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少年探偵とサイボーグ少女の血みどろ探偵日記  作者: 小夏雅彦
第二章:黄と赤と幻の都
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08-東部殺伐都市

 荒涼とした風景がどこまでも広がっていた。

 都市の原発から伸びる送電線、そして黄金の粒子障壁だけが景色を彩る。乾燥した土が風に吹かれて舞い上がり、バイオタンブルウィードがどこまでも転がっていく。


 ここはイーストエンド、人の住めぬ死の大地だ。


「うわぁ……こんなの見たことがありませんよ。

 スゴイところなんですねえ……」

「ここで暮らしているのは鉱山労働者くらいだからね。

 昔は色々なところで資源を掘り出していたらしいけど、枯れてしまった。

 いまも残っているのが……あれだ」


 高低差の激しい道路を昇って行くと、フロントガラスいっぱいに山が見えた。アン・デス山脈と呼ばれる銀色の山。ここだけでも都市全区画を楽に上回るだけの面積を持っているという話だ。ライ重工やノア鉄工と言った、様々な企業がここで鉱物資源の採掘を行っている。時たま巨大なトレーラーが、僕たちの小さな車とすれ違う。


「エリヤさんがいてくれて本当によかったですよ。

 歩いてこんなところには来られない」

「この辺りにはバスも出ていないからな。

 労働者はみんなヨーカンで暮らしている」


 エリヤさんは運転しながら横目で荒れ地を見た。高い電熱フェンスで囲まれた敷地内には等間隔に設置された建造物がある。通称ヨーカン、栗色の外壁からそう呼ばれる作業員用の簡易建造物が目に付く。薄い鋼板六枚で構成されたブロックを重ねて作った長方形の宿舎であり、すべて合わせて1、2時間で組み立てられることから作業現場では重宝されている。その代わり、内部の居住性は最悪の一言であるが。


「しかし、こんなところにいったい何をしに来ているんですかねえ?」


 クーの言葉には、決して現場で働く人々を卑下する意図はない。とは言っても、僕も首を傾げざるを得ない。ここで採掘される資源の数々は都市運営に不可欠なものだ。だが、すべてを投げ出してこんなところに来る意味が果たして存在するのだろうか?


「そうだなあ、例えば採掘物資の不正な横流しとかはどうだい?」

「ああ、確かに。

 都市行政法では届け出のない鉱物資源の販売は禁止されている」


 都市は鉱物資源に関しては専売制を敷いている。食料品は都市側で作ることが出来るが、鉄やレアメタルはその限りではないからだ。更に、そこを押さえることでその先にあるもの、つまり製造業に大きな影響力を持つことが出来る。この辺りの法制は非難の対象になることが多く、いまも市議会では喧々諤々の茶番が行われている。


 だが何となく腑に落ちない。ノアがこの地を訪れた直接の原因は、ダイナソアやクローカーの死と関係があるはずだ。そしてその両者は、鉄鋼採掘と一切関係を持っていない。とはいえ、車内でこれ以上考えても答えが出るはずがない。現地を探らなければ。




 もちろん、労働者の街であるイーストエンドに駐車場などという気の利いたものはない。適当に路上に駐車し、僕たちは乾いた大地に降り立った。


「さて、と。手分けして情報を探ることにしよう。

 私は向こうに行くから」

「えっ、エリヤさん。大丈夫なんですか、一人で行動して?」


 僕は慌ててエリヤさんを止めたが、しかし彼女はニッと笑うだけだ。


「なに、ここではしばらく世話になっていたことがある。

 昔なじみも大勢いるんだ。

 私一人で行った方が、あいつらも警戒しないで済む。

 安心したまえ」


 エリヤさんはひらひらと手を振り、街の中に足を踏み入れて行った。ポカン、とした表情僕たちはそれを見送った。仕方がない、いつまでもこうしているわけにはいかない。


「取り敢えず、僕たちはノアを追おう。

 クー、携帯の電源は切っておいてくれ」

「もちろんです。

 尾行の途中でプルプルなってピンチになるんですよね。知ってます!」


 エイファさんは彼女に何を教えたのだろうか?

