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少年探偵とサイボーグ少女の血みどろ探偵日記  作者: 小夏雅彦
第二章:黄と赤と幻の都
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08-死せる都市に生きるもの

 地下構造の深奥、ネノクニへの回廊めいた薄暗い通路を僕たちは進んでいた。張り巡らされたマイントラップ、マシンガントラップ、そしてレーザーシャッター。常人なら何度も死んでいるだろうし、エイジアの力だけでも突破出来なかっただろう。すべてはジェイドの助けがあってこそ。彼はトラップの位置関係を熟知し、ハッキングでそれらを無効化した。


「ホントに助かるよ。キミがいなけりゃ本当に死んでいたところだ」

「それはどうも……僕を的にする作戦が成功したのはよかったじゃないか」

「不貞腐れるなよ、虎之助くん。本当に感謝しているんだぜ、俺は?」


 現在ジェイドは変身を解除している。僕も解除するように言われたので、そうしている。このトラップハウスをこれほどまでに無防備に進むことが出来るとは。恐らく最初のアタックではないのだろう。だからこうしていられる。


「お前、何度ここに入り込もうとしたんだ?

 随分慣れてるみたいだけど」

「都合3度目さ。最初は偶然、2度目以降は必然。

 結構頑張ったんだけど、最後のガーディアンを突破することが出来ない。

 どうしたもんかと首を捻ってたところにキミが来た」


 ガーディン? 初めて聞く単語だ、トラップの類ではないのだろう。

 僕たちはほとんど無言で歩き、そしてそこに辿り着いた。そこは、真っ白な部屋だった。壁も、床も、天井から降り注ぐ光でさえも。床と壁を交差する線だけがそれをタイルだと認識させる。


「これは……

 いままで通って来たところも相当だけど、ここはより一層……」

「おかしなところだろう?

 古代人と言うのはこんなところで暮らしていたんだぜ。

 目がおかしくなりそうなものだけどな。

 そして、お出ましだぞ虎之助くん」


 壁の一部が動作音を立て開き、深い闇がそこから現れた。僕はキースフィアを掴み、ジェイドもカードを手に取る。壁の中に二つ空いた穴から、何かが現れた。


「これは……ロボット、なのか?」


 つなぎ目のない装甲板で覆われたボディ、人形めいた球体関節。手足はほっそりしているが力強く、人間でいうところの尺骨からはマシンガンが伸びている。両足は人間のそれとは違い逆関節になっている。バイザーから赤い光が漏れ出し、探るように動いた。


「あれこそが地下の科学力を結集したオムニテック。

 人類最古のお宝を守るために配置されたガーディアンだ。

 気を付けろ、生半可なロスペイルなど問題にならんぞ。

 稼動領域が狭いから上に出てくるようなことはないが……」


 四本の腕が動き、マシンガンが放たれた。

 僕とジェイドは同時に変身した。


 展開された装甲が、凶弾の嵐から僕たちを守った。

 凄まじい衝撃だ、口径があまりにデカ過ぎる。市長軍が使用しているものよりももっと大きいだろう。ジェイドは銃弾を避けながらカードをロード、『SOLID』の機械音が狭い室内に響き渡った。


 青白い光が槍の穂先に収束し、放たれた。僕たちの前にソリッドロスペイルが現れた。ソリッドは両腕を重ねた手を成し、銃弾を受け止めながら前進していった。


 左の機械兵士が動く。右の兵士が銃撃を続ける中、それは壁に向かって飛び、壁を蹴り天井へ、そして天井を蹴りソリッドの背後に。降り立った時にはすでに終わっていた。機械塀は赤熱した爪を振るい、落下と同時にソリッドの延髄を切断したのだ。ソリッドはすべての力を失い、地面に倒れ伏す。降りて来た機械兵にジェイドが飛びかかる。


「さあ、お仕事の時間だ虎之助くん!

 もう一体の相手は任せたよ!」


 僕は両腕の手甲を強化し、右の機械兵に向かって駆けた。マシンガンの弾が装甲を抉るが、しかし貫通はしない。銃弾に効力なしと判断した機械兵は銃身を腕部に格納、近接戦闘用のヒートネイルを展開し、逆関節から生み出される爆発的な脚力を乗せた斬撃を繰り出して来た。手甲でそれを受け止め、赤熱機構でそれに対抗する!


 ヒートネイルの熱が周囲の大気を焙り、陽炎めいて揺らした。僕の使っているものと違って、エネルギーが周囲に拡散しているらしい。機械兵はヒートネイルを素早く引き、逆の爪を繰り出して来た。小刻みな連撃を前に、僕は防戦を余儀なくされる。


(強い! これほど俊敏な動きが出来るなんて……

 これがオムニテックの力か!?)


 機械兵は拳を握り込み、ストレートパンチを繰り出してくる。受け止めるが、その瞬間銃身が展開された。危機を感知した時にはもう遅い、銃弾が至近距離で放たれた!


