表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
少年探偵とサイボーグ少女の血みどろ探偵日記  作者: 小夏雅彦
第一章:サイボーグ少女と雷の魔物
8/149

03-名前を言えないあの人

 僕は根気よく聞き込みを続けた。エイファさんが電脳(ネットワーク)上で情報を収集してくれてはいる。だが、閉鎖空間でものを言うのは地道な地回りだ。


 僕は人々の好奇の視線に耐えながら、聞き込みを続けた。被害者イリアスと関わりのあった生徒は、それほど多くはない。あるいは警備員のように口を噤んでいるのかもしれない。金持ちの子弟が集う学校ではあるが、その中にはれっきとした階級がある。


 取り敢えず、分かったことはそれほど多くない。

 イリアスはそれほど稼ぎのよくないサラリーマンの家庭に生まれた。聡明で、勉強が好きだった彼女は好成績をキープ、奨学金をもらいここに来た。入学後も成績は優良、だがあまり評判の良くない生徒との関わりも見られた。死の数日前、追われていると仲のいい友人に相談したことがあったそうだ。


(不自然なほど情報が出て来ない。

 まったく、どうなっているんだ?)


 僕は端末に苛立ちをぶつけた。だが、エイファさんからの連絡はない。どうすれば犯人の存在を立証することが出来る? のっけから事件は暗礁に乗り上げかけた。


「兄さん? やっぱり、兄さんなんでしょう?」


 ぱたぱたと足音が聞こえて来た。

 しまった、考えに囚われて警戒を忘れていた。


「……ユキ。その、久しぶりだね」

「うん、久しぶり。こんなところで会えるなんて……夢みたいだよ」


 ユキは両目に涙をため、慌ててそれを拭った。心配性な奴だ。


「ねえ、兄さん。時間、空いてるかな? 久しぶりに、話しがしたいんだ」


 僕はしたくはなかった。

 とはいえ、行く先を見失ってるのは確かだ。


「……分かっているよ、ユキ。それじゃあ、どこに行こうか?」


 久しぶりにユキと会って、僕も喜んでしまっているのかもしれない。




 僕とユキはマルドゥクの学食に来た。

 学食とは言っても『外』のレストランと、それも上の方と変わらない。少数しか生産出来ない天然の(オーガニック)メニューが並んでいるのも特徴的だ。お茶一杯を飲むだけで、3日分くらいの食費が飛んで行く。


 僕らは色々な話をした。もちろん、話を振って来るのはユキだけだ。僕はそれに相槌を打つだけ。それでも、ユキは表情をころころ変えながら喜んでくれた。


「ねえ、兄さん。たまには家に帰って来ても……」

「ユキ、その話はしないでくれ。僕は帰るつもりなんてない」

「……うん、ごめんね兄さん」


 ユキは困ったように笑った。

 胸が締め付けられるような思いがした。


「……ところで、ユキ。

 亡くなったイリアスさんのこと、何か知らないかな?」


 だから僕は仕事に専念することにした。


「あまりガラの良くない人と付き合っていたみたい。

 他のクラスだったから詳しくは知らないよ?

 でも、廊下で偶然見た時、その……失礼だけどゾッとした」

「どうして?」

「とてもげっそりしていた。

 目元には深いクマが刻まれて、頬はこけていた。

 心配そうに友達が見ているんだけど、その視線にも気付かない。

 尋常じゃなかった」


 あまり親しくないユキから見ても異常な状態だったのだ。常日頃から接している両親が気付かないはずはないだろう。そんな少女が、学校で死んだ。不審に思って当然だ。


「っつかれー、ユキ。珍しいね、こんな時間に……

 ってあれ、どなた?」


 横からユキに話しかけて来たのは、勝ち気そうな赤毛の女性だった。


「御桜先輩。こちらは僕の兄さんです」

「初めまして、結城虎之助と申します。

 弟がお世話になっています」

「いいのいいの、世話になってるのはむしろあたしの方だからさ!

 ユキちゃん、中等部の子だけどよく働いてくれるからさ。

 おかげさまで楽させてもらってるよ」


 この人も生徒会の一員なのだろう。

 ユキが褒められて、悪い気はしない。


「あ、そうだ。御桜先輩、イリアスさんのことなんですけど……」


 ユキは気を利かせて代わりに聞いてくれた。だが、御桜さんは目を細めた。


「……そんなこと嗅ぎまわるなんて。ユキのお兄さんは警察なの?」

「いえ、違います。言っていませんでしたね、私立探偵をやっています」


 ふぅん、と御桜さんは僕を見た。


「あんまり深入りし過ぎない方がいいよ、この件には。

 誰でも知っているよ、誰が殺したのかなんて。

 でも、誰も言わない。その意味は分かっているんだろう?」

「分かってるよ。けど、それが僕の仕事なんだ。

 投げ出すわけにはいかない」


 御桜さんは僕の目を真っ直ぐ見た。

 まるで値踏みするように。僕はそれを見返した。


「……あいつは悪い男と付き合っていた。

 ライ=チェン、学校理事長の息子だよ」


 チェン一族と言えば、大規模重金属加工企業で財を成した大物だ。手に入れた財力で土木建築機械工業と言った様々な分野に投資もしている。当然、学校経営にも大きな影響力を持つ。

 誰もが口を噤むのも納得出来る。


「あいつがサウスエンドでヤバい薬を勝ってることは誰でも知っていた。

 そして、あいつがそれを試す度胸がないってことも。

 分かるだろう? イリアスは実験台にされた」

「そして、殺された。そう言うことなのか……!」


 ふつふつと怒りが湧き上がって来る。


 だが、どうすればいい?

 相手は大物だ。正攻法で当たれば潰されるのはこちらの方……

 真実は、かくて隠されるのか?


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