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少年探偵とサイボーグ少女の血みどろ探偵日記  作者: 小夏雅彦
第二章:黄と赤と幻の都
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09-朝食中のブリーフィング

 目を覚まして扉を開き、昨日起こったことが夢でなかったと認識する。いまもソファの上では少女が眠っている。僕は彼女を起こさないように朝食の用意をした。


 朝食とは言っても、大したものではない。

 缶詰に入ったソイペーストを皿に盛り付け、温める。フレーバーを振りかければ完成だ。味もそっけもないものだが、取り敢えず腹に溜まるし栄養もあるらしい。平均的な都市住民の食卓だ。


 バイオ食物もあることにはあるが、やはり生理的な嫌悪感が先立つ。足が何本もある生物や恐ろしい顔つきをした魚、人間大にまで肥大化したバイオカニを食べたいとはあまり思わない。『マーセル』のようなレストランは少数派だ。


「うーん……何だか、美味しそうな匂いが、しますの……」


 目をこすりながらアリーシャが起き上がって来た。

 視線の先には僕の朝食。


「……食べるかい、アリーシャちゃん?」


 こくりと頷き、手を出して来た。落とさないように祈りながら、僕はそれを差し出す。二人してソファに座り、今日の一食をありがたく頂戴する。


「……匂いよりマズいですの」

「食べたくないなら食べなくてもいいんだよ。

 これ以外に食べるものはないけど」

「……だったら最後までいただきますわ。うーん……」


 文句を言いながらも、アリーシャはソイペーストを完食した。凄まじくマズい合成コーヒーを飲み干し、意識を無理矢理覚醒させる。さて、今日はこれからどうしたものか。


「おはようございます、トラさん。

 朝食までもう召し上がっちゃったんですね」

「おはよう、クー。

 どうしたの、もしかして何か持って来てくれたの?」


 現在、クーはエリヤさんと一緒に生活している。アリーシャがいるから、というのもある。いまの事務所は複数人で暮らすにはあまりにも手狭過ぎるのだ。


「へへへ、実は近くに『マーセル』がありましてね。

 いくらか貰ってきました」


 アリーシャが匂いを嗅ぎつけ、立ち上がった。

 僕は丁重に遠慮しておく。


「何だ、食わないのか? 滋味だぞ?

 実際、これを食った後には調子が上がる」

「その方がむしろヤバいんじゃ……?

 とにかく、僕は遠慮しておきます」


 バイオ生物など、何が入っているかも分からない。熱烈なシンパである二人には悪いが、僕は決して口にする口にする気になれない。窓を開き、街並みを見つめた。


「タコ!」「おっ、お目が高い。バイオテンタクルです」「美味いぞ」


 ……豊かな香りと三者がそれぞれ口にする感想に、心惹かれないでもない。と言うわけで、三人が食事をする2、30分の間、僕は空腹を堪えながら待つ羽目になった。


「いやー、美味しかったですね。

 牧野さん、また腕を上げられたみたいですねー」

「ああ、牧野さんにも会ったんだ。どう、彼女。元気だった?」

「いまは厨房を任されているそうですよ。

 夢に向かってのステップアップです!」


 牧野さんの躍進を、クーはまるで自分のことのように喜んだ。彼女の夢が叶いつつあるのならば、僕も嬉しい。家族を失った彼女の道しるべは、もうそれだけなのだから。


「さて、本題に入ろうじゃないか。

 まずは昨日起こったことの整理だったな?」

「ええ。それが終わったら仕事に戻りましょう。

 結局、僕らは何も分かっていない」


 ノアがロスペイルだったこと、そしてあの坑道で爆発四散したこと。核心へと迫る手掛かりは目の前で消えてなくなった。また一から事件を調べなければならないのだ。


 取り敢えず、僕から先に円柱に入った後の経緯を話した。

 二人はそれを静かに聞く。


「最大の謎は、ジェイドがどうして地下構造体にいたのかということだな」

「あいつは表にいると追われるからだ、と言っていました。

 ですが所在すら不明だった地下都市構造体をどうして知っていたんでしょう?

 彼にはまだ語っていないことが多くある。

 そして、それは今回の謎に深くかかわっている……そんな気がします」


 ジェイド、謎多き男だ。そして、多くのことを知っている。あの男を追うことが、事件の謎を解くカギになる。何となくだが、僕はそんな気がしていた。


「そっちはどうやってあそこに入って来たんですか?」

「うむ、そこにも謎があってな。クーちゃんがあれを開けたんだが……」


 彼女は淀みなくロックを解除し、地下への扉を開いたという。それだけでなく、地下都市の案内すらも行った。最終的に見つけたのが、あの武器とバイクだという。


「クー、どうしてそんなことを……

 って言っても分からないんだよな」

「うー、もやもやしてて自分でも気持ちが悪いんですけど。

 でも、さっぱり分からないんです。

 ただ、頭の中に光の点が浮かんで来たような、そんな気はしたんです」


「光の点……内蔵レーダーか何かに捉えたということか。

 と言うことは、あのコンテナはやはりキミのために用意されたものだ。

 実に興味無事かい事象だな」


 地面にめり込んでいた、と言うよりは生えていたコンテナ。クーのために用意された武器。それに、僕自身にも腑に落ちない現象が起こっている。恐らくは生体認証であろうシステムを、僕は突破した。僕のデータが登録されていたのは、何故なのだろう?


「これが何なのかはさっぱり分からないですけど……

 使えるものは使わないと、ですね」


 クーはポケットから二つの金属塊を取り出した。僕はそれを手に取ってみる、ほとんど重さを感じない。だが、彼女が握るとこれは一瞬にして武器に変身する。


「まるでエイジア・システムだな。

 これもまた、虚と化した実体を持っているのだろう」

「オーバーテクノロジーで作られた武器、か。ワケが分かりませんね」


 これ以上、ここでそれを考えても仕方ないだろう。

 分からないと分かっただけでいい。


「いま解決すべきは、ロスペイルの問題です。

 ノア=ホンはいったいどんな秘密を握っていたのか。

 それを調べなければ、この事件は決して先に進まないでしょう」

「左様。では、行くとするか。まずはノア=ホンの住居を調べてみよう」


 僕は頷いた。探偵の領分から離れた、違法行為さえ内包する調査になるだろう。だが敵も法の枠に囚われない存在だ。ならば、迷っている暇など万に一つも存在しない。


「お出かけですの? 私も行きます!」

「いや、別に楽しいお出かけに行くわけじゃないんだけど……」

「いいだろう、虎之助くん。

 どうせ、彼女を置いて行くわけにはいかないんだ」


 まあ、仕方がないか。ノアの自宅はノースエリア、この街でもっとも治安のいい地域だ。ジャッジメントが出現したこともあるが……まあ、その時はその時だ。


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