「グワーッ!」


 軌道上にあったヘルムに銃弾が突き刺さる! 一撃で破壊にはもちろん至らない、だがバイザーを撃たれ視界にノイズが走る! よろめいた僕の体に機械兵のフックパンチが叩き込まれる。僕は苦し紛れに腕を振るい、機械兵を離そうとしたがそれは無理だった。


 機械兵はその場で2m強の大跳躍! 空を切った僕の腕を掻い潜り振り下ろすような蹴りを繰り出す! 強烈なパワーを受け僕は背中から地面に叩きつけられる! そのうえでマウントポジションを取る機械兵! 両腕を足で押さえ、何度も拳を振り下ろす!


「グワーッ! グワーッ!」


 ヘルムに振り下ろされる拳をかろうじのところで避けるが、しかし敵の拳は速く、正確で、そして強い! このままではヘルムを砕かれるのも時間の問題! どうする!


 一か八かだ。

 僕は背部にブースターを生成、それを一斉に点火した。


 ブースターの推力を前に、さしもの機械兵も堪えきれない。

 頭から天井に激突! 機械兵に痛覚はない。だが反撃のチャンスは得られた。僕は自由になった両手で機械兵の腰を掴み、スラスターの力も借りて力任せに投げ捨てた! 機械兵は空中で一回転、片膝を立てて着地! さすがに一撃で逆転とはいかないが、これでいい。


 先ほどの激突で、機械兵は首を大きく損傷している。火花がバチバチと舞い上がり、機械の体が時折痙攣する。ならば痛いところを突いて行く。両手の甲に電熱剣を生成、再び機械兵との距離を詰める。機械兵も近接迎撃動作を取るが、反応が鈍い。


 浅く振り払った剣を、機械兵は受けようとした。だが電熱剣に実体はない、空しく腕をすり抜け、首筋を焼く。電熱で内部の回線がショートし、一瞬右半身の力が抜ける。


「ここだ! ブーストスラッシュ!」


 斬撃のエネルギーを殺さぬままその場で一回転、出力を増強した逆の剣を振り払う。直撃によって首を断ち切られ、機械兵は完全に動作を停止した。


「さすがはエイジア。キミのおかげで相当楽をさせてもらった」


 振り向くと、機械兵のコアを貫くジェイドがいた。槍を引き抜くと、機械兵は力なく地面に倒れ伏した。どことなく哀れを思わせる光景だと、僕は思った。


「僕なんかいなくても、キミなら何とかなったんじゃないか?」

「冗談を言ってくれるな。さすがに2対1じゃ分が悪いんだ。

 生半可なロスペイルだとさっきみたいに殺されちまうからな。

 腕の立つ相棒が必要だったんだよ」


 ジェイドは変身を解除せず奥に向かった。

 僕はため息を吐きながらそれに続いた。


 何を考えているのか分からなかった。機械兵は確かに強かったが、高位ロスペイルほどではない。カードの組み合わせとジェイドの実力ならば容易に突破出来ただろう。だが、こいつはそうせずに僕を引き入れた。その意味が、この先で分かるのだろうか?


「えーっと、ここを開けるパスコードは……そうそう、これだ」


 ジェイドは7桁の数字を淀みなく打ちこんだ。ファンファーレめいた音楽が鳴り響き、機械兵が出てきた時と同じく扉が上にせり上がる。僕たちは室内に足を踏み入れた。


「ここは……玄室?」


 サウスエンドでクーデリアと会った時と同じような部屋が、そこにあった。10m四方の立方体、その中にはジェネレーターらしきものやケミカルチックな色合いの液体が並々と注がれたシリンダー、重厚な機械類があった。ここはいったい?


「玄室か。面白い表現だが、的を射ている。

 誰も立ち入ることのなくなった『彼女』の部屋。

 誰にも知られず、誰にも看取られずにいるなら……

 それは死んでいるのと同じだ」


 部屋の中心には部屋の壁と同じ材質の円柱があった。シリンダーや機械類は、すべてそこに繋がれている。円柱の表面はガラス張りになっており、中を覗くことが出来た。


「……子供?」


 そこには、そう、子供がいた。貫頭衣を着けた少女。歳は12、3歳くらい、ユキと同じくらいの背丈に見えた。クリクリとした目と小さな唇、腰まで伸びる亜麻色の髪の毛が印象的だ。何本ものチューブ、そして電極に繋がれているが、彼女の寝顔は安らかだ。


「これは……いったいどういうことなんだ!

 お前、人間はいないって!」


 ジェイドはその言葉を無視して機械を操作した。

 警告音が響き、棺桶が動く。

 円柱が開いたのだ。


「これが僕の探していたお宝さ。

 さあ、こいつを連れて外まで行ってくれるかな?」

「なに?」


「言い忘れていたがこれが3つ目の条件。

 この子を連れて外まで行ってくれ」


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