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少年探偵とサイボーグ少女の血みどろ探偵日記  作者: 小夏雅彦
第三章:闇の中より覗く瞳
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10-三つ巴

「凄まじいな。なりたてであそこまで力を使いこなせるとは」


 スコープを覗き込みながら、デッドマークロスペイルは平坦な声で驚愕の言葉を口にした。変化が起こってから、モスマンが爆発四散するまでの間は10秒程度だった。彼女は圧倒的な膂力でモスマンを垂直に押し上げると、すぐに立ち上がり飛び上がった。自らが押し上げたモスマンを追い越し、背中に爪を突き立てた。


 モスマンはもがき、爪を外し飛んで逃げようとした。だが、優香はしつこかった。モスマンの体を掴み、腕を捻じり引き千切った。悲鳴を上げ体勢を崩したモスマンに残ったもう一本の腕を掴み、乱暴に投げ捨てた。もちろん、腕は肩から外れてしまった。


「こちらデッドマーク。どうやらマズいことになったようだ。

 暴走状態に陥っている」


 優香が地を蹴り跳躍、先ほどのビルの屋上に戻った。恐怖を失ったローターロスペイル2体が彼女に飛びかかって行くが、無駄だ。彼女を切り裂こうとしたローターは筋肉によって受け止められ、弾かれ、首を刎ねられた。2体のロスペイルが爆発四散した。


「やれやれ、バカバカ壊してくれる。

 タダではないんだぞ、それは」


 デッドマークは尚も落ち着いていた。優香は先ほどのアンブッシュで得た位置情報を頼りに跳んだ。蹴りの衝撃でコンクリートが砕け、天井が崩落した。デッドマークは特注の20mmAL(アンチロスペイル)徹甲弾を放った。だが超音速の弾丸はあっさりと優香に弾かれた。軌道上にいた人間がクズ肉に変わるが、彼女は意に介さない。


「やれやれ、参ったな。

 俺はあいつらのような化け物ではないのだ」


 専用ライフルのボルトを引きながらも、彼はもう一度トリガーを引くことはないと思っていた。なぜなら超音速で迫る優香はすでに彼の鼻先にいたからだ。


「イヤーッ!」「AAAARGU!」


 しかし、優香に横合いから蹴りを入れる者がいた。蹴りの反動でそれは反転、着地し、デッドマークを守るように立った。優香は屋上を滑りながら体勢を整えた。


「デッドマークよ、無事か!

 モスマンが死んだと聞いたが本当か!」

「本当だ、この目ではっきりと見た。

 あの小娘、化け物だ。油断するな」


 黒銀まだらの怪物、ゼブラロスペイルは油断なく構えを取った。両手の指を第二関節で曲げた蹄鉄めいた構えは、掌打とチョップを使い格闘戦を組み立てる彼が独自に考案したものだ。両足にはキック力を増強させるためにスパイク蹄鉄を付けている。


「手に余る。増援が必要だな、こいつを捕まえるには」


 スパイクで抉られた傷が見る間に修復されていく。体格から生み出されるパワーとスピード、そして再生能力。ロスペイルとしてはシンプルな方に入る能力だが、その力の強さは正しく規格外。能力だけを見れば『十三階段』にも匹敵するだろう。


「『十三階段』の力に期待するとしよう。

 一人はもう死んでしまったわけだが」

「モスマンは驕りが過ぎた。だが私はそうはいかぬ。

 キャリアの差を思い知らせてやる」


 ゼブラは両手を突き出し、中腰立ちになった特殊な構えのまま優香に近付いた。しかし、途中で危険を察知しバック転を打つ。彼が一瞬前までいた空間を、そして逃げた彼を追って光線が撃ち込まれる。

 彼は全弾を回避した。


「この攻撃、ジェイドか。背教者が……!?」


 敵の接近を察知したゼブラは、しかし目を剥いた。

 一人ではなかった。


「貴様は……まさか!

 クラークからは死んでいたと聞いたが……!」


 エイジア、そしてセラフ。

 オーバーシアの反逆者二人がこの場に立ったのだ。


◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆


 僕は片膝で経ち、周囲を見渡した。20m、橋と端とに立った御桜さんと二体のロスペイル。一体は銀黒まだらの顔が突き出た怪物、もう一人は素体めいた出で立ち。


「御桜さん、大丈夫ですか!

 しっかりして下さい、もう大丈夫です!」


 僕はオーバーシアの刺客から目を逸らさぬまま、御桜さんに呼びかけた。しかし、返答はない。恐るべき獣の方向が辺りに響き渡るだけだった。


「おやおや、理性を失ってしまっているのかな?

 まあ、無理もないだろうけどね」


 ジェイドはどこか、僕を嘲るような調子で言った。御桜さんは両足で力強く大地を踏みしめ、野性的な構えを取った。僕たちをも殺すつもりなのだろうか?


「ああなったら戻るのか、ジェイド! 御桜さんは……」

「ロスペイルになった人間は、二度と元には戻らない。

 細胞レベルでロスペイルと癒着しちまうからな。

 人間としての姿は、むしろ彼らの擬態だと言っていいだろう。

 ロスペイルとしての姿が本当なんだ。元に戻るワケがないだろう?」


 ぬうっ、と僕は呻いた。

 二度と元に戻らない……覚悟はしていたが、まさか。


「背教者が2人に、新たな巫女が加わるか。

 今日は記念すべき日となるな」


 まだら色の怪物が恍惚とした風に言った。

 素体の方は銃を弄り、黙ったままである。


「気を付けろ、あいつはゼブラロスペイル。

 オーバーシア幹部『十三階段』の一人だ。

 格闘戦の実力ならジャッジメントにも匹敵するだろう。

 隣の奴も、まあ危険だ」

「あいつらに負けるわけにはいかない。

 御桜さんを取り戻して、あいつらを倒す」

「人を殺すなと言っていたが、虎之助くん。

 ロスペイルは殺して構わんのか?」


 一瞬、言葉に詰まった。

 彼らもまた、人間としての側面を持っている。

 一瞬迷ったが、しかし。僕のやることは、もう決まっているのだ。


「御桜さんを殺すようなことがあってみろ、貴様を僕が殺してやる」

「怖いね。ならば、あのお嬢さんを殺さないように気を付けないとな」


 ゼブラ、そして御桜さんが腰を落とした。

 僕とジェイドはそれぞれ別々の方向に飛んだ!


 三つ巴の壮絶な戦闘がいま、ここに始まった!


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