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少年探偵とサイボーグ少女の血みどろ探偵日記  作者: 小夏雅彦
第二章:黄と赤と幻の都
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09-殺人マシンの真実

 煤煙が絶え間なく吐き出され、耐えがたい汚臭が周囲に満ちる。汚濁を固めて作ったシティの中にあってさえ、ここは異彩を放っていた。トルニクス産業廃棄物処理場、様々な汚染物質が昼夜を問わず持ち込まれる場所だ。そして社長は例の会合の参加者でもある。


「ここがトルニクス……

 来たことはなかったですけど、凄まじい場所ですね」


 小高い丘になっている場所から、僕たちは処理場を見下ろしていた。

 肝心の処理施設は蒲鉾状の屋根に覆われ確認出来ないが、恐らくはここに何かがあるはずだ。そう思ってみていると、トラックが走って来た。オニキス社のマークを付けている。


「オニキス社……社長がいなくなってもまだ存続しているんですか?」

「ああ、アドバイザーでもあった男が社長に就任したというニュースがあった。

 名前は何と言ったかな、虎之助が調べていた男だったはずなんだが……」

「オックス=トランス? あの男が社長になるなんて……どういうことだ?」


 あるいは最初からこれが目的だった、とか?

 タイミングを待っていたのだろうか?


「とにかくあのトラックを追ってみよう。

 何か分かるかもしれないから、な」


 そう言って二人はバイクに乗り込んだ。僕には二人ほどの身体能力がないし、ああいう潜入仕事も不得意だ。だから奥に控えて、万が一の時に備える。無線は常にオンだ。


 二人を乗せたバイクは外周に沿ってオニキス社のトレーラーを追い、そして路肩で停止した。二人は検問を終えたトラックにしがみつき、よじ登り、内部に入って行った。相変わらず強引な仕事ぶり。僕は二人の行動をスコープで監視しつつ、周囲の状況を探った。


 見たところ、ごく普通の廃棄物処理場だ。もちろん、ここは人目に触れる場所だから当たり前なのかもしれないが……そう考えていると、警報が鳴った。同時に、場内で大爆発が起こった。二人に連絡を行おうとする、だが通信機からはザリザリと音がするだけだ。


「エリヤさん? クー? もしかして、繋がらない?

 ジャミングされているのか?」


 嫌な予感がしてくる。

 二人が死ぬようなことはそうそうないだろう、が……


 不意に感じた不安は、僕の背後に突如として現れた。僕は慌てて横に跳んだ。直後、僕がいた場所に何かが振り下ろされ、巨大なクレーターを形作った!


「侵入者を発見。機密保持のために、殺害します」


 僕の背後に現れた男は、2mほどの身長と100kgを越えるであろう身長を備えた巨漢だった。それにしても、この力は異常だ。人間のものではない、すなわちロスペイル。直観を裏付けるように男の体が光に包まれ、鈍色の金属体に変わって行った。


(参ったな、さっきので通信機がイカれた。

 手間取ってる場合じゃないのに……)


 僕はキースフィアを手に取り、バックルに装着した。

 迫り来る大男を見る。


「変身!」


 僕の体がエイジアの装甲に包まれる。繰り出された張り手めいた一撃を身を屈めてかわし、カウンターの右を叩き込んだ。巨漢のロスペイルは咳き込み、たたらを踏んだ。その場で反転、後ろ回し蹴りを繰り出す。あっさりとロスペイルは吹き飛んだ。


「いきなり襲い掛かって来るとはな。何が目的かは、聞かない。

 ここにいられちゃマズいことがあるんだろう?

 だったら先に進ませてもらうぞ、化け物」


 僕の言葉にも、男はまったく反応しなかった。

 よろよろと立ち上がり、そして構える。違和感を覚える、あれだけのダメージを受けているのに無反応でなどいられるものだろうか? 訓練をしていれば痛みを誤魔化すことは出来る、だが蓄積したダメージで四肢を動かすこともままならないはずだ。少なくとも今までのロスペイルはそうだった。


 肉体に蓄積したダメージを無視してロスペイルが突進を仕掛けて来る。そして、太い腕を風車めいて振り回してくる。風切音が聞こえるほど凄まじいパワーとスピード、一撃でもまともに食らえば重篤なダメージを負うだろう。だが動きは極めて単調だ。


 僕は左足を引き、上体を後ろに逸らしてなぎ払われた腕を回避。手首の部分に向けて白熱剣を打ち込む。金属が溶ける音がしたかと思うと、深い傷が刻まれた。


(その損傷なら、まともに拳を握ることすらも出来ない……!)


