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少年探偵とサイボーグ少女の血みどろ探偵日記  作者: 小夏雅彦
第三章:闇の中より覗く瞳
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11-確保

 敵の頭部目掛けて刀を振るう。踏み込んできた敵の股間に刃を振り上げる。向けられて銃口を切り、返す刀で胴体を両断する。それは傍目に見れば、あまりに簡単な戦いだった。

 守りの要を失ったセルゲイは諦めずに突き進む。エリヤは跳躍した。地を蹴り、ビルを蹴り、三角跳びの要領で彼を飛び越える。そして、ポーターの前へ。


「逃がしはせんぞ、セルゲイ=グラーミン。

 それと、助けなど来ない」


 ぐっ、とセルゲイは言葉を詰まらせた。長年に渡り市議会に君臨するドンで会っても、彼は生身の人間だ。ロスペイルすら易々と下すエリヤと戦いにさえなるはずはない。


「何かを恐れているようだが、心配するな。

 こちとら市長軍とのコネを持っている」

「安心など欠片も出来んな。

 あいつらに捕まったら、いったい何をされるか……!」

「分からんかな。

 アンタがオーバーシアを売ってくれれば、こちらは高値で買うよ。

 それこそ、あんたの安全を確保することなんて造作もないだろうさ」


 エリヤとしては十分に勝算はあったが、しかしセルゲイはせせら笑った。


「市長軍などが私の安全を確保出来るものか。

 お前は何と戦っているのか知らない!」

「そうだな、知らないから教えて欲しいんだが……やれやれ、仕方がない」


 穏当に済ませるつもりではあった。だが、相手にはそのつもりはないようだ。エリヤは多少強引な手をとるために、殺気をぶつけてみた。セルゲイはたじろいだ。


「はン、殺意を向けられるのには慣れていないか?

 向けるのは大好きなのに?」

「なっ、なんだと? 何を言っている、貴様?」

「朝凪幸三という男の名に、心当たりはあるだろう。

 お前が殺した男の名を」


 セルゲイはその名前を聞いて、本気でキョトンとした表情を浮かべた。


「……何を言っているんだ、お前は?

 そんな奴は知らん。人違いであろう」


 エリヤはスッ、と目を細め、刀の柄に手をかけた。

 セルゲイは情けない悲鳴を上げた。


「そうか、そうか。お前はその名を、知らぬと申したか……!」


 そして、抜いた。

 銀線が閃き、セルゲイの悲鳴が地下都市に響き渡った。


◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆


 突如として聞こえてきた悲鳴。聞き覚えのあるものではないが、まさかセルゲイか? 僕は歩調を速め、エリヤさんが向かった方向に進んで行った。そこには――


「おお、虎之助くんか。そっちはもう終わったんだね?」


 白目を剥いたセルゲイを椅子にして煙草を吸っているエリヤさんがいた。セルゲイはビクビクと痙攣しているが、取り敢えず命に別状はなさそうだ。何をしているんだ?


「エリヤさん、相手は曲がりなりにも必要な人物なんですから……」

「分かっているさ。だが、留飲を下げる権利くらいは私にだってあるはずだ。

 だからいまはこうさせていてくれよ。市長軍には引き渡してやるからさ」


 エリヤさんは闇の中で紫煙をくゆらせた。地下を陣地としていた獣型のロスペイルは姿を現さない。激しい戦闘を恐れ、どこかに消えてしまったのだろうか。


「……爺さんの名前を出した時、こいつは覚えてないと抜かしやがってね。

 手前が死に追いやった人間のことさえも、こいつは忘れてしまえる。

 まったく、腹立たしいことだ」


 エリヤさんは寂しげな表情の中に怒りを滲ませながら言った。


「……なら、どうして殺さなかったんですか?

 憎い相手……なんですよね?」

「なら聞くが虎之助くん。

 キミは相手が憎いからと言って殺すような男なのか?」


 答えに詰まる。人を殺したことはない、だがロスペイルを殺して来た。

 間違ったことをしてきたとは思っていないが、しかし……


「意地の悪いことを言ってしまったね、悪い。

 まあ、こいつが死んだって私には何の問題もないのは確かだ。

 だから殺してやろうかとも思ったが……結局のところ同じなんだ」

「同じ、ですか? でも、エリヤさんとこいつじゃ……」


「同じさ。

 相手の人生を狂わせておいて、何も覚えていないって一点においてはね。

 私はいままで捕まえて来た犯罪者のことなんざほとんど覚えていない。

 あいつらにだってやらなきゃいけない事情があっただろう。

 私はそれを踏み越えて事を成して来た。キミも同じだろう、虎之助くん。

 何を成したいか、さ」


 にこやかに微笑み、エリヤさんはこちらに振り向いた。

 見惚れるほど美しい笑みを。


「さて、セルゲイを担いで上に戻ることにしよう。

 戻ったら戻ったで忙しいぞ」

「……そうですね。ローチもまだ、実は倒せていないんです。

 上に戻ったら、あいつもセルゲイを殺すために戻って来るでしょう。

 その時が、最後の勝負になるはずです」


 集中しよう、いまの仕事に。

 僕が何を成したいか、そんなことは決まっている。


「エリヤさん、上に戻ったら調べたいことがあるんです。

 手伝ってもらえますか?」

「調べたいこと?

 調べものなら、私よりもエイファの方がいいんじゃないか?」

「電子データは恐らく消されています。人手が必要なんですよ」


 上に戻ったら、いの一番に調べなければならない。


「ローチの正体を突き止めたい。

 あいつがいったい何者なのか、調べないと」


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