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少年探偵とサイボーグ少女の血みどろ探偵日記  作者: 小夏雅彦
第二章:黄と赤と幻の都
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07-紅蓮の炎と赤い戦士

 御桜さんと並び、僕は市庁舎前へと向かった。セレモニーが行われるのはあそこの広場だ。中心部に近付いて行くにつれて、人口密度は徐々に高まって行く。


「それにしても偶然ですねー。

 別に遊びってわけじゃないんでしょうけど」

「ご名答。実はある事件を追っていて。

 そのためにここまで来たんですよ」


 御桜さんは露店で買ったアップルキャンディーを咥えて目を丸くした。いかにもわざとらしい態度で、僕も吹き出してしまう。そんな僕を見て御桜さんも笑った。


「こんな休みの日にまでお仕事なんて、お疲れまです結城さん」

「いままで楽してたツケが来たってだけさ。

 ところで、御桜さん。僕のことを『さん』づけで呼ばなくてもいいですよ?

 あなたの方が年上なワケですし……」


 何となくむず痒くなってしまうのだ。しかし御桜さんは唸った。


「でも、あたしより立派な人じゃないの。結城さんはさ。

 あたしは親の金でベンキョーしてるけど、あなたは自分の力で生きてる。

 そう言うのって、すごいことだと思う」

「あんまりスゴイわけじゃないけど……

 そう言ってもらえると、その、嬉しいです」


 真正面からそんなことを言われると照れてしまう。

 あんまり言われ慣れていないのだ。


『トラー、さっさと行かんとセレモニーが始まってまうで。

 とっととせぇ』


 ……こういう風に辛辣なことを言われることが多い仕事なのだ。


「セレモニーに行かなきゃならないんだ。

 ありがとう、御桜さん。楽しかったです」

「えっ、結城さんもセレモニーに?

 奇遇ですね、あたしもなんです」


 さっきから驚かされてばかりだ。

 しかし、まさか御桜さんが一緒に……


「実は父さんがセレモニーに参加するんです。

 参加って言ってもメインじゃなくて、雑用みたいな感じらしいんですけど。

 なのでちょっと冷やかしに行ってやろうと」


 御桜さんは悪戯っぽく笑った。

 茶化している風だけど、そこには愛が感じられた。


 僕たちは色々なことを話しながら進んで行った。弟のことという共通の話題があったのはよかった。僕たちは当人のいないところで盛り上がった。


 やがて辿り着いた広場には、多くの人がごった返していた。普段のセレモニーではサラリーマンなどの企業関係者が多いが、今回はそうでない人も多いようだ。サウスエンド開発で広く支持を得ている市長が登壇するのだから、それは当たり前だろう。


「ひえー、スゴイ人だかりですね。

 これじゃあ人の顔も判別できないわ」

「そうだね、参ったな。どうやってターゲットを探すか……」


 僕はひとりごち、辺りを見回した。少し予定からずれるが、官公庁周辺にあるビルにはまだ空きがあるようだ。喫茶店にでも入れば不審さもなく周囲を監視出来るだろう。


「御桜さん、向こうのビルに行きましょう。

 あそこからなら……」




 その時だ!

 BOOM!


 広場の中止に会ったセレモニー用の特設台から炎が立ち上った!

 衝撃が辺りを舐め、熱が人々を襲う。突如として放たれた暴威を前に、人々は正気を失った。絶叫を上げながら、彼らはここから逃げるべく惑った!


「御桜さん!

 手を離さないで下さい、巻き込まれたらどうなるか……」


 まさかこんなタイミングで仕掛けて来るとは!

 僕は御桜さんの手を掴み、抱えるようにして脇に逃れた。人々は大通りを走っているので、脇の歩道には実のところそれほど人がいない。人波から逃れたところで僕は一息吐き、エイファさんに連絡を入れた。


「エイファさん、緊急事態です。

 そちらから何が起こったのか分かりますか?」

『ああ、壇上に何かが現れた。

 恐らくロスペイルやろう、観客席も相当な有り様や』


 観客席、僕はつぶやいた。

 つぶやいてしまった。

 隣に人がいることも忘れて。


「観客席、って。それじゃあお父さんは!?」


 御桜さんは状況を瞬時に理解し、走り出そうとした。

 僕はそれを追おうとする、と。


『伏せや、トラ!』


 エイファさんの叫びが聞こえて来た。僕は走り出さず、御桜さんに向かって飛びかかった。彼女を押し倒したのとほとんど同時に、頭上を炎が通り過ぎた。


『ロスペイルの攻撃や!

