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テイルウィンド  作者: 双子烏丸
第十章 Grand Galaxy Grand prix [Action!〕
110/183

一瞬の決着


 ――――

 テイルウィンドもようやく、惑星サファイアの大気圏を、脱出していた。

 あれから多くの機体を追い抜き、周囲には他の機体もない。

 辺りには何もない、漆黒の闇を飛翔する、一機の機体。

 ――なかなか、これはいい感じじゃないかな―― 

 ジョセフとの対決以降、彼は順調に進んでいた。

 上手い具合にリードを続け、第四陣、第三陣の大多数を追い抜いた。

 次は――第四陣のレーサー達だ。

 彼らの多くは、惑星ルビー付近に位置している。そして目の前には、アステロイドがようやく見えだした頃だ。

 ――さてと、まだまだこれから、だけど――



 後ろから一機、機体が迫る。

 それは、楕円形の球体状に近い本体に、上下左右と、計四基、二対の翼状のブースターが取り付けられた、奇妙な形状をした黄金の機体だった。

 速度も速く、また、それぞれのブースターはフレキシブルに稼働し、それを用いて生物のような動きをしている。

 ――なんだ、アレ? ずいぶん変な機体だな? でもそんな物でテイルウィンドに挑もうなどと――

 間もなく、アステロイドベルトの中に入る。

 それは大型惑星サファイア、エメラルドより数周り小型な惑星を取り巻く、広大な小惑星群である

 惑星は小さいが、その範囲はかなり広大でレース範囲で言うならば、に惑星に引けを取らないくらいだ。

 フウマは機体とパイロットの正体が気になったが、今はすぐそばにまで迫っている、そちらの対処が先決だ。

 ――どの道、すぐに差をつけるんだ。別に気にするような事じゃないしね――

 結果、そんな確認は後回し。これが吉と出るか、それとも……



 アステロイドベルトに、先に突入したのはフウマのテイルウィンド。続けて後を追って来た、黄金の機体が続いた。

 四方八方に浮かび、またレース機が侵入した際による、小惑星の重力、引力バランスが崩れ、時として迫り来る小惑星も、存在している。

 テイルウィンドはそんな中を、かいくぐるように飛行する。

 ――この間、アシュクレイでのレースがあったと言え……あれよりも厳しい気がするな――

 途端、一つの大型小惑星が、テイルウィンドに迫って来た。

 とっさにフウマはそれを避け、その小惑星はべつの小惑星へと衝突し、砕けた。

 ――ふぅ、危うくサンドイッチにでも、なる所だったよ――

 フウマは安堵の息をつく。

 ……しかし。


  

 後ろの機体は、更に迫っていた。

 ――向こうも、やるじゃないか。……まさか、あんな感じで飛ぶなんてさ―― 

 二対のブースターを可動肢として動かし、ブースターの出力のみならずに稼働による反作用で姿勢制御を行うことで、生物的かつ高い機動性を行い、宇宙空間を飛行している。

 あのジンジャーブレッドの機動性には幾らか負けるかもしれないが、それに次ぐ、高い性能を持っていた。



 小惑星の中、次第に縮まる二機の距離。

 後方の機体は高い高機動による、無駄のない動作によって加速を失わず、かつ飛行距離を短く抑えていた。

 どうしても、周囲の小惑星を避けながらの飛行は、旋回、回避、迂回の連続になる。真っすぐ飛ぶことは不可能であり、軌道はどうしても曲線的になる。

 よって、下手な旋回によっては加速が殺されもすれば、航行距離が延びることもある。フウマもその辺りは上手くやっている。だが、やはり動きに、多少のロスが多い。

 今、この状況で有利なのは、明らかに相手の方だ。



 それでも、先をリードしているのはテイルウィンド。まだ負けているわけではない。

 ――ふっ、ただ機動力が高かろうとも――

 機体はもはや、すぐ近くまで迫っている。……が、それでも進路上にこちらがいる限り、まだどうにでもなると。そう考えていた。

 ……だが。



 先ほどまで一機と思っていた機体、それが一、二回転したかと思った。

 と、次の瞬間、回転の遠心力をつけて上下に、二機へと分離した。

 楕円型の本体も二分され、本体の両側に位置する翼状のブースターもあり、さながら鳥のような姿だ。

 ――これは、親善試合でジンジャーブレッドに対し、シロノとマリンが行った戦法と、同じだった。

 いや、二人があの時とっさに取った戦法と違い、今回の動きはより完成度が高く、分離、そして両側から相手の機体を追い抜く動きが、各段に機敏で早かった。

 フウマがそれに反応しようとも、同時に両側から迫り、どちらを相手取るか考えたのが不味かった。

 結果、それを判断する前に、テイルウィンドの上下から同時に、一気に追い抜かれる事を許した。

 ほんの、一瞬の出来事だ。



 

 ――くっ! まさかあんな機能があるなんて! ……ちゃんと確認しておくべきだったな――

 確かに、先に知っておけば、もしかすると対策が立てられたかもしれなかった。その分、フウマは悔しかった。

 だが、同時にあそこまで見事な動きと腕を見せた機体と、そしてそのパイロットに、素直な畏敬の念も抱く。

 ――けど、この僕をあっという間に追い抜くなんて、悔しいけど、さすがだよ。……一体、誰だろう?――

 気になった彼は、ようやくここでその正体に興味を示した。

 レーダーに示される機体の検索を行うと、今目の前を飛ぶ二機の機体はそれぞれ、『アトリ』そして『ヒバリ』、と言う名前らしい。

 そして、そのパイロットは……。



 

 丁度タイミング良く、アトリとヒバリ、両機から通信が入って来た。

 相手は、フウマが以前会った事のある相手だ。

〈よう! こうして会うのは初めてだな、フウマ! どうだ、俺たち『トゥインクルスター・シスターズ』の実力は! 軽く追い抜いてやったぜ!〉

〈……ふふっ、フウマさん、久しぶりです〉

 モニターに映るのは、親善試合で一度会った双子姉妹、フィナとティナの姿だった。

 そう言えば、あの二人もG3レースに参加するレーサーだったと、今思い出した。

「ああ! まさかこんな形での再会とは、僕も思わなかったさ。……でも、これは少し油断しただけだよ」

〈ハッハッハッ! 負け惜しみとは情けないぜ!〉

「別に、そんな訳じゃ……」

〈お姉ちゃん、あまり言いすぎないでね。……でも、私たちだってプロなんです。今回は油断した、フウマさんの負けです〉



「――うっ」

 フィナの言葉に、フウマはグサッと来た。

 しかし……それでも。

「……けど、まだ勝負はこれからさ! まだ負けたわけじゃないよ!」

〈さすが、フウマさんですね。でも……ここでは私たちの方が有利です。少なくとも、惑星ルビー周囲では、勝てるなんて思わないでくださいね〉

〈ひゅーう! 言うねぇフィナ! ――と、言うことだフウマ、俺たちは急がせてもらうぜ。んじゃ、お先に!〉

「あっ! 待ってよ!」

〈待てって言われて待つ奴はいないぜ! じゃあな!〉

 そして、フィナとティナの乗る黄金の二機は、先へと行った。

 小惑星の向こうに消えて行く機体の輝きを、眺めるフウマ。……だが当然、眺めてばかりはいられない。

 ――こうしてはいられない、か。……まだまだ、先にはジンジャーブレッドだっているし、急がないといけないかもね――

 ……あの二人だって、先を行ったことだし、それなら……と、フウマはさらに、先を急ぐ。

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