 痛みに退くと思った、だが現実は違った。男は損傷を無視して逆の腕を振り払った。逆の足を引いてギリギリのところで攻撃を回避、その腕に刃を叩きつける。だが止まらない、傷つついた腕を振るい僕に攻撃を仕掛けて来る。僕は逆の足を引き刃を叩きつける。手首の半分ほどまでが切り裂かれ、落ちかけるが、しかし止まらない!


(どうなっているんだ、こいつ!

 まともな神経が通っているとはとても……)


 そこで、僕は気付いた。男の頭部に不自然な盛り上がりがあり、そこから何本ものLANケーブルが伸びていた。まさかとは思うが、しかし……!


 僕は後方に大きく跳び、体勢を整えた。男は力任せな突進を仕掛けて来る。振り払われた腕が僕に到達する、ギリギリのところで僕は跳んだ。拳が肌を掠める感触を覚えながらも、僕はベリーロールめいて回転しながら刃を振るった。男の側頭部が深々と切り裂かれ、金属が焼ける匂いが辺りに立ち込めた。


 火花が舞い、そして男が悲鳴を上げた。


「やはり……! あの機械で痛みを誤魔化していたのか!」


 痛みをほとんど、あるいは全く感じないようにしていたのだ。筋肉の損傷も考慮しないようにしていたに違いない。だからこそダメージを受けてもあれほど早く立ち上がれた。


「アッ……アアッ……俺は、俺はいったい……

 俺はどうしたんだ?」


 男は手を突き立ち上がろうとした。だが、腱を切られもはや腕に力を込めることは出来ない。ずるりと崩れ、また地面に叩きつけられた。泣き声が聞こえて来る……泣き声?


「あんた……どうして。泣いているのか?」

「誰だ、キミは。どうした、俺は。

 どうしてこんなところに、どうしてこんな姿に?」


 彼はまさか……自分がロスペイルになってしまったことを知らないのか? そうであるならば、あの機械は単に痛覚を除去するだけでない、自由意志さえも奪ってしまうものなのか? 人間を、ロスペイルを、殺人マシーンに仕立て上げるための?


「どうして俺はこんなところに……

 家に、家に帰りたいんだ……」


 ロスペイルは寝転がり、仰向けになり天を仰いだ。

 僕は彼に、手を差し伸べた。


「帰りましょう、きっと帰れます。

 僕があなたを、家まで送ります」


 正直なところ、罪悪感があった。

 彼を傷つけてしまったことへの罪悪感が。


 彼は僕の手を取ろうとしたが、寸前で痙攣した。筋肉に緊張が走る、彼は背筋と足の力だけで垂直に飛び上がり、立ち上がった。そして僕を睨む、そこに理性はなかった。


 ブースト機構を作動させ、白熱剣を形成。

 それを胸に向かって繰り出した。


「アア……アア、帰らなきゃ、家に。

 待ってる人が……私は、まだ」


 胸を抉られ、男は、ロスペイルは爆発四散した。


「ッ……! あいつら、こんな、こんな非道な真似を!」


 ロスペイルは単に人を殺すだけの化け物。

 かつてはそう思っていた、だが違う。


 赤い戦士のような、人を守る者がいる。

 野木さんのように、妄執に囚われた者もいる。


 すべては千差万別、人それぞれ(・・・・・)だ。彼らは人間の意志に引きずられる。

 その意志を機械によって調律し、マシーンに仕立て上げることなど!


「エリヤさん、クー。僕が行くまで、無事でいてくださいよ……!」


 僕は走り出した。

 邪悪な施設に向かって、彼らの野望を砕くために!


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