07-模倣された怪物
なぜソリッドが? あの時確かに、爆発四散まで見届けたはずだ。
だが、考えている暇はなかった。怪物はトレーラーから降りると乱暴に腕を振るい、コンテナを吹き飛ばした。吹き飛ばした先には当然人間がおり、阿鼻叫喚の地獄が展開される!
「っ……! クー、住民の避難を手伝ってくれ!
僕はあいつと戦う!」
「わ、分かりましたトラちゃんさん!
が、頑張ってください!」
事態に振り回されながらも、クーは僕の指示に従ってくれた。
それにしても『トラちゃんさん』、か。
さっき一瞬言った言葉を聞き届けてくれたわけだ。
僕は店外に飛び出し、キースフィアをバックルにセット。変身した。そのままソリッドに向かって行き、低空跳び蹴りを繰り出した。ソリッドは無防備な背中を襲われ、地面を転がった。大したダメージはなかったようだが、気を引きつけるのには成功した。
(蹴った感触も、パワーもソリッドのものだ。
だが、あいつは確かに死んだ)
ソリッドは咆哮を上げ、左右の腕を振り回しながら突進してきた。小刻みなバックステップで回避、敵の様子を伺う。どうやらあの時のような知性はこいつには無いようだ。
「何らかの理由で復活した、というわけか。頭以外は!」
僕は後ろ上方に大きくジャンプ、繰り出される攻撃をかわしながら壁を蹴った。止めのストレートはそれでかわし、ソリッドの頭上を取る。両手の甲にブレードを生成し、切りつけた。ソリッドの頭頂部にブレードはめり込み、溶断痕をつけた。だが、熱に強いソリッドの頭部を切断することは出来ない。
(やはり浅い。生半可な攻撃じゃ傷一つ付かないってことか……)
対処法は分かっている。パワーにはパワーで対抗すべし。僕は装甲を変形させようとした。ところで、エイジアの強化知覚が飛来してくるもう一体の敵を捉えた!
横合いから伸びて来たそれを、僕は手甲で受け止めた。衝撃にたたらを踏む、そのタイミングを見計らったかのようにソリッドがバックナックルを放った。僕は上体を逸らしそれを回避、連続バック宙を打ってソリッドとの距離を取った。
強襲者はソリッドの横に並び立った。
それは、やはり僕の知る顔だった。
「ゴムロスペイル……!
お前は知性体ですらないだろうが!」
油断ならぬロスペイル二体がここに集結している。
柔軟なる高速攻撃の使い手、ゴム。堅牢な装甲とパワーを持ち味とするソリッド。両者のパワーが合わさることによって、その危険性は二乗倍にまで高まるだろう。
「来るなら来い。
一度は倒した相手、二度倒せない道理はない!」
ゴムが腕を伸ばし拳撃を繰り出してくる。手甲でそれを受け止め、正面から迫るソリッドを見る。重厚な拳が地面すれすれのところを擦り、僕に向かってくる。身を引いてそれをかわし、伸びきった腕にブレードを放つ。二刀の白熱剣に切られた腕は、しかしほとんど無傷だ。損害を気にせずソリッドは踏み込み、全力のストレートを放つ!
前転でそれをかわす。だが上空に動きあり、ゴムが伸びる腕を使い街灯を掴み自分の体を引き上げた。腕を離し上空から強襲を仕掛けて来るゴム、致命的ストンピングをギリギリのところでかわした。だが息を吐く隙すらなくソリッドの太い足が迫り来る!
「グワーッ!」
腕をクロスさせ防御するが、それでも凄まじい威力だ。腕部に装甲を集中させていなければやられていただろう。壁に叩きつけられる寸前で背部にスラスターを生成、エネルギー噴射で体勢を立て直す。地面に降り立った僕を、ゴムが追撃する!
ゴムの両足がたわみ、スプリングめいた形状となった。それによってためを作り、跳ねる! 急加速を得たゴムが全体重を掛けたタックルを仕掛けて来る!
