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テイルウィンド  作者: 双子烏丸
第二章 ティーブレイク・タイム
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レクリエーション・タイム(1)


「…………へくしっ!」

 フウマは軽くくしゃみをした。

「全く――。どこかで誰か、僕の噂でもしてるって訳?」

 手元にはサーフボードに近いものを持ち、彼は今、街外れの荒れ地へと来ていた。

 荒れ地の先は崖により寸断され、そこからは一面、深い谷が広がる。

 街全体が谷に囲まれている事を考えるなら、この荒れ地は街の土台となる台地の端に存在するようだ。

「ははっ! そりゃレーサーとして活躍していれば、噂の一つや二つされて当然だろ? 俺なら、可愛い女の子に噂されたいね。ひょっとしたら…………噂しているのは、フウマの彼女じゃないのか?」

 そうフウマに軽口を叩いたのは、彼と一緒にいる同年代の少年。立派な大人と見紛うほどに体格が良く、爽やかな表情が目立つ好青年だった。

「おいキース、あまりからかうなよ。いくら何でも、怒るよ?」

 少しムッとした様子で、フウマは少年に言った。

 そして、キースと呼ばれた少年以外にも、八、九人の少年少女が、全員ボードを手にして立っている。

 また、ボートの他にも、彼らは身体全身を覆うボディスーツを装着し、前半分が透明となっているヘルメットを所持していた。

「でもさ、ミオが言っていた勉強会は良かったの? 定期試験ももうすぐだし、せっかくの約束も、こうしてすっぽかすなんて」

 メンバーの一人である、快活そうな短髪少女の言った言葉に、フウマは冗談じゃないと言うように首を振る。

「ミオは心配しすぎだよ。僕だって試験勉強くらいはしているし、いちいち勉強会なんかに行かなくても、別に大丈夫さ」

 それはさておきと、フウマは話題を変える。

「コースはいつも通り、街周りの谷から伸びる、細い峡谷の先にある草原までだね。この頃宇宙レースで忙しかったから、ウィンドボードは一カ月半ぶりだし、腕が鈍ってなきゃいいけど……」

「よく言うぜ、フウマ、昔からウィンドボードでは負け知らずのくせして。それに確か四年前、偶然試合に来た有名宇宙レーサーの目に留まったのがきっかけで、こうしてプロになれたんだろ?」

 キースは、フウマの言葉にツッコミを入れる。

 ウィンドボード、それは小型の反重力装置が取り付けられたボードを使い、風の流れに乗ってレースを行う競技、スポーツである。強い気流が存在する場所でこそのスポーツなので、この星のような環境ではとりわけ人気であった。

 フウマは四年前、かつてエアケルトゥングで行われたウィンドボードの試合で、レーサーとしての才能を見込まれた。その人物はかつて宇宙レースで活躍し、有名となった元宇宙レーサー。彼を教師としてフウマは多くを学び、それから一年もしない内にプロとしてデビューした。愛機テイルウィンドも元々は彼の機体であり、それが譲り渡され、今ではフウマの機体となっている。

「ふふっ、まぁね。…………さてと、じゃあそろそろ、始めようか。いつでも始めて大丈夫だけど、どうかな? 何かハンデは必要?」

「おいおい、あまり馬鹿にするなよ? ハンデなんて必要ないぜ。……と言いたい所だけど、せっかくだ、俺たち全員が出てから三十秒後にスタートしてもらおうか」

 その提案に対し、分かったとフウマは頷く。

「なら、私から先に行くわね」

 そう言ったのは先ほどの短髪少女。彼女は早速ヘルメットを被って、ボードを構えた。

「おいおい、ミリィ。フライングなんて、それは無いだろ」

「いつでも始めていいって、フウマも言ってたもんね。スタートは早い者勝ちって事で!」

 仲間からの言葉をよそに、短髪少女のミリィは助走をつけて崖から飛び降りた。

「……ったく、仕方ない。なら俺も」

 ミリィに続いて一人、また一人と、ボードを手に飛び降りる。

 そして最後の一人がいなくなったのを確認すると、フウマは三十秒まで数え出した。

「……二十八……二十九…………三十と。……じゃあ、行こうか!」

 やがて最後まで数え終えると、フウマもヘルメットを被り、崖から飛んだ。


 

 飛び降りるやいなや、フウマは落下しながらも、ボディスーツ両足に磁場を発生させ、ボードに両足を固定する。

 そしてボードが真下になるように態勢を整え、ボード前部に備え付けられたレバーを上げると、レバーとともにT字型のハンドルがせり上がる。更にそのレバーを九十度に回すと、今度はボードそのものが大きく変形、ボードの両側面と底部から、合わせて三つの鋭角三角形の固定翼を展開した。その姿はまるで、巨大な紙飛行機のように見える。

 フウマが握るハンドルは、ボードの固定翼を操作する物である。

 ハンドル操作は非常に単純で、ハンドルごと前後左右へと倒すことにより左右の固定翼が対応し、前後へと傾いてかじを取ることで、ボードは上昇、下降、左右へと旋回する。

 しかしその操作や機能が単純化した分、細かい動きに関しては調整が利きにくく、実際に動かすと大きくクセのあるものとなっていた。

 彼がハンドルを後ろに倒すと、両側の固定翼は前へと傾き、ボードは上昇、谷の気流へと乗って飛行をはじめた。


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