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少年探偵とサイボーグ少女の血みどろ探偵日記  作者: 小夏雅彦
第一章:サイボーグ少女と雷の魔物
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06-セイギの力

 サウスエンド市街地は地獄と化していた。

 逃げ惑う人々と、それを追うロスペイル。これほどまでの規模でロスペイルが出現したことは、いままで例がない。視界内だけで10を越える素体ロスペイルがいる。僕はブレードを展開し、駆け出した。


 労働者を襲うロスペイルの首をすれ違いざまに切り落とし、女性を襲うものの胴体を横薙ぎに裂いた。ビルの屋上から悲鳴が上がった。僕に反応し襲い掛かって来たロスペイルの攻撃を跳んでかわし、その首を踏みしめた。反動で屋上まで跳躍し、速やかに処理。


「どれだけいるんだ、こいつら。

 このままじゃ大変なことになるぞ!」


 僕は屋上にいた人々に逃げるよう促し、地上に戻った。二人掛かりで一人の女性を襲おうとしたロスペイルの体を真っ二つに切断、地面に降り立つ。


「お前たちの相手は、僕だ!

 街の人にこれ以上手を出すな!」


 ブレードを振りかざし構えを取り、僕はロスペイルに向かって叫んだ。敵もこちらの方に意識を向けて来た、このままでは殺されることが分かっているからだろう。


 左右からロスペイルが迫る。彼らは腕をブレード状に変形させ、左右から切りかかって来た。小刻みな連撃を手甲で受けながら、反撃の機会を伺う。だが、引き気味に戦う敵を前に中々タイミングが見つからない。奥に一体控えてさえいなければ……!


 攻撃を行う二人と、僕を牽制するように立つ二人。

 戦術がある、こいつらには。


(オニキスが用意したロスペイル。

 どうやればこんなことを……)


 こんなところで時間を食っているわけにはいかない!

 その時だ!


「待て待て待て待てぇーっ!

 これ以上はやらせないよーッ!」


 陽気な声が突如聞こえて来た。

 同時に、右のロスペイルの顎先に足刀が叩き込まれた。左のロスペイルは若干の動揺を見せる。その隙を僕は見逃さない、屈んで攻撃をかわし、肩口からロスペイルにタックルを仕掛ける。押されたロスペイルはたたらを踏み後退、ちょうどいい位置に立った敵の胴体を薙ぐ。真っ二つに切り裂かれ、爆発四散した。


 奥にいた一体は、襲撃者に向かって行った。

 僕はその横合いから躍りかかり、脇の下から刃を突き込んだ。脇から入った刃はロスペイルの頭を焼き尽くした。刃を引き抜くと、ロスペイルは力なく崩れ折れ、そして爆発四散した。


「フフッ、ボクは信じてましたよ。

 あなたは立ち上がるって、結城さん?」

「ありがとう、助かったよクーデリア。

 エイファさんが寄越してくれたのかな?」

「ザッツ・その通り!

 それに、こんなの放ってはおけませんからね!」


 クーデリアはギュッとサムズアップした。

 こんな状況なのに、陽気なものだ。


「敵は奥にある地下構造を狙っているみたいだ。

 行こう、クーデリア。あいつらを……」


 止めないといけない。だが、敵はそれを許してはくれないようだ。ビルの屋上から、路地裏から、表通りから、ロスペイルが殺到する。あまりの数に僕は思わず息を飲む。


「どうやら簡単には突破させてくれないみたいだな」

「いえいえ、ボクにここを任せて、先に行ってください」


 クーデリアは肩をグルグルとまわして、ロスペイルの前に立ちはだかった。


「何言ってんだよ、クーデリア!

 こんな数相手に出来るわけないだろ!」

「いやいや、一回言ってみたかったんですよコレ。

 行かなきゃいけない理由があるんでしょ、結城さん?

 だったら行ってください。ボクは大丈夫ですから!」


 クーデリアはニッ、と微笑み僕を見た。


 期待されている……んだろうか?

 だったら、それに応えないわけにはいかない。

 僕は踵を返し、走り出した。


■◆■◆■◆■◆■◆■◆■


「はぁ!? 目的のものじゃない?

