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少年探偵とサイボーグ少女の血みどろ探偵日記  作者: 小夏雅彦
第二章:黄と赤と幻の都
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08-デストラップ

「暴漢!?」


 ノアは状況を把握出来ず逃げ回る。護衛の黒服たちは最初の一斉射でほとんどが死に、残った者たちも飛びかかって来たロスペイルの盾で潰されて死んだ。ロスペイルは散弾銃めいた武器を周囲の作業員たちに向け、無差別に発砲した!


 僕は物陰に隠れキースフィアを取り出した。

 背にした壁を容赦なく散弾が抉る。


「変身!」


 光が僕の体を包み込み、エイジアへと変える。僕はその場で跳躍、作業小屋の屋上に降り立った。そして従業員への無差別攻撃をつつけるロスペイルの頭上から拳を振り下ろした。だが、一撃破壊とはならない。一瞬早く攻撃を察知した敵が体を捻ったからだ。


 振り下ろした拳はロスペイルの肩に当たった。ロスペイルは左の盾を振り払い、僕を打った。予想外に強い膂力に吹き飛ばされ、僕は地面をゴロゴロと転がった。


(プレーンとは比べ物にならないパワーとスピード。

 何なんだ、こいつら!)


 右肩を破壊したロスペイルの背後から、別のロスペイル2体が銃撃を仕掛けて来る。僕は両腕のガントレットでそれを受け止めた。散弾が装甲表面を抉る。釘づけにされた僕に止めを刺すべく、盾を持ったロスペイルが突進を仕掛けて来る!


「大丈夫ですか、トラさん!」


 射撃ロスペイルの肩口に、クーが蹴りをいれた。ロスペイルの一体が吹き飛ばされ、それに反応してもう一体が銃口をクーに向ける。クーは屈んで銃撃をかわし、腰の入ったストマックブローを繰り出した。

 ロスペイルの体がくの字に折れる。クーはその手を取り、捻った。体勢を崩したロスペイルの後ろに回し、背後から放たれた散弾からの盾にした。


「トラさん、こいつらはボクが何とかしますから!

 ノアさんを追ってください!」

「分かった、クー! キミこそ無理をしないようにね!」


 僕は突き込まれた盾を屈んでかわし、熱ブレードを生成。反動を乗せたアッパーを繰り出し、顎の下から頭を抉る刺突を繰り出した。頭部を失い、ロスペイルは爆発四散!


(……!? こいつら、爆発した。

 セラフの出して来た奴じゃないのか?)


 違和感を覚えつつも、僕は逃げていくノアの背を追った。ロスペイルはいたぶるようにノアを散弾で狙う。ノアは銃撃を避け、鉱区の奥まで走り抜けていく。


 僕はそれを追い掛ける。

 ノアはかなりの健脚だ、距離があったとはいえ容易には追いつけない。彼は坑道に入って行き、僕はそれを追った。薄暗い闇の中を進んで行くと、突如として光が見えた。僕はその光景を見て、息を飲んだ。


「これは……サウスエンドで見たのと同じ……!?」


 白銀の壁、その表面には複雑なラインが引かれており、その中を光が行き来する。岩壁に突如として現れたそれは、明らかに自然のものではない。埋設されていたようだ。


 そして、その内部でノアが追い詰められていた。僕は丸い入り口に飛び込み、熱ブレードを生成し左右に薙いだ。奇襲を受けたロスペイルの首が跳ね飛ばされ、爆発四散した。

 その光景を見て、ノアは再び悲鳴を上げた。


「ノア=ホンさん、怪我はないですか?」


 ノアは震えながら僕の方を見た。


 そして、ニヤリと悪辣に笑った。


 その時、背後にあった入り口が閉じられた。ロックが掛けられたような音もした。僕は全長15mほどの円柱の中に閉じ込められてしまったのだ。


「グハハハハハハ! 愚か者め!

 私の誘導に気付かないとはな……!」

「やはり、あのロスペイルはお前が指揮していたのか!

 だが、何のために!」

「決まっている、この環境で貴様を殺すためよ!