 さっさと行って対処せえ、トラ!』


 幸いと言うべきか何というか、炎によって逃げる人々の速度は加速している。これならば他人から見られずに変身することが出来るだろう、御桜さんを除いて。


 逡巡の暇はない。

 立ち上がり、懐からキースフィアを取り出す。人波の隙間から怪物の姿が見えた。銀色のマネキンめいた、よく言えば均衡のとれた、悪く言えば平坦な肉体。それを真っ赤な炎が覆っている。ファイアロスペイル、とでも言うべきか。


「変身!」


 バックルのスロットにキースフィアを差し込み、エイジアの力を発動させる。

 僕の意志に呼応し、まずガントレットが展開された。それを使い、ファイアから放たれた次弾を防御する。火球はガントレットに弾き飛ばされ、ビルの壁面に当たった。全身に力が展開されると同時に放たれたもう一発を、僕は叩き落とした。


「変わった……!?」


 御桜さんが驚愕に染まった表情を向けて来る。

 僕はそちらを一瞥し、跳んだ。


 ノーモーションで繰り出された跳び蹴りを、ファイアは身を逸らしてかわした。着地と同時に構えを取り、僕はファイアを牽制した。瞬間の睨み合い、時間が止まる。


(こいつを呼び出したのがあの男なら、こいつはただの陽動だ。

 本命がいる……!)


 炎の魔神が拳を繰り出す。

 首を振りかわし、ファイアに絡み付いた。同時に、僕は全身に制動用スラスターとブースターを構成した。そしてそれを一気に点火、ファイアを抱えて飛んだ! 避難する金持ちたちに向かって!


「っつぅ……! 思ってたより、キツイなこれは!」


 ターゲットにこいつを近づけるのはリスキーだ。だが、目の届かない場所で事が行われる方が最悪だ。ならば多少のリスクを飲み込んででも……守り切る!


 僕とファイアは市庁舎のエントランス前まで飛んだ。人々の悲鳴が聞こえる。僕はファイアの体を地面に押し付け、離した。同時にブースターをカット、慣性に従い僕の体が前方に流れる。スラスターを使い反転、着地する。


「な、何だあれは!」「焼死体!?」「殺人鬼だ!」「軍を呼べ!」


 人々から悲鳴と憶測が漏れる。僕のターゲットは真後ろ、禿げかかった頭が特徴的なノア=ホン。彼は青くなっているが、他のメンバーよりは冷静に見えた。


(この男、怪物が目の前に現れたのに動揺していない。

 ロスペイルを知っているのか?)


 黄色いエイジアは、ロスペイルの正体を知る者を殺して回っているのか?


 考えている暇はなかった。

 ファイアが両腕を交差させると、腕に纏わりつく炎がより一層勢いを増した。まさかこれを解き放つ気か? 予想は的中、それもなお悪いことに、振り払われた腕は左右別々の場所を示していた。


(どちらかを選ばなければならない、ってことかよ!

 クソ、こいつ……!)


 再びブースターとスラスターを展開、高速機動の準備を取る。だが守り切れるのか? 否、守り切るのだ。そうすると決めた以上、それを成し遂げるために最善を尽くす!


 その時、僕はファイアの後ろから迫る赤い影を見た。それは、左腕の炎から人々を守るように動いていた。僕は右の炎を迎撃するように動いた。赤熱機構を作動させ、炎に合わせて解き放ったのだ。エネルギーとエネルギーが激突し、霧散していった。


 熱風が辺りを薙ぐ。だが誰一人として、それに苛まれる者はいなかった。僕とファイアは、乱入して来た赤い影を見た。全身を赤い鎧で覆った新たな戦士を。


「オイ、手前。舐めた真似をしてくれンじゃねえか。

 この代償は高くつくぞ」


 赤い戦士は黒い親指を立て、首を掻っ切るような動作をした。


 僕の見間違いでなければ――

 ロスペイルの前に、ロスペイルが立ちはだかっていた。


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