05-暗殺者、襲撃
僕の予想通り、リムジンは渋滞に捕まり走行を停止した。
黄色いタクシーや作業用車の中にあると、リムジンの黒はよく目立った。
(こいつらいったいどこまで行くつもりなんだろう?
ここから先にあるのは……)
この先にあるのはエグゼクティブや役人が住まう官公庁街。黒塗りの高級車には釣り合っている場所だ。だがそこに居を構えるのは一部のメガコーポのみ、なら彼は……
そう考えていると、僕の端末が小さく震えた。
エイファさんからデータが届いたのだ、僕は信号待ちの間にそれを開いた。男の名はオニキス=マッコーレー。民間警備会社の役員、犯罪歴はなく、何度か市に表彰を受けているらしい。
そして、それが真っ赤な嘘であるとも書かれている。
警備会社はあくまでフロント企業であり、本業はヤクザ。『ギルド』や鵲組のように市民向けではない、企業恐喝を主に行う連中らしい。警備情報の横流しも日常茶飯事だそうだ。
オニキスが経営する警備会社は、都市開発にも一枚噛んでいる。彼は開発推進派だが影響力はそれほど強くない。彼が計画を推し進めるために舎弟を使い暗殺を?
「……有り得ない話じゃないな。
金のためなら何でもやるような連中、か」
「だ、大丈夫なんですか結城さん?
そ、そんな危ないところに突っ込んで行って?」
全身凶器のサイボーグがなにを言っているんだか。
僕は思わず苦笑してしまった。
「大丈夫さ、いきなり強気に出てくるようなことはないだろう……
なにせ僕は免状を持つ探偵なんだ。
さすがにそんなものが一人消えれば、騒動になるだろうしね」
……そのはずだ。そう信じている。いざとなればエイジアの力だってあるのだ。信号が変わり、車列が動き出す。僕はそれに引き離されないように、必死について行った。
車が向かったのはオニキスが所有する自社ビルだ。
さすがに周囲にあるメガコーポのものより格は落ちるが、それでも立派だ。どれだけの金を積んで、あるいは血を流して、これほどのものを手に入れたのか? オニキスが車から降りる。
「ではこのまま突撃インタビューってことですね!?」
「いや、オニキス氏に直接あたる必要はないって。
受付に行こう」
彼が事件に関わっている可能性は高い、だがすぐに向かうのはリスキーだ。まずは証拠を集め、足場を固めなければ。もしかしたら敵が尻尾を出してくるかもしれない。
サウスエンド開発地域で死体を発見したのは、いずれも会社の従業員だ。本社勤務ではない、警備業務従事者なので、彼らの居場所を突き止めるのに苦労した。受付で勤務地情報を貰い、そこまで向かい、更に彼らを説得する必要がある。
半日をかけて探し回った結果分かったのは、何も分からないということだ。
「まさかここまで何も見つからないなんて……
どうしましょう、結城さん?」
「そうだね。
でも何も見つからないところまでは予想の範囲内だ。これからだよ」
「またまた、強がっちゃって。
分かりますよ、落胆してるのは。でも……」
と、言ったところでクーデリアも気付いたようだ。
鋭い目つきで後ろを見る。
「なるべく後ろを見ないように。
僕が誘導するから、キミが捕まえてくれ」
クーデリアは頷いた。
僕はアパートとアパートの間にある薄暗い路地に入って行った。クーデリアは死角に入った瞬間跳躍、屋上へと一足飛びに上がった。口笛を吹きたくなるのを堪えつつ、僕は進んだ。僕の後ろ姿を追い、路地に入り込むものがいた。スーツを着て、サングラスをかけた男。オニキス氏のボディーガードの一人だ。
彼は懐に手を入れた。その瞬間、クーデリアが落ちて来た。男は反応したが、避けきれない。背中を蹴られ地に這いつくばり、拳銃を取り落した。僕はそれを踏みしめる。
「何が目的だ?
僕を追い掛けて来て、いったい何がしたい?」
男は堪えないまま呻いた。クーデリアの力は非常に強い、逃げることなど出来ない。
「僕を追い掛けたのは、僕が事件のことを嗅ぎ回っているからか?」
「こんなことになるとは予想外だった……
だがなぁ、この程度ならなんてことはねえよ」
男の腕が膨れ上がり、体が持ち上げられた。クーデリアも予想外の力に弾き飛ばされる。男の体表が、スーツも含めて金属光沢を放つ何かに変わっていく。
「まさか……ロスペイル!?」
男の体が完全に変化したかと思うと、全身が膨れ上がった。
全長2m近く、大仰な肩当てと鎧を身に纏っている。左腕の骨は露出し、肘の方に向かって伸びている。右手を骨に添えると、男はそれを引いた。骨色の鋭利な刃が現れた、鞘だったのか。
「なんてことはねえ。お前はここで死んで、お仕事は仕舞いだ」
「……やってみろ、化け物!
僕はお前程度に屈しはしない……!」
僕はキースフィアを取り出し、バックルに挿入。先手を打とうとしたロスペイルだが、背後からクーデリアが蹴り掛かる。左腕の鞘でそれを受け止め、弾き返す。だが、僕の行動を妨害することは出来なかった。装着が完了し、エイジアが誕生した。