 概ね間違ってはいないのだが。


 労働者の街において、僕たちの姿は否応なしに目立つ。ならばコソコソ隠れた方が余計に目立つ、正々堂々振る舞うべきだ。僕たちは大通りを歩き、目的地に向かう。


 行く道にはノア鉄工の従業員たちが黙々と作業に従事していた。ライトブルーの作業着、『ノア鉄工』の名前をデカデカと貼り付けたヘルメット。作業によって煤けた格好をした従業員の中には機械化(サイバーアップ)を施した者たちもいる。サイバーアームが動作音を立て動き、鉄鉱石を苦も無く持ち上げ運び出す。


「ほえー、あれがサイバーアームですか……カッコいいですねえ」

「キミがサイボーグだっていうことそろそろ忘れそうだよ……」


 飯は食うし、眠りはするし、全然機械っぽくない。実はウソでしたと言われても納得出来る。少なくとも、都市で言うサイボーグとはああいう、無骨な金属部品を身に着けた人々だ。他には機械眼(サイバーアイ)に目を換装したり、あるいは心肺機能を機甲体(サイバーリム)で強化しているような人々だ。それらは一目で判別出来る。


「まだ都市じゃ機械化は発展途上の技術だからね。

 クーみたいに、傍目じゃ分からないくらいに自然なものは……

 その、まだ作れないことになっているから」

「そうですかー。でもああいうのってカッコよくないですか?

 ロマンチック!」

「医療用技術だからロマンはあんまりないよ。もうちょっと切実だ」


 現在都市で実用化されているサイバーアップ技術は、多くが欠損部位を補うためのものだ。中には作業効率を高めるために生身の腕を切り取り、サイバーアームを取り付けるような酔狂な人間もいるらしい。だが、それらが功を奏したというのは往々にして聞かない。答えは簡単、生身の部分を残してしまっているからだ。


 サイバーアームは200kgの荷重にも耐えるだろう。だが接続された生身の部分はそうではない。取り変えられる、修理が容易だという利点は、確かに存在する。だが、今現在においては生身の体の方がサイバーボディよりも優れている部分が多い。


「市長軍なんかじゃ、試験的に戦闘用のサイバーボディを作っているらしい。

 けど、まだまだ問題が多いんだってさ。

 何より、金属で作られたサイバーボディは生身よりも遥かに重い。

 機動力が低下したり、活動地域が限られたりするようなことが……」


 そこまで考えて、僕はクーデリアを横目で見た。

 ほっそりとした体つき、しかし。


「……トラさん、いまなんだかとてもシツレイな視線を感じたんですけど?」

「いや、何でもないよ。

 サイボーグだから重いんじゃないかなー、なんて思ってないよ」

「あー! やっぱり考えてたんじゃないですか!

 シツレイです! 謝ってください!」


 クーは僕のことをポカポカと叩いて来た。地味に痛いので止めて欲しいし、無駄に目立つので勘弁していただきたい。まあ、これは僕の責任だ。甘んじて受けよう……


 僕の脇を一台のリムジンが通過した。僕はクーの拳を受け止め、それを見た。間違いない、ノア=ホンの車両だ。やはり情報通り、ここに来たのだ。僕たちは物陰に隠れ、ノアの動向を伺う。彼はキョロキョロと辺りを見回しながらリムジンから降りて来た。


「セラフの襲撃を警戒しているんですかねぇ?」

「分からないけど、取り敢えず追い掛けよう。

 何か尻尾を……」


 出すかもしれない、と言い掛けたタイミングで異変が起こった。

 物陰からいくつもの影が飛び出して来たのだ。それはリムジンを包囲するように降り立ち、周囲にいた人々を殺戮した。悲鳴が上がり、人々は蜘蛛の子を散らすように逃げていく。


「なんだ、あいつらは!?」


 鈍色の体、それはロスペイルの特徴だ。

 だが、彼らは普通のロスペイルではなかった。


 首筋から伸びる何本ものチューブ、各所に張り付けられたタイル状の装甲、右手から伸びるショットガンのような武器と、左手から生えた盾。まるで武装しているようだった。


 ロスペイルたちはショットガンを構え、一斉に放った!


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