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少年探偵とサイボーグ少女の血みどろ探偵日記  作者: 小夏雅彦
第四章:追放者の果実
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12-地の果てへの旅

 更に五日ほど経ったある日、市長軍行動隊長が僕の事務所を訪ねて来た。


「すみませんね、突然押しかけてしまって。

 コーヒー、ありがとうございます」


 彼は合成コーヒーを飲んで、僅かに顔をしかめた。

 安いやつでごめんなさい。


「ところで、どうしたんですか?

 ここを訪ねて来るなんて初めてじゃないですか」

「ええ、今日は折り入って話があるんです。

 あなたに調べて欲しいことがある」


 探偵としてか、協力者としてか。そのどちらもだろう。市長軍として表立って行動することが出来ない理由があるのだ。彼は一枚の写真を撮り出し、僕に見せてくれた。


「アーノルド=バッカーマン。

 この名前に聞き覚えはありますか?」

「いえ、ありません。勉強不足で申し訳ない」

「なくても無理はありませんよ。

 彼はオーバーシアから離脱した研究者なのだそうです」


 僕は表情を引き締めた。

 オーバーシア関係者ということは、セルゲイからの情報か。


「彼は人間の意志を保ったままロスペイル化する研究を進めていました。

 ところが、成功間近になったところで彼は逃げ出してしまった。

 良心の呵責を覚えたのか、あるいは邪な意志があったのか、それは分からない。

 分かっているのは彼が機密データを持って逃げ出したということです。

 人体実験の存在を立証するデータです」


 シティ医療法により、届け出のない人体実験は禁止されている。届け出が成されても苦痛が大きかったり、死亡リスクが高かったりするような研究は基本的に許可が下りない。ロスペイル化実験などその最たるものだろう。実験に駆り出され死んだ人々の顔を、僕は思い出した。しかし、そんなことが分かったところでどうなるというのだろう?


「すでにオーバーシアは広域指名手配されています。

 今更そんなものを求めるとは……」

「欲しいのは『素材』の流通ルートです。

 どんな人間が、どんな手段で仕入れを行っているのか。

 トルニクスで手に入ったデータは限定的だそうですから……」


 隊長さんの口の滑りは悪かった。

 彼自身も疑問に思っているのかもしれない。


「実際のところ、私はある懸念を抱いている。

 それは市長軍の上層部……

 市議会がロスペイル化の技術を欲しがっているのではないか、ということだ」


 十分あり得ることだ。現在でも市長軍はシティ最大の武装組織として君臨しているが、安定的に量産できるロスペイルが手に入ればそれは更に盤石のものとなるだろう。特に市街戦においてはロスペイルに敵うものなど存在しないのだから。


「これは私個人の願いですが……

 もし博士を発見し、データを確保したとして、です。

 そのデータを完全に破棄していただきたい、完膚なきまでに。

 あんな物がこの世界に存在しているかと思うと胸が痛くなる。

 どうかお願いいたします」

「ええ、分かっています。

 僕としても、それが一番いいのではないかと思います」


 問題は博士を発見したときどうするのか、ということだが……この答えを出すのはその時でいいだろう。正直なところ、人を殺してまで秘匿したいとは思っていない。


「任務の性質上、単独での潜入を試みてもらうことになります。

 誰にも気取られてはならない。

 それに、行き先が行き先ですから市長軍も手出しが出来ないんです」

「そんなに危険な場所なんですか? いったい、それは……」

「アウトラスト。聞いたことがあるでしょう、この都市の最奥ですよ」




 僕は別の仕事から帰還した事務所メンバーにこのことを伝えた。


「ふぅん、まあいいんじゃないのか?

 だが気を付けたまえ、アウトラストには魔が住まう。

 ずっとそう言われてきて、シティの権力さえも及ばない場所だ」

「マジモンの無法地帯やからな。

 シティのチンピラヤクザが可愛く見えて来るやろ」


 ベテラン二人はそう言ったが、いまいちアウトラストのイメージが湧かないためよく分からない。僕自身、あの場所に足を踏み入れたことがないからだろう。


「アウトラストってどういうところなんですか?」


 バイオイカ串焼きをつまみながらクーが聞いて来た。最近マーセルではテイクアウトメニューを充実させているのだという。連日の大盛況のせいらしい。


「見捨てられた地、アウトラスト。

 旧世界で起こったと言われる大戦の爪痕がいまも残っている。

 一面の荒野にはシティから見捨てられた者が集うという」

「うちらもその詳細を把握しとるわけやない。

 すべてはアンタのセンス次第やな」


 これは責任重大だ。

 朝凪探偵事務所のメンツを潰さないようにしなければ。


「いいところみたいですね! ボクも行ってみたいです!」

「旅行ですの? 私も行ってみたいですの!」


 クーとアリーシャは同時に拳を力強く振り上げた。

 仲良くなったものだ。


「あんまりいっぱい行くとアウトラストの住民を刺激することになりかねない。

 だから、行くのは僕だけだ。それに、シティのことを頼みたいしね」


 オーバーシアが地下に潜伏したとはいえ、一切痕跡を残さず行動を起こすことなど不可能だ。文字通り地下に潜ったのでなければ、だが。だがそれにしても、市長軍が地下の主導権を握っているいまとなっては有り得ないことなのだが。


「ユキのことも守ってやってほしい。

 あいつ、色々協力してくれてるけどまだ子供だからさ。

 もしかしたら、無茶なことをしたり的に狙われたりするかもしれない」

「まあ、身内のことは任せておけ。

 市長軍の協力者としてマークされているかも知れんからな。

 彼らを害する愚か者が現れたら、返り討ちにしてやるさ」

「そうですよ!

 ユキくんみたいないい子を傷つけるような奴は絶対許しません!」


 嬉しくなって、僕は思わず笑ってしまった。ここには仲間がいる、頼りになる仲間が。そうであるからこそ、僕はアウトラストなんて危険な場所に行くことが出来るんだ。


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