 寝言言ってんじゃねえぞ、お前ら!」


 ビニールシートに覆われた工事現場の中で、オニキスは叫んだ。あたりからは悲鳴が聞こえるが、オニキスは一切気にしない。この事態は彼が招いたものだからだ。


「は、はい。

 構造物の奥は行き止まり、地下へと続く入り口ではありませんでした」


 『皆さんに寄り添うライ建設』と書かれたヘルメットを着けた男は遠慮がちに言った。


「よく探せ! 何かあるだろ、隠し扉とかそう言う奴が!

 俺は詳しいんだよ!」

「申し訳ありませんがそういうものはありませんでした。

 何に使う施設かもはっきりしませんし……

 申し上げにくいんですが、今回は外れということになります」


 オニキスは天を仰ぎ、何か言葉を探した。

 虚空に向かってグルグルと人差し指を回す。


「アーアーアーアー、仕方ない。間違いは誰にでもある。

 伝説の地下構造に、簡単に入り込めるはずがないからな。

 仕方ないよ、これは仕方ない。うんそうだな仕方ない」

「は、はい。申し訳ありません。次こそは必ず……」


 軽い発砲音と共に、男のヘルメットと心臓部に穴が穿たれた。彼はそうなったことすらも認識していなかっただろう。男の体は掘られた横穴に落ちて行った。


「仕方ないことだがお前は俺にウソを教えた。

 許されないことをしやがったんだぞ!」


 苛立ちまぎれにオニキスは拳銃を穴に投げ捨て、そして踵を返した。


「アア、クソ! 帰るぞ!

 下らないことに金を使わされちまった!

 気分が悪い!」

「して、オニキス社長。ここの処理はどのようになさいますか?」

「決まってるだろ、全部ふっ飛ばしてしまえばいいんだ。

 有毒な可燃性幻覚ガスが地下から噴出、火花と接触して爆発!

 工事責任者は爆死! これで終わりだ」


 何たる邪智暴虐か!

 しかしこれが通ってしまうのがシティなのだ!


「なるべく派手に吹っ飛ばせ!

 クズどもが消えて行くのが見たい!」

「心得ました、オニキス社長……!」


 護衛の男は何かに反応し、オニキスを庇った。

 上空からの襲撃者が踵落としを繰り出すが、それは護衛によって防がれる。反動で跳躍した襲撃者はクルクルと回転しながら着地した。黒いエイジア、ジャッジメントロスペイルがそこにいた。


「ドーモ。だがどういうことだ?

 私を攻撃するなんて」

「知れたこと。

 私は私自身の意志で貴様を粛正すると決めたまでのことだ」


 ジャッジメントはオニキスを指さした。

 オニキスは肩をすくめた。


「私が誰か分かっていて言ってるのかな、それは?

 オニキス様だぞ?」

「腐敗した金持ち。生きている価値など微塵もなし。

 故に私が貴様を殺す」

「誰がその力を分け与えてやったか、理解していないようだな。

 人造ロスペイルの力がなければ老老いぼれに過ぎんただのクズが。

 お前をとりなしてやって、力を与えてやったのは誰だ?

 お前の正義を満足させてやったのは誰だ?

 思い違いをするんじゃあない」


「否。この力を私に授けたのは天意だ。

 貴様のような俗物ではない。天に還るべし」


 オニキスは舌打ちした。

 護衛の男に耳打ちする。


「人造ロスペイルの稼働データを得られただけいいと思っていたが……

 気が変わった。お前たち同士の交戦データも仕入れておこう。

 何かの役に立つかもしれないからな」


 二人は構えを取った。

 だが、彼らの耳に走り来る足音が聞こえた。


「待て、ジャッジメント!

 これ以上、お前の好きにはさせないぞ!」


 結城虎之助――エイジアがそこにやって来たのだ。


◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆


 護衛と思しき筋肉質な白人男性と、オニキス。

 そしてジャッジメントが対峙していた。


「アー! ま、また化け物!?

 か、勘弁してくれ! これは何なんだ!」


 オニキスは叫び声を上げた。

 わざとらしい奴、少なくとも片方は知っているだろう。


「逃げろ、オニキス!

 こいつの相手は僕がする!」

「わ、分かった! 行くぞ、お前!

