作戦会議
私は近所の居酒屋「舞」にアッキーとコンちゃんを呼び出した。これからどうするか相談する為だ。一人で考えていてもまったくアイデアが浮かばなかった。日頃から二人に対しては上から目線の私だか、今回ばかりは藁にもすがる思いだ。おとぼけ二人組だが、もしかしたら思わぬ名案が生まれるかもしれない。
私は待ち合わせにいつも少し早く行く。案の定私が一番だ。それから定刻通りにアッキーがやって来る。アッキーは真面目だからな。そしてコンちゃんを待たずに飲み物と料理を注文する。私に対する配慮だ。定刻から30分遅れでコンちゃんがやって来る。最近会社を辞め現在無職。すっかりゆるくなってしまった。でもいつもおおらかなコンちゃんだから不思議と許せる。
「悪い、悪い、遅れちゃって。」口ではそう言うが待っていた二人に構わず、どんどん自分の食べたい物飲みたい物を注文していく。
「で、今日は何?」
いきなり本題に入るのもコンちゃんの特徴。台風の目直撃野郎なのだ。
「私、熊井さんの言ってた”東京の人が誰なのか知ってるの。生前翔からこの耳ではっきり聞いてるの。」
二人はかなり驚いていた。
「誰?”東京の人”って。」
「SPCの石本さん。」
「SPCって、あのバンドの?」
「そう。」
二人は目と目を見合わせた。そして少しの間無言になった。
「えっ?もしかして二人とも石本さんを直に知ってるの?」
アッキーがゆっくり口を開いた。
「二人共今はまったく交流がない。でもバイトしてた頃バイト先の社長と石本さんが親しくて、こっちに来ると必ず社長と一緒に飲みに行ってた。俺たちもよくおごってもらってた。」
二人を呼び出した甲斐があった。まさか直接つながっていたとは。アッキーとコンちゃんがバイトをしていた会社は、東京から地方のホールへアーティストを呼ぶイベント会社だった。私はそのことをすっかり忘れていた。そうだ、そうだ。この二人は普通の人より少し芸能界に近いんだった。
「私、SPCの石本さんに会いたいの。その社長さんにお願いしてよ。」
アッキーはいつもの通り困り顔になった。私の要求がいつも突飛なせいか、アッキーはよく困っている。
「さっきも言ったけど、バイト辞めて就職してからは石本さんとも社長とももうご縁が切れてるんだ。無理だよ。」
「無理でもないよ。」
コンちゃんがいきなり言い出し、私とアッキーは驚いてコンちゃんの顔を凝視した。
「俺、つい最近辞めた会社がリゾート施設だったじゃん。そこのゴルフ場をバイト時代の上司だった大林さんがよく利用してくれてたんだよ。予約を取って欲しくて、俺のプライベートの携帯に頻繁に電話をかけてきてた。たまに一緒に飲んだりもしたよ。大林さんに頼めば石本さんに会えるかもしれない。」
おぉ、神様。ありがとうございます。本当に私の無理難題が実現しそうだ。
「でも何も言わずにお願いだけすることはできない。大林さんだって、なんでそんなこと俺が頼んでくるのか不思議がるだろ。」
確かにな。
「大林さんは田益のこともよく知ってた。当時俺たち三人を同じようにかわいがってくれてた。大林さんだったら全てを話しても俺たちの気持ちをわかってくれると思う。晴ちゃん、大林さんに全部話してもいいかな。」
少し考え込んだ私にアッキーも追い打ちをかけた。
「晴ちゃん、俺も大林さんの人柄は保証する。絶対俺たちに力を貸してくれるよ。」
アッキーの言葉で心が決まった。
「コンちゃん、じゃあ大林さんに全てを話して、それでSPCの石本さんに会いたいと伝えて。」
これで今回の作戦会議は解散となった。私はコンちゃんに大林さんへの電話を約束させて帰宅した。二人の話通りの人なら、石本さんを直接知らなくても何か手立ては考えてもらえそうだ。
作戦会議から一週間後コンちゃんから電話がかかってきた。