 邪魔者は、すべて消し去るのだ!」


 ノアの体が光に包まれた。ノアは青い鱗に包まれた怪物に変身した。顔の変化は特に顕著で、太い唇とギョロッとした離れた目が特徴的だった。腕や足、そして背にはヒレが付いており、首元には呼吸管と思しきものが現れる。


 ノアは両手を合わせた。すると、そこから水が滴り落ちて来た。腕からだけではない、全身から滝のように水が噴き出し、密閉された室内を徐々に満たして行く。


「グハハハハ!

 排水されることなき空間でこの私に勝てるものなどいない!」

「それはどうかな……!

 多少足場が悪かったって、これくらい!」


 僕は横に跳び壁を蹴った。

 ノアは口をすぼめ、水を放つ。凄まじい圧力で発射された水の威力は弾丸をも上回る。僕を追い放たれる水の弾丸を、壁を蹴った反動で回避。空中をジグザグに疾走しながらノアに近付いて行った。


 三度壁を蹴る頃には、ノアもこちらの動きに対応していた。僕の反動軌道を予測し水圧弾を放ってくる。だが僕は天井に露出していた配管の一本を掴み方向転換。空中からノアを打つべくチョップを放った! ノアが屈むが、しかしそれは無駄な抵抗だ!


 しかし、予想に反してノアは素早く動いた。自らが展開した水のフィールドを悠々と泳ぎ大きく距離を離した。飛沫が周囲を濡らす、僕は振り返り、放たれた水圧弾を防いだ。


「ハッハッハ! 分かっただろう、小僧!

 私は水の中では無敵だ!」


 ノアの全身から放出された水は、すでに膝丈までの高さになっている。足を取られまともに動くこともままならない。密閉空間を利用した戦術、見事だ。


「仕方がない……この方法は使いたくなかったんだけどな」

「ハッ! この期に及んでまだ逆転できる気でいるのか、お前は!」


 僕は掌をノアに向けた。そして全身の装甲を右腕に収束させた。


「エッ?」

「消し炭になってくれるなよ。ここから出るのが面倒だ」


 赤熱機構を発動。エネルギーを封じ込めていたフィールドを操作し、放出する。白い光が狭い室内を満たした。ノアは水弾を放ち抵抗するが、それはまったくの無意味だ。水は光に触れる度に蒸発し、ノアの体が光に飲み込まれ焼かれた。


「アアァァァァ!? か、ああぁぁぁ! わ、私の体がぁ!」


 ノアは全身を爛れさせながらも、まだ生きていた。僕はツカツカと歩み寄った。あれだけの熱量に晒されたというのに、やはり壁面には焼け焦げすらもない。


「さて、何故こんなことをしたのか教えてもらおうか。

 それから、どうしてロスペイルの力を持っているのかもな。

 生憎とあんたを許せるほど心は広くないが」

「……はっ! 意に添わぬなら殺すというのか?

 交渉が下手だな、小僧!」


 死の淵に立ちながらも、ノアの声には余裕があった。

 どういうことだ、こいつ?


「交渉と言うのはこういうものだ。

 私を生かせ、さもなくば貴様はここから出られん」

「なっ……! ふざけるな、そんな言葉に騙されるとでも……」

「本当さ。100万通りのパスコードを発見したのはつい最近だ。

 ロックを解除しなければこの扉を開くことは出来ん。

 そして、操作盤はこの通路の外にしかないのだ……!」


 エイジアの全力でも傷一つ付かない扉、ここから出るにはこいつの……


「……待て、それならあんたもここから出られないんじゃないのか?

 どうやってここにいることを、戦いに勝ったことを外に伝えるつもりなんだ?」

「ようやく分かったか! だがもう遅い、私と共に死ねェーッ!」


 ノアの体がひび割れた。舌打ちし、僕はノアの頭部に拳を振り下ろした。

 ノアの頭が粉砕され、自爆が止まる。そして自然な爆発四散が発生した。


「ふざけやがって!」


 僕は苛立ちを扉にぶつけた。だが、予想通りビクともしない。マズいことになって来た。力づくでの脱出は不可能だ。10万通りのパスコードを、クーとエリヤさんは見つけられるか? それどころか、この円柱を見つけることさえ出来るのだろうか?


「八方塞がりってのはこのことだな……どうすればいいんだ!?」


 何も手はない。


 僕の中の悪魔が、僕自身を嘲笑った気がした。


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