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「たまには一緒にご飯食べない?話もあるしさ。」

話?話っていったい何だろ。私とアッキーは気が合って、よくご飯を食べに行ったり飲みに行ったりしてるけど、いつも取り止めのないどうでもいい話ばかり。大事な話なんてした試しがない。アッキーから私に話があるなんて珍しい。私はただただ好奇心だけでOKした。

約束したお店に行ったら、アッキーだけでなくヨシもいた。ヨシというのはアッキーと同じ幼なじみで、先日のキャンプメンバーの一人だ。幼なじみの男性陣は全員既婚者。だったら美代や他メンバーはどうしていないの?アッキーでなくヨシが口火を切った。

「田益君が自殺した。」

今なんて言ったの?よく聞こえなかったよ。

「いや〜、参ったよ。ほんとに。」

翔はアッキーの友達だった。ヨシとなんてキャンプで初対面だった。どうしても肝心なことが自分の口で言えなくて、ヨシに頼ったらしい。ヨシはとても度胸の据わった男で、誰にでも頼られる。ヨシは続けた。

「未遂だったらいくらでも力になりたかった。でももう田益君はこの世にいない。どうすることもできない。」

私はたった一言が精一杯だった。

「どうして?」

あとはその場でただ一人詳細を知るアッキーが話した。

「それがわからないんだ。そんな様子はまったく感じなかった。遺書もなかった。俺のところへはコンちゃんが電話をくれた。」

コンちゃんというのは近藤忠と言って、翔とアッキーのかつてのバイト仲間で、アッキーを介して私も最近友達になった人物だ。

「そこでコンちゃんと二人香典を包んで田益の実家へ行った。玄関には親父さんが出て来て『そっとしておいて欲しい。』と言って俺たちを追い返そうとした。コンちゃんと俺は頭にきて無理矢理家の中へ上がり込んだ。仏壇はすぐわかった。既に家族のみの弔いは済んでいて、アイツのお骨が置かれていた。二人で線香をあげて香典を置いて来た。帰り際追い返そうとした親父さんが『ありがとうございました。』と言ってた。」

たとえ実家がどこかわかっていても、私はお線香を上げには行かれないんだろうな。私には何もできないんだろうな。そんなことだけボーッとした頭の中で考えた。

「晴ちゃんはもう田益とは別れているから、伝えるかどうか悩んでカミさんに相談した。そうしたらカミさんが『私だったら知りたい。』と言ったから伝えることにした。」

気づいたら私は泣いていた。そんな私を慰めるようにヨシが静かに語りかけた。

「良くないことが起きる時、理由は一つじゃない。恐らく複数重なったんだ。どれか一つでもわかっていたら、助けてあげられたかもしれないのに。」

その時ふと一つの疑問が浮かんだ。

「近藤さんはどうやって翔の死を知ったの?」

当然答えが返ってくると思っていたら、アッキーが予想外の返答。

「どうやって知ったんだろうな。聞いてないな。」

そこんとこ知りたくないのかい。近藤さんに知らせてきた人が翔がなぜ死んだのか知ってるかもしれないのに。アッキーはいつも詰めがあまい。

「翔はどんな状態で亡くなってたの?」

アッキーはそれも近藤さんから何も聞いてなかった。見るに見かねたヨシが提案してくれた。

「晴ちゃん近藤さんと直接会って話をきいたら。アッキー晴ちゃんを近藤さんに会わせてあげなよ。」

私は一ヶ月後近藤さんと会うこととなった。

それは近所に居酒屋で。近藤さんは大変飲むのが好きなので。当然その場を段取ったアッキーも同席。近藤さんが悲しそうな笑顔で言った。

「もっと楽しい話題で集まれたら良かったのにね。」

同感。次回は楽しい話題の飲み会にしましょう。でも今回は近藤さんに聞いておきたいことがたくさんある。注文した料理を待ちきれず、私が切り出した。

「彼が死んだことはどうやって知ったんですか。」

近藤さんはとても話好きな人で、質問以上の答えが返ってきた。

「田益のゴルフ場の同僚が俺に電話してきた。俺はその人に会ったことないんだけど、田益が生前俺の話をよくしてたんだって。だから田益が死んだ時俺にも知らせなきゃと思ったらしい。俺の勤め先も田益から聞いていて、勤め先に電話してきた。」

私はそこまで聞いて何かを感じた。

「その同僚の人は女性だったんですか。男性だったんですか。」

「女性だった。その人が死んでいる田益を発見した人だよ。最近田益から連絡がないから、気になってもう一人の女性の同僚と二人で、田益のアパートへ行って発見したそうだ。トイレのドアノブに紐をかけて、首を吊って座った格好で眠っているかのように安らかな表情で死んでたって。その人が警察から聞いたそうなんだけど、遺書らしき物はどこにもなかったらしい。」

「その二人の女性、独身ですか。既婚者ですか。」

「俺に電話してきた人は独身で、アパートに着いて行ったもう一人の人は既婚者だって言ってた。田益の彼女かと思って聞いてみたんだ。」

「それで彼女だったんですか。」

「多分彼女だったんだろうと思ってはっきり聞かなかった。」

さすがアッキーの友達。アッキーと同じで詰めがあまい。既婚者の方がもしかして以前の不倫相手じゃ。ヨリが戻って私は振られたのか。もう死んでしまって取るも取られるもないのに、私はその第一発見者の既婚女性に最大級の嫉妬をした。

「その人たちが発見したということは合鍵を持っていたから?」

近藤さんが衝撃の一言を言った。

「合鍵は持っていなかったって。鍵は開いてたんだって。」

「えっ?」

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