第一発見者
「晴ちゃんがあの二人と会うなんて、やめといた方がいいんじゃない。」
アッキーは元カノVS今カノの修羅場を想像して尻込みした。私はそんなことまったく考えちゃいない。私が知りたいのは翔の死の真実。その為だったら誰にでも会うし、何でもする。私はまだ翔に未練があるのだろうか。よくわかんないけど二人にどうしても会いたかった。
「何言ってんの。二人に会わなきゃ何もわからないでしょ。なんであの二人が翔の死は自殺だと思ったのか。」
私は強引にアッキーからコンちゃんに電話をかけさせた。コンちゃんからあの二人に電話をかけさせる為だ。コンちゃんがあの二人の電話番号を知っている確証はなかったが、コンちゃんは電話番号を知っていた。電話をもらった時もしもの時の連絡用に聞いてあったのだそうだ。コンちゃんが二人に連絡を取り、翔が働いていたゴルフ場近くのカフェで会うことになった。私は翔の元カノだということは一切名乗らず、アッキーやコンちゃんと同じバイト時代の仲間だと嘘をついて会うことになった。絶対感情的にならないようにしなきゃ。
そのカフェはゴルフ場というよりもスキー場に近く、スキースノボ客をターゲットにした店で、ホテルや民宿に囲まれるように開店していた。その辺りに飲食店はそこしかなく、カフェと言ってもアルコール類も出すし、食事メニューも充実していた。アッキー、コンちゃん、私の三人は彼女たちよりも先に着いた。緊張の為かアッキーは顔色が悪かった。そこへ二人がやって来た。私たちより随分若い。30歳くらいか。翔はこんなに若くて歳の離れた女と付き合っていたのだろうか。
あまりにも意外過ぎて戸惑う私に女の一人が驚くべきことを言った。
「アッキー、久しぶり。」
私はアッキーの顔を見た。アッキーはその言葉に何も答えず、怯えた目で私を見返した。これはどういうことか。すぐ聞きたかったが今回の目的は自殺の根拠を聞くこと。焦点がブレないように早いとこ話を進めよう。
「駐在所で今回の詳細を聞きました。その中で私たちに疑問点が湧きまして、それはお二人にお聞きしないとわからないことなのでご足労いただきました。」
私が元カノだとバレないか恐る恐るの質問だったのだが、幸いバレていないようだった。年齢だけでなく、受ける印象でも翔の彼女とはどうしても思えなかった。
「何かしら。」
喋り方まで軽々しい。本当に翔は二人のどちらかと付き合っていたんだろうか。
「私たちは翔が自殺したなんて信じられません。亡くなる半年前に私が電話で話した時は、新しい事業を起こすことに意欲満々でした。そんな未来に意欲満々な人間が自殺なんて考えられません。
駐在所でお二人が日頃から自殺しかねないと思っていたとおっしゃっていたと聞きました。それはどういうことですか。」
二人のうち一人が面倒くさそうに口を開いた。
「確かに翔ちゃんは事業を起こすと言って夏にゴルフ場を辞めました。でも実際は事業は起こしてなくて、毎日アパートに引きこもってばかりいたのでボードに誘おうとメールをしたの。でも何度メールを送っても返信なし。だから電話を何度もしたけどまったく出ず。それで二人でアパートへ行ってみたら、あんなことになってて。」
「なぜ事業を始めなかったのかしら。」
「それは私たちにもわからない。」
「なぜアパートに引きこもっていたとわかったの?」
「毎日の通勤で翔ちゃんのアパートの前を通るから。いつも車が停めっぱなしだった。朝も夕方も停めっぱなしなんだから仕事には行ってないでしょ。何かアクシデントがあって予定していた事業が始められなくなって、落ち込んで引きこもってあんなことしてしまったんじゃないかと警察には話した。」
もう少し細かなことを聞きたかったけど、相手はその場にいるのが嫌そうだったし、私も正直感じの悪い人たちでもう話を続けるのが嫌だったので、最後に決定的な質問をしてその場を締めくくることにした。
「あのお二人のどちらか翔の彼女だったんですか。」
二人揃ってそんなの当たり前じゃんという顔をして、
「私が翔ちゃんと付き合ってました。」
アッキーに話しかけた女の方が答えた。私が翔と関係のあった女だとバレてしまったか。まあ、それでも構わないや。二人の女は帰って行った。
さあ、次はアッキーに彼女と会ったことがあるのか聞かなきゃ。