車へと近づく。
しかしそれでも、周囲の様子は静かであり、何か異変が起こっているかのような様子は、全く感じられない。目の前のエアカーにすら、変化らしきものはない。
そしてエアカーの傍まで来ると、前部と後部のドアの右片方が開けっ放しにされ、その上助手席の窓が割られていることが分かった。
どうやら、何か起こった後らしい。フウマはまず、開けられたままのドアから後部座席の中を覗いた。
すると――――、そこには座席で寝そべって意識を失っている、ミオの姿があった。
フウマは急いで彼女を抱き起す。
「大丈夫? しっかりしてよ、ミオ!」
心配しながら彼は様子を確認するが、ミオにはどこも怪我はなく、命にも別状はない。ただ、彼女は気絶しているだけだった。
少し一安心した、そんな時。
「んっ……」
ミオの瞼が僅かに開き、口元から声が漏れる。
「……あっ、フウ……マ?」
「良かった、目が覚めて。その、調子は?」
まだ少し朦朧としながらも、ミオは座席から起き上がった。
「私は、平気よ。それよりも……テイルウィンドが」
「分かってる。だから、ここまで来たんだ」
「ごめんなさい、私がもっとしっかりしていれば」
ミオは、こうなったのは自分のせいだと感じたのか、しゅんとしている。
「違うよ、ミオのせいじゃないさ。そんな事より…………無事で本当に良かった」
フウマは優しく笑って、あまり無理はしないでと伝える。
そして今度は、前部座席の方を確認した。
運転席には誰もおらず、空だった。
しかし助手席の方には、前に謎の機械装置が設置されており、一人の黒服が席に座ったまま、その装置に突っ伏して気絶していた。
窓ガラスが割られていた事から察すると、何者かがこの黒服に襲い掛かった後だと、フウマは推測した。
「これは? フウマがやったの?」
ミオは驚いて、彼に尋ねた。
「まさか! こんな荒っぽい真似、僕に出来ると思う?」
「あっ……それもそうね」
車にいる黒服がこうなっているのなら、一体、ドックはどうなっているんだ? もしかすると――
フウマは早速、ドックを調べに行こうと考えた。
「確か、君が襲われたのはドックの中だろ?」
ミオは頷いた。
「うん。私は抵抗したんだけど、いきなり気絶させられて……」
「成程ね。なら僕は、今から中を調べに行くよ。テイルウィンドの事だって、気になるし」
ドックへ向かおうとするフウマを、彼女は引きとめようとする。
「待って! 駄目よ! だって中の様子も分からないし、とても危険だわ」
「心配しなくても、危なくなったらすぐ戻るさ。ミオはそこで待ってて。しばらく経って戻らなければ――警察に連絡を」
そう言うとフウマは一人、ドックへと向かう。
フウマは音を立てずに、こっそりとドックの中へと入る。
ドックの扉は、半開きになっていた。これは、あまりにも不用心すぎる。
中の様子も静かで、人の気配は感じない。
周囲に警戒しながら、フウマは先へと進んだ。
正面には三十メートルもの巨体を持つ、テイルウィンドの姿がある。
とりあえず、今のところ無事らしい。
――やはり、誰の姿も見えないな――
そう思いながら歩いていると、足元に何かがぶつかる。
下を見るとそこには、先程と同じ黒服の男が倒れていた。
顔には大きなアザがあり、何者かに強く殴られたかのようだ。
その後辺りを探すと、全部で三人の黒服が、ドックの中で倒れていた。
――これで全員か。一体、ここで何が起こったんだ? それにこの男達は? ――
この不可解な状況に、フウマが思い悩んでいた時……
突然テイルウィンドの影から、巨大な物体が現れ、後ろからフウマを組み伏した。
「くッ!」
いきなり強い力で抑えられ、思わずフウマは呻いた。
――まさか、まだ残っていたなんて! 僕が、考えもなしに行動したから――
彼が自分の行動に悔いていると、ふと後ろの何者かが話しかけた。
「何だ、チビ助のフウマか。てっきり奴らの仲間だと思ったぜ」
その声とともに力は緩み、フウマは解放された。
自分の事をチビ助と呼ぶこの声…………。それが誰か、彼はすぐに気づいた。
フウマは後ろを振り向いた。
そこにいたのは、かつて戦った強敵――リッキー・マーティスだった。