「フゥーッ……!」
僕は炎熱のエネルギーをすべて右手に収束させた。そして、ブレードを伸ばす。手の甲から伸びた白熱剣は通常の倍以上の長さとなった。僕はそれを切り下ろす。空中で軌道を変更出来ないゴムは、僕の剣に真っ直ぐ突っ込んで来た。真っ二つになったゴムが、背後で爆発四散――しなかった。代わりに青い燐光に変換され消えて行った。
(……!? この消え方、やはりロスペイルじゃないのか?)
だが、考えている暇はない。仲間を失ったソリッドが跳んだ。思わず僕も目を剥いた、何たる跳躍力か。本物のソリッドでも使わなかった戦法だ。
ソリッドの巨体が高高度跳躍、そして落ちて来た。僕は全力でそれを避けた。着地点のアスファルトが砕け、半径5mほどの巨大なクレーターが出来上がった。ソリッドは衝突のエネルギーを殺さぬまま再跳躍、再び僕を狙って落ちて来た。
「くっ……だが! それなら見切れるんだよーッ!」
巨体故に空気抵抗が大きいらしく、ソリッドの落下速度はそれほど速くない。僕は天を振り仰ぎ、落ちて来るソリッドを見た。エイジアの力を振り分け、全装甲と全熱機構を右の手甲に収束させた。そして、燃え上がる拳を上空のソリッドに向けた。
「この状態なら、使える! モード・バースト、喰らえ!」
エイジアの赤熱機構は瞬時に3000℃まで物体を加熱するが、熱が及ぶ範囲はごく狭い。それは何らかの重力的フィールドによって熱を閉じ込め、また本体への伝導を遮断しているためだ。ならば、それを解除すれば? 別の方向に指向性を持たせれば?
熱の指向性を拳の先に変更。低出力時に試したことはある、だがこれほどのものは初めてだ。いずれにしろ、なるようになる。荒れ狂う熱風が放たれるのを、僕は見た。
大気を焼き焦がす白い閃光がソリッドに向かって伸びて行った。光の帯に飲み込まれたソリッドの体表が焼け焦げ、そして溶けた。活動限界を超えたであろうソリッドはやはり爆発四散することなく、青い燐光へと変わった。
「勝った……! けど、あいつはいったい何だったんだ?」
僕は物陰に隠れキースフィアを外し、変身を解除した。
爆発四散しないロスペイルを見たのは初めてだ。素体ロスペイルでもないのに、同じ姿をしているのを見るのも。こういうこともあるのかもしれないが、何となく腑に落ちない。
その時、僕の携帯端末が震えた。
見てみると、クーから連絡が来ていた。
「もしもし、クー? そっちは大丈夫なの?
怪我とかしてないよね?」
『ええ、ええ。ボクは大丈夫です。
ただ、ダメだった人が出て来てしまいまして』
「……そうか。悲しいことだけど、仕方ない。
キミが自分を責めることはないよ」
『そうじゃないんです。また出たんですよ。
今度は黄色いエイジアです』
クーの言っていることを理解するまで、しばらくの時間が必要だった。
「……ごめん、クー。どういうこと?
ジャッジメントみたいなのが出たってこと?」
『ジャッジメントよりもエイジアらしいんですよぅ!
いや、姿形とかは結構違うんですけど、翡翠色の宝石で変身しますし!
それに変身する時に変身っていうんです!
そいつがいきなり出て来て、人をズバッと切ったんです!』
何を言っているのか、いまいち要領を得ない。
だが、こういうことだろう。
模倣、という言葉が僕の頭の中に浮かんだ。ソリッドの力を、ゴムの力を、そしてエイジアの力を模倣する者がいる。それが……今回の事態を引き起こした?
許すことは出来ない。
僕は見えない犯人に怒りを燃やした。




