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少年探偵とサイボーグ少女の血みどろ探偵日記  作者: 小夏雅彦
第一章:サイボーグ少女と雷の魔物
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05-父との対面

 僕は役所や図書館を駆けずり回り、オニキスに関する資料を片っ端から漁った。こういう時、免状は役に立つ。出せば特に文句は言われないからだ。オニキスが経営する会社の登記簿や税金の納付状況。果ては彼らに関する記事まで。


 これによると、オニキス社は数年前に急激に経営が悪化している。彼らが警護する要人が暗殺され、株価が急落したのだ。だが、どこからか資金を調達し危機を脱している。


 そして、それを行ったのは何者かすぐに分かった。経営改善の直後、役員として加わった人物がいるのだ。だが、彼の正体はよく分からない。前歴は不明、就任後も何をしているのか分からない。オックス=トランスと言う、取り立てて特徴のない男だ。


「トランス氏は写真が嫌いみたいですねー。

 どこ見ても写ってませんよ、これ」


 就任後数度の株主総会やパーティが開かれているが、彼はどこにもいない。もしかしたらオックスという人物自体存在していないのかもしれない。すなわち、ダミー。架空の人物を使って金を動かすのは、誰でも最初に考えることだろう。


「金の流れを追おう。銀行のデータ……

 はさすがに見せてくれないだろうからエイファさんに頼む」


 どこまでデータを追えるか、追ってどうなるかも分からないが。


「でも……どうやって立証すればいいんでしょう?

 化け物が現れたなんて、人は信じないんじゃないですか?

 それに集めた証拠はみんな違法なものですし……」

「本件に関しては、必ずしも立証する必要はないさ。

 依頼者が満足すればいい」


 ええ、とクーデリアは大袈裟な声を上げた。

 だが、僕は最初からそのつもりだった。


「ど、どうしちゃったんですか結城さん!?

 いままでなら、きっと……」

「立件するって息巻いていただろうな。

 けど、今回殺人を起こしているのは人間じゃないんだ。

 化け物に人間の法は適用出来ない、だったら諦めるしかないだろう。

 父さんはその辺りのことをよく心得ている……

 だから、完全解決なんて望んじゃいないんだ」


 そうだ、あの男はずっとそうだった。誰よりも慈悲深そうな顔をしておいて、誰よりも冷徹だ。苦しみ、傷ついた人に寄り添うことなんてしない。上から見下ろすだけ。どんな美辞麗句を言ったって、僕はそれが空虚なものだと見抜いていた。


「……本当なんでしょうか、それ?

 あの人、そんなに悪い人には見えませんけど」

「そうだよ、見えないんだよ。でも、あの人は冷たい人だ……!

 自分がどうすればよく見えるかしか考えていない!

 そこで苦しんでいる人のことなんて知ったこっちゃない!

 そしてみんなそれに騙される!

 僕のことも見ないような男が、何を――!」


 いけない、ヒートアップしてしまったか。

 僕がやるべきことは、こんなことではない。


「中間報告に行ってくるよ、クーデリア。

 今日はもう上がってくれ」

「結城さん……あなた、その、大丈夫なんですか?」

「大丈夫! 何ともないよ! さあ、行って。

 僕も行ってくるからさ」


 最低限の資料を持って、僕は出て行った。

 二度と帰りたくないと思った家に。




 僕の生家はイーストエリアの住宅街にある。クリーム色の壁が特徴的なコンドミニアム。僕はそれを見上げた。どこまでも見下ろさないと、街の姿は見えない。


(確か事務所の場所は変わってない、って言ったよな。

 はぁ……行くか)


 僕は憂鬱な気持ちを振り払って、ロビーに入ろうとした。ところで、ロータリーに車が止まったのが見えた。ただの車なら無視しただろう、だがそれは黒塗りの公用車だった。


「駐車場で待ってろ。

 ちと時間が掛かる、飯でも食って来いよ」


 青いジャケットを羽織った男は、窓越しに運転手にそう伝えた。肩までかかる長い髪をしているが、しっかりセットしてあるので不潔感はない。彼は着けていたサングラスを外し、建物を見上げた。

 その顔を見て、僕は驚いた。


(ジャック=アーロン?

 市長がどうしてこんなところに? まさか……)


 逢引でもしているのではあるまいか、などという下世話な想像をしてしまった。まあいい、彼がここで何をしようと、僕には関係ないのだ。だったらさっさと終わらせて帰ろう。

 僕は視線を戻し、エレベーターホールに向かった。


 ところが、市長はまるで僕を追い掛けるようにして歩いて来た。僕はなるべく視線をそちらに向けないようにしながらエレベーターに乗る。市長もそれに続き、僕と同じ階のボタンを押した。嫌な偶然もここまで来ると笑えて来る。


(まさか市長のお相手がここにいるとは……

 分からないものだな)


 ところが、目的地に着いた途端そうでないと気付いた。僕は市長を先に降ろし、事務所へと向かった。すると、事務所の前に市長が立っていたのだ。襟元を正して。


(えっ……市長、まさかあんた僕の家に用がある、ってことか?)


 内開きの扉が開かれ、中から父が姿を現した。

 来客用のしっかりしたスーツだ。


「お待ちしていました、ジャックさん。

 それでは中に……あれ、虎之助?」


 二人は僕の顔を見た。

 市長はにこりと笑い、軽く自己紹介をした。


「噂は聞いているよ、キミが虎之助くんか?

 私はジャック=アーロン、よろしく」


 どんな噂をしているのやら、僕は差し出された市長の手を取った。

 僕の実家帰りは、多少の波乱を含んだまま始まるようだった。


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