同期
私は無理矢理コンちゃんに彼女へ電話をさせた。可哀想なコンちゃん。すっかり怯えちゃって。でもさすがに電話中はアッキーと二人少し離れた場所に座り、電話が終わるのを待っていた。電話が終わるとコンちゃんは私たちの席へやって来た。
「電話して聞いたよ。アルプススキー場だって。」
なんだ、すぐ近くじゃん。今日のうちに行かれるかも。
「誰か連絡の取れる人知ってるって?」
コンちゃんのことだ。聞いてない可能性も。
「晴ちゃんにそう言われると思ってちゃんと聞いたよ。でも残念ながら一人も知らないって。」
「一人も知らない?彼女はなぜ翔が計画通り事業を始めなかったのか気にならなかったの?」
「気にならなかったんだろ。彼女と田益はそういう浅い関係だったんだよ。ゴルフ場がオープンしている間だけ恋人もどきの関係で、ゴルフ場がクローズすれば田益はスキー場で住み込みになるし、彼女もどうせ別のところで働いて案外冬限定の彼氏がいたかもな。今回のことだって厄介なことにあまり深く関わりたくないと思ってるんじゃないか。」
さすがにコンちゃんの言葉にも怒りがこもっていた。電話をかけさせてしまって、少しだけ申し訳なく思った。
「スキー場関係の人からは話が聞けないのかなあ。」
その時ふと思い出した。
「私アルプススキー場一度だけ行ったことある。会社の同期会で。同期の一人がアルプススキー場近くの出身で、幹事をしてくれたの。そうそう、この近くの民宿に泊まって皆でスキーした。もしかしたらその同期からスキー場関係者につながるかもしれないから、早速帰ったらメールしてみる。」
帰宅後早速同期だった藤井恵理にメールした。但し全てを知らせず”相談したいことがある。”とだけ送った。恵理ちゃんは社内結婚で今は退職していて、子育ての為専業主婦をしている。就寝前に返信が来た。”自宅に遊びに来て。”とのこと。私は休日まで待ちきれず仮病で早退することにした。
数年ぶりに恵理ちゃんと会った。やたら仕事に厳しかった女性が、今ではすっかりほのぼのしたお母さんだ。私は担当直入に切り出した。付き合っていた彼氏が死んだこと、警察は自殺と断定したけれどそうは思えないこと、そして彼が働いていたアルプススキー場の関係者に話が聞きたいということ。
「それで私のところに来たんだね。」
「誰かアルプススキー場の関係者知らないかな。」
残念ながら恵理ちゃんはスキー関係者を知らなかった。しかし恵理ちゃんが兄と慕うレストハウスのマスターなら知っているかもしれないとのこと。マスターに連絡を取ってくれることになった。
あれは一週間後だっただろうか。恵理ちゃんからメールが来た。マスターに連絡してくれたとのこと。なんとマスターはよく客として来ていた翔のことを覚えていた。そして翔とよく一緒に飲みに来ていた同僚に連絡が取れるという。やった!スキー関係者と連絡が取れる。またマスターから連絡が来たら知らせてもらうことになった。
恵理ちゃんからの再度のメールは数日後に来た。待ち合わせ場所と時間を知らせるメール。なんとそれは先日アッキー、コンちゃんと行った店だった。なんて世間は狭いこと。私たちが店で見かけたあのマスターが、私の友人を妹のように可愛がっていたなんて。私はまた再びあの店へ行くこととなった。