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少年探偵とサイボーグ少女の血みどろ探偵日記  作者: 小夏雅彦
第二章:黄と赤と幻の都
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08-決死の脱出行

 ベヒモスが腕を振り上げる。僕たちは狭い路地の中を駆けた。振るわれた腕がコンクリートを破壊し、通路を広げる。背後に腕を向け、小刻みな熱弾を発射する。


「無駄だな。あの質量が相手じゃ、それこそ焼け石に水……

 いや水に焼石……」

「下らないことを言っている場合じゃないだろ!

 どうするんだよ、これは!」


 曲がり角で跳び上がり、壁を蹴る。三角跳びの要領で速度を落とさずに通過、コンマ数秒後に突っ込んで来たベヒモスがビルをなぎ倒しながら追い掛けて来た。


「ここから1kmほど行った場所にポーターがある。

 キミの足なら1分もかからんが」


 セラフは背後に槍の穂先を向け、ビームを放った。ベヒモスの苦し気な――あるいは鬱陶し気な――叫び声が聞こえて来た。いずれにしろ、奴を殺すのにこの火力では不足。


「問題は幅の広い直線道路だってことだ。

 ベヒモスが一番得意とするフィールド。

 こんなのに追い掛けられるなんて思ってなかったからなぁ……」


 そうこう言っている間に、僕たちは路地を抜けた。ジェイドは左に向けて走り、僕もそれに続いた。眼前にはドーム状の小さな建造物がある、あれが『ポーター』?


 背後からビルを破壊しベヒモスが迫る。僕らは止まらずに走った。エイジアのセンサーが危険を告げる、僕は全力で右に跳んだ。ベヒモスが放った火炎の球体が、コンマ数秒後アスファルトに叩きつけられた。一瞬にしてアスファルトが沸騰し、爆発した。焼けた意志から少女を庇いながらも、僕は走った。出鱈目に放たれる火炎弾をジグザグに走り回避した。残り500mを切った、これならば……!


 その時、ベヒモスは僕たちの目的を知った。

 そして、それを妨害すべく動いた。ポーターの隣にあった建物、そして進路上にあった建物に巨大な火炎弾が撃ち込まれた。支えを失った建造物が横向きに倒れ、僕たちの進路を、そしてポーターを押し潰す!


「しまった、ポーターが!」

「安心しろ、虎之助くん。

 ポーターはソルメタル製、コンクリート塊程度じゃビクともせんさ。

 もっとも、俺たちがここから生きて出られるかは分からんがね……」


 大地を揺るがしながら、ベヒモスは四本の足でこちらににじり寄って来た。太い足がアスファルトに振り下ろされる度に、破壊が生じる。口の端から炎がチロチロと漏れる。正面から目の当たりにして初めてわかる、規格外の存在感。


 どうすればいい? 何をすれば勝てる? 心臓の音が体内で低く響く。ドッ、ドッ、ドッと、まるで自分の心音を外から聞いているような錯覚に陥る……


 否、心音ではない!

 重低音が響き渡り、僕の耳を揺らしているのだ!


 そしてそれは僕だけではない、ジェイドもベヒモスも同様だ! 何が起こったのか確かめるために首を振るう! そして僕は、誰よりも早くそれに気付くことが出来た!


「クー!?」

()っていましたよ、この時をねぇ!」


 クーが何かを伴ってこの場に現れた。

 それは、巨大な鉄の塊であった。ボディは重量感あふれるメタリックブラックで塗装されており、見るものに畏怖を想起させる。剥き出しのフレームが鈍色に光り、巨大な車輪が道を阻む者をすべて轢殺せんとばかりに激しく回転する。バイク、そうとしか表現出来ないものだ。


 だが、後輪の左右に配置されたボックスはただのバイクにはないものだ。ハーレー・ダビットソンめいた、威風堂々とした出で立ちだが、そこだけは違っていた。もしかしたらベースから改造したものなのかもしれない。クーデリアはハンドルから手を離した。


 彼女の両手にはライアットシールドくらいの大きさの鉄板が握られていた。彼女は立ち乗り状態になりながらそれをベヒモスに向けた。すると、シールドが変形した。


「!?」


 僕もジェイドも何が起こっているのか理解出来なかった。ベヒモスはその巨体故に振り返ることさえまだ出来ない。モーターの回る音が辺りに響き、そして解き放たれる! クーはベヒモスの尻に向けてシールドガトリングガンを発砲した!


