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少年探偵とサイボーグ少女の血みどろ探偵日記  作者: 小夏雅彦
第三章:闇の中より覗く瞳
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10-彼女の背中を追い掛けて

 エイジアの体が光に包まれ、装甲が分解された。その下から出て来たのは、まだあどけなさを残す少年。クラークの心に少しだけ申し訳なさが湧き上がって来るが、しかし異教徒ゆえに仕方がない。エイジアがぐらりと揺れた、優香は着地した。


「おはよう、御桜優香くん。

 おめでとう、キミは生まれ変わったんだ。神の使徒として」


 パン、パンと手を叩くと、まだ意識のはっきりしていない優香がクラークの方を見た。過剰摂取された鎮静剤の副作用だ。彼女の右腕は未だ太く鋭い怪物のものであった。

 彼女は自分の目の前にそれを持っていき、悲鳴を上げた。


「これッ、は……! これは、いったい何なんだ!

 あ、あたしは、どうなった!?」

「キミは神の使徒へと変わったんだ。喜ぶべきことだ。

 人よりも強い体になったんだ」

「神の使徒!?

 これが、こんな、化け物の体が、カミサマのものだっていうの?!」


 狼狽する優香に、クラークは優しく手を伸ばした。

 彼女は、その手を――


 振り払うべく、右腕の爪を振り上げる。クラークは寸でのところで手を引き、続けて放たれた左の爪をもバック転で回避! しかし額には裂傷が刻まれている。


「ハァーッ……ハァーッ!

 ふざけるな! あたしは、あたしは!」


 優香は床を蹴り、窓を割って外に飛び出した。そして爪を壁面に突き立てビルを昇って行く。この短時間でロスペイルの力を使いこなしている。クラークは驚嘆した。


 通常、人間がロスペイルになるまでは長い時間が必要だ。特に、抵抗力を持った人間が意志を持ったままロスペイルになるのは。だが、たかだか十数時間であれほどの細胞変化を行うことが出来るとは。クラークは額を拭った。傷はすでに消えていた。


「モスマン、部隊を率いて彼女を追え。

 絶対に逃がしてはならない、いいね?」


 クラークは携帯端末を取り出し、待機中の部下に連絡を取った。


『彼女はサウスポイントに逃げている。

 いまはフェスティバルの最中だったと思うが?』

「上で戦え。彼女も下には降りぬだろう、被害を許容せぬ故な」


 ニッとクラークは笑った。

 最悪の場合、被害が及んでも構わぬと思っているのだろう。


『かしこまりました、ボス。

 あのガキに力の差というもんを教えてやりますよ』


 通信はすぐに切れた。クラークは血の海に倒れたエイジアを見て、止めを刺すべきかと思案した。そして、すぐに結論を出した。すでにこれは死にかけている。


「さらば、エイジア。

 キミは私に勝つことは出来ない、これまでも、これからも」


◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆


 薄汚れた室内、歩き回るネズミ。僕はどうなった?


「やあ、ドーモ。ここは地獄の一丁目です。

 気分はどうだい、虎之助くん?」

「お前は……ジェイド!? どうしてこんなッ……!?」


 ひきつるような感覚を覚え、僕は自分の体を抱いた。先ほど自分の身に怒ったことが思い起こされた。御桜さんを抱えると、彼女の腕が変身して、そして……


「どうして生きている?

 僕は、腹を貫かれてしまったはず……」

「俺が生き返したんだ。

 感謝して欲しいな、あのまま放っておいたらキミは死んでいた」

「彼女は、御桜さんはいったいどうなってしまったんだ!」

「知らないよ。誰がここにいたかもしらん。

 だが、逃げたのは確かみたいだな」


 ジェイドは目を閉じ、意識を集中させた。

 謎めいた儀式を終え、彼は指さした。


「あっちの方向に逃げて行ったみたいだな。

 だが、他にもロスペイルが多数。追い掛けられているみたいだな。

 なり立ての子を相手に結構なことだ。暇なのかな?」


 御桜さんが、追い掛けられている?

 ということは、彼女はここから逃れたのか?


 ならば、追い掛けないと。助けないと。

 僕は痛む体を強いて立ち上がった。


「しばらくゆっくりしていなよ、虎之助くん。

 キミが負った傷はそれほど浅くないんだ。

 僕が塞いでやったとはいえ、いささか致命的だ。

 死にたいのならば話は別だがね」

「死にたかないさ……

 けど、追い掛けないとまた誰かが犠牲になる……!」


 呼吸を整え、一瞬目を閉じる。ポケットの中にキースフィアがなかったので、周囲を見渡してみた。地面に落ちていたスフィアを手に取り、バックルに挿入しようとした。


「やれやれ、虎之助くん。

 キミに死んでもらっちゃ困るんだけどなぁ……」


 ジェイドは後頭部をポリポリと掻き、僕の肩を叩いた。

 そしてニッ、と笑った。


「分かった、それじゃあキミの手伝いをしてやろう。

 御桜某とかいう子を助けたいんだろう?

 だったら俺が手を貸してやるよ。

 さっさと行って、終わらせようじゃないか」


 ジェイドは振り返り、窓の外を見た。

 彼の態度に、僕は困惑する他なかった。


「どうして、僕を助けるんだ?

 お前にとって、何にも関係はないんだろう?」

「関係はないが、あいつらと戦う駒をこんなところで浪費したくはない。

 小娘一人を守るために瀕死の体で行って勝てるような相手じゃない。

 アンダーも出て来るだろうしな」


 『十三階段』。

 彼はオーバーシアの保有する戦力のことも把握しているようだった。


「どうしてそんなことを知っている、なんて聞いたって答えはしないんだろ?」

「分かっているじゃないか、虎之助くん。細かいことは言いっこなしだ。

 俺はお前を助けてやる、だからお前は黙って俺に助けられていろ。

 何か理由が必要だっていうなら、地下での借りを返すってことでもいい。

 さて、問答している時間はないぞ?」


 目の前の男は信じられるのか?

 信じられない、だが強いことに変わりはない。


「分かった、ジェイド。一緒に行こう。ただし、一つ条件がある」

「条件。俺に条件とはな。さっき言っただろう、黙って……」

「人を殺すな。それを守れないなら、僕の敵は一人増えることになるぞ」


 僕は精一杯の怒りを込めてジェイドを睨んだ。

 彼はきょとんとした表情をした。


「それじゃあ行くぞ。変身」


 僕はエイジアの力を身に纏い、窓枠を蹴って倉庫の屋上に降り立った。周囲を見渡してみるが、やはり御桜さんの痕跡を見つけることは出来なかった。


「やれやれ、一人じゃ目標も探せない奴が条件とは。

 まったく、キミには驚かされる」


 少し遅れてジェイドが隣に立った。

 先ほどの問いに了承した、という風だった。


「彼女が行ったのは向こうだ。

 さっさと対処しないと、被害者が増えることになるぞ」


 彼が指さしたのは、いままさに祭りの執り行われている現場だった。

 僕たちは同時に屋根を蹴り、現場へと向かって行った。


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