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少年探偵とサイボーグ少女の血みどろ探偵日記  作者: 小夏雅彦
第二章:黄と赤と幻の都
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07-新たな展開

 静寂の闇に包まれた夜。地表300m地点にあるこの社長室の視界を遮るものはほとんどない。鈍色の雲、黄金の粒子障壁、薄汚れた街。暗色のコントラストが神秘的だ。


 限られた成功者しか立ち入ることの出来ない空間で、男は震えていた。


 震えていた?

 然り、この世に恐れるべきものなど何もない男が子供のように震えている。その原因は、つい先ほどまで響き渡っていた銃声だ。恐らくは彼の護衛が発したものだろう。


 発狂サイコパスがビル内部に侵入し、警備員に射殺される。

 珍しいことではない。都市に住まう人間には自衛の権限が与えられているし、帯銃許可もある。何より多額の資金と都市への影響力を持つダイナソア・インダストリ総裁の権力を持ってすれば、殺人を正当化することなど容易だ。別に彼は銃声を恐れているわけではない。


 ただ、恐ろしいのは報告が一切ないことだ。取るに足らない連中ならば管内アナウンスが、明確な目的を持った暗殺者なら直接連絡が来ることになっている。それが最後の発砲音から10分以上経ったいまになっても、ない。


 焦燥に駆られた男は、扉が開く音にも過剰に反応した。

 外を見て、そして立ち上がる。


「ドーモ、ヘッドハンターです。

 御社の優秀な人材をちょちょいと……いただきました」


 そして侵入者は何かをデスクに投げた。

 それは、彼の側近の生首であった。


「こんなことをして許されると思っているのか……!

 すぐに警察が来る!」

「その前にお前を滅ぼすことくらいは出来るだろう。

 なあ、化け物?」


 ダイナソアの表情が驚愕に歪み、そして憎悪に燃えた。

 彼の体が光に包み込まれ、そして一秒後には恐るべき形相の怪物へと変わった。真っ赤なヘックス状の鱗で全身を覆い、刀剣のような鋭い背びれを持ったダイナソアロスペイル。ダイナソアは鋭い鉤爪を振りかざし、侵入者に跳びかかった。白い腹を弓形に逸らす、一刀両断の構え!


 侵入者の対処は、しかし冷静だった。懐から一枚の金属カードを取り出すと、それを掲げた。奇怪な機械音声が辺りに鳴り響く、『バリアー』と。男とダイナソアの間に黄金の障壁めいたものたちのぼり、ダイナソアがそれにぶつかり弾き飛ばされる!


「グワーッ!? な、何……!?

 き、貴様、それはいったい何なのだ!」

「言っただろう、化け物。僕はお前を滅ぼしに来たものさ」


 質問には答えず、侵入者はもう一枚カードを取り出した。先ほどのものと似た金属カードだが、色が違う。真ん中には翡翠めいた色合いの宝石が取り付けられている。


変身(・・)


 ダイナソアの両目が大きく見開かれた。

 彼がこの世界で見た、最後の光景だった。


◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆


 落ち着かない。


 慌ただしく青い制服を着た捜査員が行き交い、現場では鑑識官が現場検証を行っている。ここは事件の一丁目一番地、そこに部外者がいるのだから落ち着かなくて当たり前だ。僕を連れて来た刑事さんは僕を放って事情聴取を行っている。


「故人の生存は午後11時までは確認されている。

 ビル内で発砲音が確認されたのが午後10時48分前後。

 ダイナソア氏が消えた時間と一致はするな」

「故人のことじゃなくて、僕のことを気にかけてくれると嬉しいんですが……」


 僕は片倉さんを睨んだ。

 片倉(かたくら)慎吾(しんご)さん、都市警察機構の巡査部長だ。殺人課に在籍しており、以前助けたことがきっかけで協力を取り付けている。とはいえ、彼に直接事件現場に呼ばれたことなんていままで一度もなかったのだが。


「被害者はダイナソア・インダストリに在籍する従業員。

 それから総帥のルグラン=ダイナソア氏だ。

 凶悪な犯人は警備員や従業員を次々惨殺、特に側近に至っては首を切っている。

 ダイナソア氏は目下行方不明、現在捜索が進められている、が……」


 ダメだろうな、と片倉さんは感じているようだ。ここまで来る道のりで、だいたい犯人が何をしたかは理解している。飛び散る血痕と弾痕がそれらを物語っていたからだ。


「で、何で殺人事件の現場に僕が呼ばれたんですか?

 ダイナソア氏を探せとでも?」

「いいだろう?

 エイファから最近は暇しているって聞いていたからな」


 ぐうの音も出ないので黙っておく。


 別に暇しているわけではない、単に他のことを調べるので忙しいだけだ。サウスエンド連続爆発事件はオニキス=マッコーレーの死と資料の消失でいったんの解決を見た。だが、それで納得出来る僕ではなかった。


 オニキスが本当にやろうとしていたことは何なのか?

 ロスペイルは何故オニキスに付き従ったのか?

 何故知性を持っていたのか?

 あの地下構造物はいったい何だったのか?


 棚上げにされた様々な問題を、僕は独自に調べていた。

 成果は上がっていないが。


 もちろん、僕だって人間だ。霞を食って生きて行けるわけではない。最近クーデリアが大食漢だと気付いたので、食費にも気を配らなければならなくなった。実家は支援してくれると言っているが、僕にだってプライドがある。食費くらいは自分で稼いでみせる。何より家にたかるには躊躇われるくらいの高額になってしまっている、というのもあるが。


 そんな中で舞い込んだのが、ダイナソア事件だ。

 だが正直僕の出る幕は……


「無駄にお前を呼んだわけじゃないさ。

 見てもらいたいものがあるんだ、ホラ」


 そう言って、片倉さんはダイナソアのデスクを見せた。やたらと高そうな、凝った装飾の施されたデスク。対となるチェアも高級感の漂うものだった。だがそこではない。


「これは……煤、ですか?

 何かが爆発したような感じの……」


 爆発の衝撃を物語るかのように、天井まで煤けている。だが、意外にも彼がいたであろうデスク周辺に破壊痕はなかった。通常の爆発ではありえないことだろう。


「余程性能のいい指向性爆薬を使ったんじゃないか、というのが鑑識の見解。

 だが、俺たちは違うものが見えて来る。そうじゃないか、虎之助?」

「確かに。断言は出来ませんけど、ロスペイルの爆発四散痕に似ていますね」


 周囲に破壊を撒き散らさないところなど、そっくりだ。


「状況から考えれば……こういうことですか?

 ダイナソア氏はロスペイルだった、と」

「そうではないかと考えている。

 そして、何者かの襲撃に遭って殺された。違うか?」

「言っておきますけど、僕じゃありませんからね。

 こんなところに来たのも初めてだ」

「分かっている。

 だがロスペイルを殺せるものがここにいたことは確かだろう?」


 現場に侵入する人影も、現場から立ち去る人間も監視カメラには映されていないという。死角をすべてカバーしているわけではないが、常人ならば通らなければならない場所に設置されているにもかかわらず、だ。常軌を逸した何かがいるのは確かだ。


「分かりました。この件について、調べてみることにします。

 写真を撮っても?」

「ああ、許可する。何かあったって、俺の給料が少し減るだけだ……」


 片倉さんは自嘲気味に笑った。こんなことを手伝ってもらっているうえに、給料まで減らさせるわけにはいかない。僕は慎重にカメラを操作した。


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