 こんなところにいつまでもいられるか!」


 オニキスは護衛の男に連れられ、去って行った。

 僕たちは闇の中で対峙した。


「三度起き上がって来るとはな。

 貴様には学習能力というものがないらしい」

「学習しているさ。

 だからこそ、僕はこうしてここに来たんだ。

 あなたを止めるために」


 僕はキースフィアを引き抜き、変身を解除した。

 ムッとした熱気が僕を包み込む。


「これ以上罪を犯す必要はありません。

 もうやめにしてください。野木さん(・・・・)


 僕の呼びかけに応えてくれるか、賭けだった。

 だが、彼はそれに応じてくれた。

 ジャッジメントの体が光に包まれ、その中から野木楽太郎が現れた。


「……やはりあなただったんですか。

 ジャッジメントロスペイルの正体は」

「よく分かった……

 と言いたいところだが、気付くのが遅すぎる。やはり無能か」


 彼の正体を示唆するヒントは、いくつもあった。だが、見逃して来た。信じたくないということが本当だろう。僕に生きる道を示してくれた人が、怪物であるはずがないと。


「なぜロスペイルになったんです。

 どうしてロスペイルなのに意志を保っていられるんです。

 あなたは……ロスペイルと戦う人ではなかったんですか?」

「人はロスペイルとなれば意志を失い、ただ人を襲う怪物になる。

 それは一面的な意味では正しい。だが私は……

 脳を犯し、人間性を奪い去るロスペイルの魔力に耐え切った」


 野木さんの口ぶりは、あくまで落ち着いたものだった。彼が本当に意志力でロスペイルの支配に耐え切ったのは、それは分からない。少なくとも野木さんは信じているようだ。


「邪魔立てをするな、虎之助。

 この街を蝕む害悪を滅ぼすこと、それが正義だ」

「違う。僕も、あなたも、正義なんかじゃない。

 この街に住まうただ一人の人間だ。

 ただの人間が、たった一人の正義を振りかざすことこそが悪だ!

 この街には法がある、ならば人への裁きは法に任せるべきだ!

 僕はそう思う!」


「法の支配の外にいる人間がいる。

 そのことが分からぬお前ではないだろう。

 幾度も歪みに打ち据えられ、それでも変わらぬか、お前は!

 愚かだと言うほかないぞ!」


 確かに、僕は何度もこの街を支配するものたちの悪意に晒された。正当な裁きを受けさせることも出来ず、のうのうと生きる犯罪者を見たのも一度や二度ではない。しかし。


「変えようとしている人はいる。

 父さんも、市長も、この街に住むすべての人々が!

 歪んだ現実を否定し、それを正そうとしている!

 どんな困難な道になるかは分からない。

 それでも、僕はその道こそが正しい道だと思う!」

「話にならんな、虎之助。所詮貴様はその程度の人間よ……!」


 野木さんの体が光に包み込まれる。

 ジャッジメントロスペイルが再び現れた。


「人間は変わらない。

 変わるのを待っていては、世界は滅びてしまうだろう。

 この街を見ろ、虎之助。それが答えだ。

 人は変わることは出来ない。出来るとすれば悪い方向にだ」

「僕とは意見が違いますね、野木さん。

 あなたは……止まらないんでしょう?」

「然り。この街の歪みをすべて正す。

 それが正義たるこの私の定めだ!」


 野木さんは構えを取った。あの構えは僕が最初に教わったものだ。あの時、最初に戦った時に気付くべきだった。もしかしたら野木さんは気付いてほしかったのかもしれない。


 自分の掲げる正義に、賛同してほしかったのかもしれない。


「あなたを否定します、野木さん。

 あなたは正義なんかじゃない、ただの怪物だ!

 人の法も力も及ばない化け物が、自分の望むように世界を歪めているだけだ!

 あなたの在り方を、僕は否定する! 行くぞ、ジャッジメント!

 お前のしてきた事の罰を受ける……いまが、その時だ! 変身!」


 キースフィアをセットし、僕はエイジアに変身した。


 白のエイジアと、黒のエイジア。

 彼も僕も力を望み、そして手に入れた力でまったく別の方向を目指した。

 野木楽太郎は、あるいは鏡像なのかもしれない。

 僕が力に溺れて、突き進んだ末路にいるもの。


 僕と野木さんはほとんど同じ構えを取った。野木さんの構えの方が洗練されている。どうすれば勝てる。どうやれば勝てる。そんなことを考える暇もなく、野木さんが踏み込んで来た。僕もそれを追うように駆け出した。背後で爆発が起こり、炎が舞い上がった。


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