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少年探偵とサイボーグ少女の血みどろ探偵日記  作者: 小夏雅彦
第一章:サイボーグ少女と雷の魔物
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05-無駄の積み重ね

 調査に先立ち、僕はサウスエンド開発計画について調べようとした。計画に反対する者が死ぬ、ということは分かった。だが計画そのものに対して、僕は驚くほど無知だ。手始めにネット上に転がっている情報を拾い、周囲の人々に聞き込みをした。


 それによると、こうだ。

 南方には所有者が死亡し、相続も行われていない宙に浮いた土地が多くある。それらには不法滞在者が入り込み、犯罪の温床となっている。それを回避し、また地域経済を活性化するために本計画は発案された。発起人はジャック=アーロン。チェン社を始めとしたメガコープも、この計画に深く携わっている。


 『サウスエンドに雇用と金と幸福を』というスローガンで開始された計画。

 だが、強引な開発に反対する住民も多く、計画は滞っている。住民の殺人さえ辞さない過激な抵抗に、推進派からも離反者が出る始末。そこで起こったのが、今回の連続不審死事件だ。


「っはぁ……なんだかスゴイことになってますね。これが……」

「サウスエンド開発最前線。聞いていたよりも、抵抗側が弱々しいな」


 抵抗グループはフェンスの外でプラカードを振り回し、叫ぶだけだ。主たる構成員であった鵲組の面々が亡くなったせいだろう。『ギルド』は今回の政策に、むしろ追従する方針を取っている。その方が儲けが多くなると考えたのだろう。


「ほんの一月くらい前のことなのに、懐かしい風景がなくなっちゃうなんて」

「都市じゃ日常茶飯事だ。さっきまであったものが消えて行くなんてことは」


 危うく聞き逃しそうになったが、気付いた。

 僕はクーデリアの目を真っ直ぐ見た。


「待て、クーデリア。一月前にここに来たことがあるのか?」

「ええ、あります。あいつらから逃げる時にここを通ったんですよ」

「もしかしてキミがいた場所って、地下にあるのか?

 金属光沢のある扉と壁があって、血管みたいなのを光が通ってる。

 そして、奥には棺桶みたいな設備が……」

「あれ、どうしてご存じなんですか? 私確か言いませんでしたよね?」


 僕はサウスエンドの地下で見たものを説明した。


「おお、まさしくそれですよ! 偶然ですね、結城さん!」

「でも待って、あの扉は地下にある時は封印されていたんだ。

 内側から外に出ようとすれば、当然その痕跡が残る。

 でも、僕が見た時はそんなものなかったぞ?」


「えーっと、あれは確か……

 そう、ビューンと跳べるものがあるんです。

 それを使ってシャッと外に出たんです。

 結構使うのが難しい装置なんですけど」


 ……それでも痕跡は残るんじゃないのか?

 とはいえ、記憶喪失のこの子に詳しい説明が出来るとは思えない。

 分かっていることは、彼女が下から来たということだけだ。


(もしかして、彼女は地下構造から出て来たのかな……?

 いや、まさかそんなことは)


 古い伝説だ。

 かつては街を覆う障壁はなく、世界はどこまでも広がっていた。果てなき世界をネットワークケーブルで繋ぎ、人々は光の速度で対話した。しかし、大いなる災いが起こり世界は滅亡した。僅かに残った人々は汚濁を通さぬ金色の光の中に逃げ込んだ。太古の人々が作り出した、大いなる遺産を世界に遺したまま。


 その遺物が、この都市の地下に埋葬されているというのだ。古い時代は地下に街を作ることが出来た。だからそこにある街は汚染を逃れ、古い時代の姿を残していると。誰一人として見たことのない、まさに神話だ。僕は信じていなかった。


 だが、クーデリアの存在はそれを裏付けるものになるのではないだろうか?

 彼女はこの時代に存在しないサイボーグだ。地に埋められた玄室から、まるで蘇るように飛び出して来た。だからこそ、彼女は謎の存在に追われているのではないだろうか?


(彼女を追うのが誰かも分からんし……

 いや、考えるのはよそう。いまは仕事を……)

「あ、ちょっと見てください結城さん。

 ほら、作業者の隣にいる……あの人たちです」


 クーデリアの声を聴いて、僕は現実に引き戻された。重機の轟音で音が掻き消されるが、彼女の声はよく通った。おかげで、僕は大型ダンプの隣に立つ者を見つけられた。


 作業管理者と思しき、黄色のヘルメットとヘッドセットを着けた男性。それはいい。だが、隣の男の出で立ちはおよそ作業現場に相応しくないものだ。フェイクファーのついた厚手のコート。髪全体をワックスで撫でつけ、オールバックにしている。金縁のサングラスをかけ、眉にはピアスの穴さえあけている。ヤクザか何かのようだった。


「二人が何を話しているか……

 この距離から聞こえないかな、クーデリア?」

「さすがに雑音が大きすぎて、ダメですね。

 あっ、あいつどっかに行くみたいですよ」


 男は尊大な態度で管理者の肩を叩き、管理者も大袈裟に彼を見送った。オールバックの男は二人の護衛と思しきスーツを従え現場から去った。そして、よく磨かれたリムジンに乗り込んで行った。僕は撮っておいた彼の画像データを、エイファさんに送った。


「行こう、クーデリア。

 もしかしたらあいつは事件に関係があるのかもしれない」

「ええ、まだ確証もありませんよ?

 無駄になってしまうんじゃ……」

「無駄の積み重ねでしか、僕たちは真実に辿り着けない。

 野木さんの言葉だよ」


 そうとも、確たる証拠なんてものがあれば誰も苦労なんてしない。走り回り、這いずり、調べて行くしかないのだ。都市は慢性的な交通渋滞が発生しているため、車がよく止まる。

 生身の足だって、決して追い切れないことはないはずだ。


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