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少年探偵とサイボーグ少女の血みどろ探偵日記  作者: 小夏雅彦
第一章:サイボーグ少女と雷の魔物
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06-もう一度守るために

 ドライバーは慎重にハンドルを操作した。

 いつ如何なる時でも気が抜けない、横合いから当たり屋が飛び出してくるかもしれないし、アパートの上階から麻薬中毒者が落ちてくるかもしれない。武装強盗が出てくるかもしれない。サウスエンドは何でもありだ。


「緊張してるみたいだな。こういうところを走るのは初めてか?」

「ええ、もっといい道しか走ったことがありませんでしたよ」


 話しかけられるとは思っていなかったので、ドライバーは少し驚いた。


「悪いな、危険なところについて来てもらって。

 俺一人で歩かせられんらしい」

「それは、市長ですから。この都市の最高権力者ですよ?

 そんな簡単に……」

「だからって堅苦しくてたまらねえだろ。

 俺だってたまには故郷に帰りたいンだよ」


 市長、ジャックは普段のそれとは打って変わった砕けた調子で話す。


「そう言えば市長はこの辺りの出なんでしたね。

 やはり、ここを変えたいと?」

「ああ、変えたいよ。

 俺だけじゃない、他の連中だってここから……」


 その時だ!

 眼前のアスファルトが爆裂! ドライバーはギリギリのところでブレーキを踏むが、舞い上がった粉塵が視界を塞ぎ、打ち上げられた破片が散弾めいて降り注いだ。そして、それに気を取られている間に横合いからトラックが突っ込んで来た!


 凄まじい衝撃がジャックを、そしてドライバーを襲った。市長用に防弾加工が施されたリムジンの耐久力は、それに耐え切った。二人は頭を振りながら車外に脱出した。


「っててて……た、大変なことになりました。

 大丈夫ですか、市長?」

「ああ、俺は大丈夫だ。

 それよりも、早くここから逃げよう。歩けるか?」

「え、ええ。どうにか。体を打ってはいませんから……」


 その瞬間、ジャックはドライバーを押し倒した。何を、そう思ったが彼が自分の命を救ったのだと次の瞬間には気付いた。何かによってボンネットが砕かれたからだ。


(いったい何が?

 これ以上私に何をしろって言うんだ?)


 ジャックに引きずられながら、ドライバーは視線を上げた。

 そこには化け物がいた。


「ひっ……ヒィーッ!?」


 情けない悲鳴をドライバーは上げた。ロスペイルの無機質な姿は、凶悪なパワーは本能的な恐怖を喚起する。ガタガタと震え、顔を青くし、失禁するのが普通の反応だ。


「避けんじゃねえよ、ええ?

 お前たちは邪魔なんだよ! ワカルか!」


 怪物――ロスペイルはバールのような腕を振り上げた。


(死ぬ。ああ、こんなところで私は死ぬのか……?)


 だが、事態は次々に動き出す。

 鈍い発砲音が聞こえ、ロスペイルの体が揺らいだ。


「止めろ。もうお前たちに人を殺させはしないぞ……!」


 怪物は攻撃を取りやめ、声のした方を見た。

 そこには、一人の少年がいた。


◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆


 どうやらギリギリのところで間に合ったようだ。ロスペイルに当たった弾丸は一発しかないが、注意は引けたようだ。僕は渡された拳銃をホルスターに仕舞った。


「手前……まだ生きてやがったのか?

 あのダメージなら完全に死んだと思ったが」

「僕は死ねない。お前たちが人を傷つける限り!

 僕はお前たちの前に立ちはだかる!」


 リムジンから滑り降りたジャック市長はドライバーの体を引きずり、街の奥へと逃げて行った。恐らくはサウスエンドから脱出するのだろう。僕とロスペイルは睨み合う、怪物の背後でトラックが爆発した。僕はキースフィアを取り出した。


「それは……!

 ジャッジメントの野郎、トチりやがったか!」

「いいや、やったさあいつは。

 一度は倒れた……だけど、僕は!」


 人を助ける。いまを生きる人を。

 善人であろうと、悪人であろうと、裁くのは人であるべきだ。

 お前たちのような化け物はすっこんでいろ……!


 僕はキースフィアを掲げる。以前は負けた。あの時から何も変わっていない。この心以外は。ならば、心以外も変えられるはずだ。否、変えてみせる。僕自身の力で!


「この『身』よ……『変』われ……!」


 変わろう、僕の願った僕に。


 僕は、僕に『変身』するのだ。


 キースフィアを接続するのと同時に、エイジアドライバーが反応した。僕の体を電子化した鎧が包み込み、そして顕在化する。エイジアが再び、この世界に降臨した。


「行くぞ、ロスペイル!

 お前たちの野望はこの僕が、エイジアが砕いてみせる!」


 僕は力強く踏み込み、ロスペイルに向かって行った。

 戦うために、変えるために!


■◆■◆■◆■◆■◆■◆■


 最初の惨劇を免れたデモ参加者や作業員たちは、空き地に身を寄せ合っていた。


「いったい何があったんでしょう?」

「帰れるんでしょうか?」「だから嫌だったんです」

「みんな無事か?」「チクショウ!」

「疫病神どもめ!」「ぶっ殺してやる!」


 殺伐たる空気が辺りを包み込む。

 その傍らでは子供や母親が震えていた。


 その時、ズシンという腹の底に響く様な地鳴りをそこにいたものは聞いた。


 地震か?

 いや、そうではない。地面が盛り上がっているのだ。

 人々は不安げにそこを見た。


 直後爆発が起こる!

 そのタイミングで逃げ出せたものは幸運だった。舞い上がった土砂に押し潰されたものも、もしかしたら幸福だったのかもしれない。地面から出てきた化け物をその目で見ずに済んだのだから。


 鋼鉄の怪物は地面から這い出し、目に付くもの目掛けて腕を薙いだ。人々は簡単になぎ倒され、吹き飛ばされ、死んだ。怪物は両目を血走らせ標的を探した。


「ドコダ、ドコニイル……

 オレヲ、コンナメニ遭ワセタヤツハ……!」


 ソリッドロスペイルは咆哮を上げた。

 殺伐たる死が街に充満しようとしていた。


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