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テイルウィンド  作者: 双子烏丸
第十章 Grand Galaxy Grand prix [Action!〕
130/183

前半戦、決着

 ――――

 ジンジャーブレッドは、ついに敗北を喫した。

 ――まさか、ジンジャーブレッドである私が敗れるとは。やはり…………『違う』と言うのか――

 未だその身体には激痛が走る。だが、彼にとって初めての敗北、肉体の痛みよりも、精神的なショックが大きかった。

 しかし、彼は何かを悟ったような、諦めのついたような……まるで憑き物が落ちたような、さっぱりした様子を見せる。

 ――だが、最後で私は私なりにレースに全力を注ぎ、そして敗れた。もはやそれで満足だ、悔いはない、例え私が――



 

 ……高潔な精神を持つジンジャーブレッド。

 だが――残酷な運命は、それを踏みにじった。





 ――――

 突然、自身の脳髄そして神経に、何かが無理やり流れ込んで来た。

 ――何だっ!? これは? 一体――

 激しい頭痛に、吐き気、自分が自分でなくなるような、脳が蝕まれ支配されて行く感覚……。

 考えられる可能性は、一つだけだ。

 ――まさか、ブラッククラッカーのシステムが、私を支配すると言うのか!――



 人機一体システム、それはパイロットの神経を直接、機体システムに接続して高精度で動かすものだ。

 つまり人が機械を支配するのが本来のありかた。その逆など考えられる訳がない、はずだった。

 しかし現実それは起こっており、ジンジャーブレッドの意識は、もはや機体をコントロールすることさえ――出来なくなりつつあった。

 ――馬鹿な! 支配権は私にしかないはずだ。機体制御のコンピュータが、勝手に機体と私の脳神経を操り出すなどと――

 自我を保つことさえ、やっとの状態だ。

 自身の脳が機体によって、勝手に動かされているのが分る。



 言うなれば、機体制御は完全にオートとなり、ジンジャーブレッドは機体コンピューターの単なる、補助システムにすぎなくなっていた。

 そして、コンピューターが自動で動かそうとしているものは――

 ――よせ! そんな事など、私は絶対に認めはしない!――

 それが何なのかを理解するジンジャーブレッドは、必死に抵抗しようとする。……が。

「うっ……ぐあああああっ!」

 彼の意に反し、無理やり脳を操られる事への拒絶は、想像を絶した。

 だが、そんなジンジャーブレッドの抵抗も――もはや叶わなかった。


 

  

 ――――

 ブラッククラッカーを追い越し、残るはゴールに辿りつくだけだ。

 ……しかし、その前に。

 ――けどこれで、シロノには、少し先頭を取られてしまったな――

 そう、先ほどの出来事で、ホワイトムーンにほんの僅か、リードされてしまっていた。

 ゴールとなるリングは、目の前に大きく迫っている。

 ――最後の最後……いけるか――

 フウマがそう考えていた時……後方から異変を感じた。



 後ろを飛行するブラッククラッカー、その全体が怪しく、銀色に輝き出す。

 ――あれは、親善試合の時の――

 フウマも覚えがあった。

 親善試合で見た、あの超加速の前兆……しかも、今度は前方にテイルウィンド、ホワイトムーンの両機が存在していた状態だった。

 嫌な予感を――彼は感じる。




 ――――

 そしてそれは、シロノも同様に――。

 ――ジンジャーブレッド、まさかあの加速を……正気ですか!?――

 親善試合で直接目にした彼は、この状況の不味さを、フウマ以上に感じていた。

 後方に見えるブラッククラッカーの輝きは、更に増す。このままでは――ホワイトムーンとテイルウィンドに衝突しかねない。

 ――とにかく、今は進路から避けないと――



 とっさにホワイトムーンは右へと避ける。

 フウマも同じ事を考えたのか、逆の左方向へと舵を取った。

 それと同時に……後ろから、光り輝くブラッククラッカーが、ついに加速した――




 ――――

  両機とも間一髪の所で間に合ったらしく、二機のすぐ真横を、ブラッククラッカーは急加速し、飛び去った。

 そして機体は……呆気なく、一気にゴールを迎えた。



 フウマはその姿を、見送ることしか出来なかった。

 ――結局、ジンジャーブレッドには逆転されちゃった、か。 残念だな――

 ジンジャーブレッドとの勝負に、敗北したフウマ。そして……テイルウィンドにもとうとう、限界が訪れた。 




 次の瞬間、テイルウィンドの動力機関の機能が、急速に低下し出した。

 速度を失う機体、ホワイトムーンはそれを追い越し、ブラッククラッカーに次いで易々と二位にゴールインする。

 続いてフウマは、シロノにも敗北を喫した訳だ。



 だが、不幸中の幸いと言うべきか……動力部は停止さえせず、辛うじて稼働を続けていた。

 あまり動かしていないせいか、熱も少しづつではあるが低下している。オーバーヒートによるこれ以上の危機は、ないだろう。

 ――速度は低下したけど、全然飛べるもんね。故障して止まることも、なかったから。これもミオが、よく整備くれたおかげ……だよね――

 改めてフウマは、彼女のメンテに感謝した。

 後はもう……ゴールに向かうだけ。テイルウィンドはどうにか飛行可能であり、それは何とか叶いそうだ。

 ――結局僕は三位か。でもまぁ、案外悪くないかも。僕なりにベストは尽くせたんだからさ――

 機体は難なく飛行し、黄金のリングをくぐり抜け、ゴールインを果たした。

 ――これでゴール! ……って所だけど、最後は地味な終わり方だね――

 一人フウマは、苦笑いを浮かべた。

 


 結果、フウマが満足した終わりではなかったが、……これで前半戦は幕を閉じた。

 残りの勝負は、後半戦に引き継がれることになるだろう――




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