「ガアアアァァァァーッ!」


 ベヒモスの苦し気な叫びが響いた。超大型、そして超高速の弾丸に穿たれては、さしものベヒモスとてダメージを受けないはずがない。ベヒモスは痛みに呻いたのか、尻尾を乱暴に振り回した。ビルが崩れ、アスファルトが砕かれ、そしてバイクが襲われる!


「エリヤさん、運転の方は頼みましたよーッ!」


 クーは跳んだ、バイクの上で。上体を限界まで逸らし尻尾の一撃を避け、ムーンサルト跳躍でバイクの後部シートへ。その又下を潜り、エリヤさんがハンドルを握った。


 後部座席に立ち、クーはガトリングガンを連射した。

 ベヒモスの臀部、太もも、脇腹。クリティカルな位置に弾丸が撃ち込まれるが、しかしベヒモスの巨体は揺らがない。尚も執拗に尻尾を振るい、二人を追う。エリヤさんの頬がニヤリと歪んだ気がした。


「下を潜るぞ、掴まっていろよクーちゃん!」


 クーは射撃を取りやめ、エリヤさんの体を掴む。彼女は敢えて車体を倒し、なぎ払われた尻尾を回避した。バイクは慣性に従い突き進んで行く。クーはガトリングシールドを上に向け、放った。ベヒモスの股間に何百、何全発もの弾丸が撃ち込まれる!


「うわっはぁ、あれは痛そうだ。

 化け物にアレがあるんなら、の話だけどさ」

「クー、それにエリヤさん! どうしてこんなところに……

 それに、それはいったい?」

「お前さんが戻らんから探しに来てやったんだよ。

 そっちもそっちで……」


 エリヤさんは上体だけを後ろに逸らし、懐から取り出したナイフを投げた。超音速で放たれたナイフはベヒモスの眼球に突き刺さった。予期していなかった目への攻撃にベヒモスは叫び声を上げ、出鱈目に炎を放った。あれがなければ焼け死んでいただろう。


「厄介事を抱えているみたいだな。

 さっさとここから脱出するぞ」

「……そうですね、これ以上あんなのに構っている暇なんてありません!」


 僕は装甲を腕に集中させ、炎熱砲を放った。

 コンクリートが焼け溶け、ポーターへの道が再び解放された。


「この先に出口があります!

 エリヤさん、クー、行きましょう!」

「分かりました、トラさん!

 でも、その前にこいつだけは止めておかないと……!」


 クーは足を肩幅に開き、内股姿勢になった。

 野木さんから習った三戦(サンチン)立ちに似ている。ようするに、衝撃を受け流すための型だ。彼女の両腕に装着されたライアットシールドがメキメキと音を立てて変形し、また別の形を取った。


 背部に当たる部分には排気口めいたものが付いている。先ほどのガトリングガンよりも厚みがあり、重厚感がある。クーがそれをベヒモスに向けると、前部に取り付けられていたハッチが開いた。そして、そこから円筒状の物体がいくつも飛び出した。


「ミサイルモード……ファイア!」


 白煙を撒き散らしながら円筒物体――ミサイルがベヒモスに向かって飛んで行く。着弾したミサイルがベヒモスの体表で爆発。ベヒモスの叫び声が、傷ついた体が、爆炎と衝撃の中に消えて行った。


 僕たちはあまりの事態を、ただ見ているだけしか出来なかった。


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