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少年探偵とサイボーグ少女の血みどろ探偵日記  作者: 小夏雅彦
第一章:サイボーグ少女と雷の魔物
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05-下される審判

 僕の目に映ったのは、追い詰められ、血を流し倒れる父。

 そしてそれを見下ろし、悠然と歩を進めるジャッジメントの姿だった。

 やはり、意に沿わないものを殺しに!


「止めろォーッ!」


 僕は叫び、駆け出した。ジャッジメントの体を掴み、乱暴に投げ捨てた。ジャッジメントはすぐさま体勢を立て直し、向き直った。僕とジャッジメントの距離は5mもない。


 背後を見る。父は壁に背を預け、ぐったりとしている。手元には小型の拳銃がある、恐らくはこれで抵抗しようとしたのだろう。手首には小さな傷がある、だがジャッジメントにこのような攻撃能力はない。撃ち出された銃弾を弾き返したとでも言うのか?


「よく来た、と言いたいところだが勘が悪いな。

 常に想定すべし」

「黙れ、偽物……!

 お前のような奴が人を傷つけるなら、僕はお前を倒す!」


 偽物と言われた時、ジャッジメントの肩がピクリと震えたような気がした。否、気のせいではない。ジャッジメントは体を小刻みに震わせた。笑っているのだ。


「ならば貴様はなんだ?

 譲り受けた力をまともに使うことも出来ぬ紛い物が!」


 ジャッジメントは踏み出した。僕も同時に踏み込み、距離を詰める。

 ジャッジメントが繰り出した拳をダッキングで避け、タックルを仕掛ける。ジャッジメントが呻き、僕を打とうとした。だが力任せに押し込む、どれだけの攻撃を受けようとも!


「こんなところで……

 やり合うわけにはいかないんだよーッ!」


 僕は力強く地を蹴った。

 床材が砕け、僕とジャッジメントの体が上方に打ち出された。


「そんなに父親が大切か?

 結城……虎之助?」


 一瞬の動揺、それが僕の運命を決定付けた。

 ジャッジメントは重心を後方に傾けた。落下の軌道が変わる、すなわち空中で一回転、僕が下に回った。更にジャッジメントは膝蹴りを放ち、僕の体を押し退けた。僕は地面に激突し、ジャッジメントは着地した。


「ぐうっ……! なぜ、僕の名前を知っている!」

「その程度のことで心乱すとはな。

 やはり貴様は、エイジアには相応しくなかった」


 ジャッジメントは落胆するように言葉を吐いた。少しはこちらの質問に答えて欲しいものだが、仕方ない。僕は立ち上がり、構えを取った。こいつを倒さなければ。


 ジャッジメントの能力は大まかに把握している。

 一つは電撃。手足の末端部分からしか放出出来ないが、その威力は絶大。エイジアの力を持ってすれば一撃で消し炭になるようなことはない。だが、電撃は一撃一撃が僕の感覚を少しずつ狂わせて来る。


 それに加えて鍛え上げられた体術、しなやかな運動能力。

 だがパワーはそれほどでは、少なくともソリッドほどではない。押し込まれた時無理矢理振り払うことが出来ない程度だ。もう一度組み合うことは出来ないだろうが、力勝負ならまだ目がある。


 そして最後の一つ、僕が事務所での戦いで見た高速攻撃。

 電撃を応用し反射能力を増強しているのだろうか? いずれにしろ、何のリスクもなく使える技ではない。恐らくはチャージの時間が必要なのだろう。そうでなければ落とされはしなかった。


 ともかく、戦える。僕はこいつに勝てる。

 そう信じて僕は踏み込んだ。


 両手を強く握り込む。

 両腕が赤熱し、圧倒的エネルギーを纏う。


「腕指の圧力センサーによって稼働する赤熱機構。

 瞬間的に3000℃まで加熱、ただし放熱範囲が及ぶのは手のみ。

 知っておるぞ、その力は……!」


 僕は燃える拳を繰り出し、ジャッジメントを狙った。ジャッジメントは中腰姿勢になり、半身になった。そして、五指すべてを遊ばせた奇怪な構えを取った。


 僕の繰り出した拳を、ジャッジメントは手首に自分の手首を当て弾いた。赤熱の範囲外だ、そしてそれはまぐれではない。逆の手による攻撃も、死角から抉り込むように放った一撃も、すべて弾かれた。敵はこの機構を知っている、だがそれだけではない。


(僕がどうやって打ち込むか、それさえも分かっているというのか!?)


 僕は深く踏み込み、脚部赤熱機構を発動。蹴りを繰り出そうとした。だが、その前にジャッジメントの迎撃があった。ジャッジメントは前足を振り上げ、僕の膝を上から縫い付けた。それだけで動けなくなったが、それだけではない。体勢が瞬間崩れる。


「至近距離で蹴りを放つべからず。

 体幹の捻りと筋肉の緊張から攻撃を察知される。

 それだけではない、足は体を支える重要な役目がある。

 それを怠れば……こうなる!」


 揺らいだ上体では続けて繰り出されたサイドキックに対応出来なかった。ほとんどノーモーションだったが、凄まじい衝撃が僕を襲った。ほとんど水平に吹っ飛んで来、僕は地面を舐めた。ジャッジメントは残心を決め、ゆっくりと近付いて来た。


「2年間の鍛錬。半年の戦い。

 お前はその間何をしてきた?

 何を考えて戦ってきた?

 ただ漫然と戦っていたというのならば頷ける……

 貴様の弱さがなぁ!」


 ジャッジメントが繰り出して来たチョップを、僕は受け止めた。

 受け止めざるを得なかった、例えこの後電撃が来ると分かっていても! 電光が僕の体を焼く、視界が白く染まる。そして再び衝撃。側頭部を撃ち抜く回し蹴りを喰らったのだ。


 視界がグラグラと歪む。天地の区別がつかなくなる。立ち上がろうとしているのか、それとも寝転がろうとしているのか。僕の体が地面に、それとも天に? ともかく引きずられた。ジャッジメントの憎悪に満ちた目が、僕を貫いた。


「しかし、(まこと)情けないのは……

 その惰弱な精神性だーッ!」


 僕の体が投げ捨てられた。そして、腹部に衝撃。蹴られたのだと気付くまでに少し時間が掛かった。何度もアスファルトをバウンドし、壁に叩きつけられようやく止まった。かろうじで上体を起こし、壁に背を預ける。勝ち目がない、こんな敵を相手にして……


 バチバチと、電光が迸った。

 だが、ジャッジメントのものではない。いったい何が?


 僕は視線を落した。

 そこでようやく合点がいった。


 ドライバーが壊れているのだ……

 僕の体が光に包まれ、生身の肉体が露わになる。


「貴様の如き軟弱者がエイジアであるのならば、もはやエイジアなど必要なし。

 この世界が求めているのは貴様ではない、真の英雄(ヒーロー)だ。

 そして狂った世界に断罪を下すは……

 このジャッジメントのみに許された行為である」


 静かな狂気を秘めた言葉を、僕はぼんやりと聞いた。

 ああ、死ぬのか……


失われた力は「06-エイジア再始動」で取り戻される

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