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テイルウィンド  作者: 双子烏丸
第二章 ティーブレイク・タイム
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エクスプロージョン 


 惑星ローヴィスは、文明水準がやや上の、重工業が発達した惑星である。

 既にG3レースの出場権を獲得していたリッキーは、この日の夜、家族と共に過ごしていた。

 普段の仕事である工場に現場監督も終わり、今は家族との一時を過ごしていた。

 豪勢な肉料理を中心とした食卓を、リッキーは息子と娘の三人で囲んでいた。           「はぁ、またこの料理。昨日はステーキで、一昨日は肉ピラフ、お兄ちゃんは良いかもしれないけど、私は女の子なのよ?」

 そう言ったのは、まだ十四才の幼さが残る、癖毛が目立つ赤毛の少女だった。 

「まぁそう言うな、リリカ。男の子も女の子も元気が一番! それには肉に限るだろ!」

 リッキーはガハハハッと豪快に笑う。

「とか言っているけど、親父の好みだっていうのもあるだろ? でも、俺は結構好きだけどな」

 一方、リリカよりも少し年上の兄、リックはそう言って、今日の夕食である肉カレーを頬張っている。父親に似て強気そうな性格で、やや尖った髪が特徴的だ。

 母親はこの頃、ローヴィス行政府の仕事が多忙でなかなか帰れず、最近の夕食はリッキーが作っているのだ。

「ところで、学校はどうだ? 楽しくやっているか?」

 リッキーは子供二人に対し、父親らしい話題を振る。

「まあ、それなりにさ。普通に学校に行って、友達と遊んだり……。特に変わったことはないけど、楽しくやっているよ」

「私も学校生活は楽しいよ。この間なんか、いじめっ子からいじめられている男の子を、私が助けたんだから」

 リリカは身を乗り出して、得意げにリッキーに話した。

「そうか、やはり俺の娘だな。偉いぞ、リリカ」

「えへへ、ありがと」

「そう言う親父の方はどうなんだよ? 確かG3レースって言うレースに出場するんだろ?」

 今度はレースについて、父親にリックはたずねた。

「ああ、何せ広い宇宙から腕利きのレーサーが集まるんだ、今までにない大レースになるぞ。今回はリリカもリックも見に行くんだろ? 俺の活躍を楽しみにしていてくれ」

「私は、シロノやフウマを応援したいな。シロノは格好良くて素敵だし、フウマは私と同い年みたいで、かわいいもの」

 娘の言葉にリッキーは、傷ついた様子だった。

「おいおいリリカ、それは無いだろ。あんな小僧やチビ助の方が、俺より良いのか? 父さんは悲しいぞ」              

「もう! 違うわ。その二人も良いけど、私にはお父さんが一番よ。だから、そのレースでは絶対に優勝してね? 応援するから」

「ハハハハッ、それは嬉しいな。なら、リリカの応援に応えるために、俺も頑張らないとな」

 とても愉快そうにリッキーは笑うと、彼は席を立った。

「そろそろ、シュトラーダの整備と改良を進めに行くか。帰りは遅くなりそうだから、夜更かしなんてせずに、早く眠るんだぞ?」

 そして彼は子供たちに見送られ、家を出て行った。



 リッキーは街灯に照らされる夜の街中を歩く。

 辺りには家や店が立ち並び、遠くには今なお稼働している、巨大な工場の輪郭と明かりがぼんやりと見える。

 街の住宅地区は、それこそ典型的な工業団地で見られるような、金属的な集合住居が密集した住宅地であった。しかし決して乱雑に込み合っている訳ではなく、区画は計画的に碁盤の目状に、道路を直交させて網目に区切られていた。

 スペースにもそれなりに余裕があり、道路両脇には木々が植えられ、所々には市民の憩いの場ともなる、自然公園が存在している。

 遅い時間である事から明かりは少ないが、それでも住居のあちこちには明かりは灯り、光が金属の壁に反射する事で、外はそれなりに明るかった。

 ――レースに向けて、シュトラーダの出力を下げるべきか? 前回の事もあるしな――

 リッキーはシュトラーダが置かれている空き地へと、街路を徒歩で歩いて向かいながら、どう整備・改良するか考えていた。

 歩く先には十字路がある。そこを右に曲がって真っ直ぐ行けば、その空き地へと辿り着く。

 そんな時、いきなり横から何者かが現れた。灰色の長いコートを着た、大きなサングラスを付けた奇妙な男だ。男は急ぎ足で迫って来ると、リッキーの肩にぶつかった。

「おっと!」

 男は一瞬よろけたが、余程急いでいるのか、ぶつかった事を意に介さず、リッキーの後ろへと去って行った。

「……ったく、何を急いでいるか知らないが、少しは気をつけろってんだ!」

 リッキーはそう愚痴をこぼすと、先ほど男が現れた、右の道へと曲がる。

 道の先にはしばらく住居が続くが、それは途中で途切れ、途切れた先には空地が広がる。

 空地にはポツンと、ロケット発射場の様な施設があった。そして施設の中央に、シュトラーダは垂直に置かれていた。

 施設は垂直離着陸機であるシュトラーダの為の、発射場及びドックであり、リッキー個人がその全てを管理をしている。

 リッキーは、発射場へと向かおうとした。

 だが、まさにその時――――

 突然シュトラーダの一部が、ピカッと光った。

 次の瞬間、激しい爆発が起こり、発射場もろとも彼の愛機を飲み込んだ。

 爆発は連鎖的に続き、猛火が一面を覆う。

「――――」

 機体全体から火を噴き、無残な姿となったシュトラーダを目の前に、リッキーはただ、呆然と立ち尽くすばかりだった。


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