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テイルウィンド  作者: 双子烏丸
第十章 Grand Galaxy Grand prix [Action!〕
105/183

逆転劇


 ――――

 二機の合流とともに、強い衝撃が互いの機体を襲った。

 ジョセフの乗る玄武号と、そしてテイルウィンド、両機の側面がぶつかり合い、拮抗する。

 ――ちっ、坊主! 随分な真似をしてくれるじゃないの!――

 口にした煙草を強く咥え、ジョセフは険しい表情となる。

 合流するやいなや、テイルウィンドは回避運動を取らず、そのまま玄武号に接触した。

 対するジョセフにしても、ここは譲るわけにはいかなかった。こちらも回避を行わずに接触を許し、両者機体で競り合う形になっている。

 恐らくこのまま、気流の外へと、押し出すことが目的だろう。

 が、最も……そんな勝負になった場合、有利なのは――

 



 相変わらず険しいながらも、その顔には笑みを浮かべる余裕は、十分にあった。

 ――でもちょっと、頭が足りないんじゃないか? こんなぶつけ合いになった時には、そんなシャトル型だと色々不利なんだよね!――

 互いに競り合う二機だが、有利なのは玄武号、テイルウィンドは次第に押されがちになっていた。

 単純な四角のボックス型の玄武号は、大気圏内の飛行ではシャトル機にはやや劣るこそすれ元々汎用性の高いように作られた民間機だ、それなりには飛べる。

 そしてこの場合においては外見の造りのために、衝突を行う際には平坦な面を持つ分、力の伝わりが良い。

 対するテイルウィンドは曲線的な船体のせいで力が伝わりにくく、また飛行する分には有利だが、こうした事になると逆に空気抵抗を受けてしまい、更に不利となる。

 



 次第に追いつめられる、テイルウィンド。

 ――悪いけど、コースアウトするのはそっちさ。なかなか楽しませてくれたのは褒めてあげるけど、残念だよ――

 もはやギリギリまで追い詰めている。あと一押しで、今二機が乗る気流から、落とされようとしていた。

 ――それじゃあ……これでサヨナラだ――

 そして勢いをつけ、最後の一押しを加えようと、した瞬間だった。



 

「何だって!?」

 思わずジョセフは、思わず口に出して驚く。

 玄武号で一押ししようとした――この瞬間。

 テイルウィンドは玄武号を避け、その上を沿うように飛び越えて、180度回転しその位置を入れ替えた。

 玄武号はその勢いのまま、気流から外れた。

 ――なるほど、やるじゃないの――

 外れたのはほんの少し、しかしそれでもテイルウィンドには十分だった。

 玄武号は元の位置に戻ろうと態勢を整えた隙に、機体はその先を、追い越した。

 回転したせいで上下逆さまになったテイルウィンドは、それと同時にまたその位置で180度の急回転し、元へと戻った。



 今や先を行くのはテイルウィンド、玄武号はもはや追い越され、その後ろを飛行する事になる。

 こうなった以上、地の利はテイルウィンドに味方する。

 大気圏飛行が得意な分、一度先を取り有利になった機体は、次第に玄武号を引き離す。

 ――ふっ、やはりこうなった以上は、向こうが有利って訳か。だが、こちらもまだまだ、負けた訳ではないさ――

 見ると、すぐ向こうには晴れ間と、先には青空が広がる。

 これで嵐ともお別れだ。

 テイルウィンド、続いて玄武号が、その巨大な積乱雲から脱し、青空の下へと現れる。

 途端、ジョセフは出力系の設定を操作し、出力のリミッターを外す。

 この玄武号も、通常の最高速度以上の速度を、制限さえ外せば一時的に出す事が出来る。

 最も、長く続ければ続ける程に機体への負担も増大し、マリンのシステム・スパークラー程ですらもないが、それでも加速は最高時よりも上がる。



 探偵の仕事にはさまざまなトラブルが付き物、本来は、その時の緊急離脱の為のものだ。

 ……まさか、こんな事に使うことになるとは、ジョセフさえ考えもしなかった。

 機体にだって相当な負担がかかる。本当なら、ここまでレースで本気を出す、そのつもりさえもなかった。

 しかし、ここまで来て引き下がれない。

 何しろ――いつの間にか、こんなに熱中しているのだから。柄ではないが、せめてこの時は最後まで、持てる力をすべて出し切りたい。

 ――さてと、続きを始めようじゃないか――

 ジョセフは、本気を見せるかのような鋭い瞳を、強く輝かせる。

 

 

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