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少年探偵とサイボーグ少女の血みどろ探偵日記  作者: 小夏雅彦
第二章:黄と赤と幻の都
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08-地下都市構造体

 装甲展開が一秒遅ければ死んでいた。数百メートルの高さから落とされて、腰が痛い程度で済んでいるのは奇跡だ。僕は腰を押さえながら、薄暗い街を歩いた。


 そう、薄暗いのだ。地下都市に人気はまったくない、だが通路と天井にはぼんやりとだが明かりが灯っており、視界には困らなかった。だからこそ、荒廃した街の全容を見ることが出来る。まるで、何らかの戦闘によって破壊されたかのような街並みを。


 壁面には刀傷や銃痕、あるいは破砕痕が残っている。砕けたアスファルトの隙間からは植物が生え、ところによってはそれが僕の行く手を遮るくらいに群生している。窓という窓は割れ、内装も荒らされている。この街でいったい何があったのだろうか?


『安全な都市運営のためにご協力をお願いします』


 『警備』と書かれた飛行物体が赤い目をパトランプのように光らせながら飛行している。丸いドラム缶のようなロボットが清掃活動を行い、小さな円盤が汚れた壁を這い回る。あれはこの都市で使われていたロボットなのだろうか? 主となる人間がひとりもいなくなってからも、彼らはこうして都市を維持している。哀れさえ呼び起こされる。


「ああ、それにしても……

 どうやったらここから出られるんだ?」


 あの円柱から脱出することは不可能だ。エリヤさんたちの助けを期待するより、自分で出口を探した方が早いだろう。僕はそう思い、上には戻らなかった。だが……


「取り敢えず、街の中心にあった塔に昇るか。

 あそこからなら市街を見渡せる……」


 街の中心は広場になっており、中心には塔のようなモニュメントがあった。まるでザ・タワーだ。取り敢えず、あそこを目指そう。そう考え踏み出そうとした僕の耳に、物音が聞こえて来た。


 あの飛行機械か?

 そうではない、爪で地面を擦るような、そんな音が聞こえた。僕は身構え、キースフィアを取り出した。気配が段々と近付いてくる。僕は薄暗い路地の向こうに意識を集中させた。冷や汗が頬を伝い、鬱陶しい。


「違うな、後ろだ。

 そこから逃げた方がいいぞ、虎之助くん」


 えっ、と僕は振り向いた。その視界に銀色の物体が飛び込んで来た。僕は慌てて見を捩り、振り払われた爪をかろうじで避けた。左の袖が切り裂かれ、鮮血が宙に舞った。


 僕に襲い掛かって来たのは、銀色の獣だった。体長は70cmくらい、その割にはがっしりとした体つきをしている。前腕には鋭い爪が生えており、右側の爪には赤い血が付着している、僕のものだ。獣は吠え声を上げた。すると辺りから同じような獣が現れる!


「獣の狩りの基本さ。

 目線を一点に引きつけ、その背後から音もなく奇襲して来やがる。

 これに対応するのには慣れがいるからなあ、動けるかい? 虎之助くん」


 背後から声をかけて来た『人間』が、僕に手を差し伸べて来る。


「お前……セラフ!? どうしてお前がこんなところにいるんだ!」

「上じゃテロリスト扱いだからな。

 俺の安息の地は、地の底くらいにしかないのさ」


 彼は自嘲気味に笑った。

 何が『扱い』だ、あれだけの人を殺しておいて!


 僕はセラフの手を跳ね除け、自力で立ち上がった。

 傷は痛むが、それほど深くはない。


「こいつらはいったい何者なんだ!

 お前が仕掛けているんだろう!」

「そうじゃない。

 こいつらは野生動物にロスペイルが寄生したものさ。

 単純に脳の容積が小さいから、支配しやすいのだそうだ。

 来たるべき日には地上に解き放たれるらしいぞ?

 人類に終末をもたらす666匹の獣たち……

 まあ、少し数は少ないがね」


 セラフはクツクツと笑った。

 何を言っているのかは分からないが、ロスペイルらしい。


「こんなところで殺されてたまるか……変身!」


 キースフィアをバックルに装着、変身する。エイジアの力が僕を包み込み、鎮痛機構が左肩の痛みを塗り潰す。僕は獣に向けて拳を繰り出した。


「同感だ。俺にとっても厄介な存在でね、こいつらは。

 よく訓練されていて、ねぐらをすぐに見つけてくれやがる。

 排除しておかねばならんのでね……」


 セラフはポーチから一枚の金属カードを取り出した。中心には翡翠色の宝石がセットされており、そこから二枚の翼が生えていた。彼はLEDカンテラを投げ捨てた。


「変身」


 バックルにカードを挿入した。

 彼の体が光に包まれ、黄金の装甲が彼を包み込んだ。


「その姿……! お前も、エイジアの力をもっているのか!?」

「こいつはセラフさ。まあ、キミのお兄さんと言ったところかな?」


 お兄さん? エイジアとセラフは同じ技術体系から作られているということか? 少なくとも、この男は疑問に答える気は無いようだ。僕は構えを取った。


「お前、名前はあるんだろう! セラフじゃない方の名前が!」

「そんなものを聞いてどうなるっていうんだい?

 細かいことを気にしなさんな」

「僕が気にするんだ。いつまでもセラフじゃ呼びにくいんだよ!」


 僕は苛立って怒鳴ってしまった。

 セラフは一瞬キョトンとした仕草を取った。


「……そんなことを聞いてくるなんてな。やはり、キミだってことか」

「何だって?」

「何でもないさ。僕の名は……

 そう、翡翠(ジェイド)とでも呼んでくれたまえ。

 いまのところ僕はこれで通しているからさ!

 行くよ、虎之助くん!」


 僕とジェイドは同時に左右に跳んだ。

 鈍色の獣が僕たちに向かって飛びかかって来る!


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