レクリエーション・タイム(2)
フウマはボードを操作し、峡谷へと通じる気流へと乗り移る。
このボードには風を受けるための固定翼と、進行方向を決めるハンドルこそあるが、エンジン等のような動力装置は何もない。
ボードのスピードを決めるのはあくまで風の強さとその流れ、問題は、いかにそれに上手く乗れるかである。
峡谷は細いとは言え、ボードの大きさに比べれば、十分に通り抜ける余裕がある。
ゴールと決めた草原までは、峡谷を一直線に進んだ先、つまり真っ直ぐ直進すれば良い。
両側を断崖に囲まれた峡谷、その気流の強い流れに乗ったボードは見る間に速度を増して行く。
ボードは内部の反重力装置によって空中に浮かぶために、その固定翼は航空機のように空を飛ぶための揚力を生むものではなく、ヨットの帆のように風を受けて進み、向きによって進行方向を決める、原始的な動力と舵の働きをしていた。
その原理で考えるならこのボードは、航空機であるグライダーよりも、ヨットに近い乗り物だと言える。
風を上手く読み、その風をより強く翼に受けるようにボードを操り、フウマは早速、先に出発した数人のグループへと追いついた。
「げっ! もう追いついて来たぜ、フウマの奴!」
そう驚く仲間をよそに、彼は楽々と先を越した。
「へへっ、それじゃお先に。…………って、おっと!」
つい僅かに気を抜いていた時、目の前から接近する鳥の群れに気づいた。
フウマはこのまま群れに衝突、周囲を鳥に囲まれる。
鳥はこの星に生息する原生生物であり、その姿は鳩のそれに近いが、色は白ではなく淡い水色だった。
辺りはバサバサと羽音が騒がしくなり、何匹かは彼とボードに衝突した。
「うわっ! ちょっと! あっち行け!」
フウマは鳥を振り払うが、次から次へと鳥はこっちに向かって来る。その内何匹かは、彼やボードに衝突する。
しかしそれでも、フウマは方向を見失うこともなくボードを飛ばした。
そして何とか抜けて、後ろを振り向くと、今度はさっき追い抜いた仲間の方へと、鳥の群れが襲い掛かっていた。
彼らも同じく鳥に邪魔されて、慌てふためく。
「ちょっと、前が見えないってば! きゃっ!」
「ああ、もう! どっちに飛んでいるんだ、風の向きは?」
「げっ! 目の前は…………岸壁かよ!」
フウマの時は何とか方向を見失わず、気流に乗り続けることが出来たが、彼らはそれが出来ずに混乱した。
バランスを崩してボードからの転落、前が見えずにボード同士の衝突や岸壁の衝突で、次々とリタイヤしていった。
ボードから落ちた彼らは下へと落下するが、しばらくすると落下は止まり、宙に浮遊する。
全員が着ているボディースーツにも反重力装置が備わっており、一定の落下速度に達すると自動的に作動するようになっていた。
フウマが活躍する宇宙レースもそうだが、どんなに危険に見える競技やスポーツでも、しっかりと安全対策は整えられているものなのだ。
「心配しなくても、後で迎えに来るように伝えておくよ。それじゃあね」
フウマは後ろの仲間達にそう伝えると、先へと飛んで行った。
取り残された仲間の一人は、宙に浮きながらハァと息を吐いて、肩を落とした。




