14-死闘の終焉
人型のオリジンが拳を繰り出す。紙一重でそれを逸らしつつも、そこに込められた破壊的なエネルギー量が分かる。黄金の障壁は尚も厚みを増し、いかなる攻撃をも通さぬ構えだ。内部にいる僕たちを倒し、然る後に地上を殲滅しようというのか。
「……やってみろ!」
怒りの炎に燃え、装束が波打った。赤き輝きが空を焦がす。空中をまるで地上であるかの如く自然に歩くオリジンに対し、僕は重力制御を用いた不安定な飛行で対抗する。クーがオリジンにガトリング弾を放つが、しかしそれは到達する前に空中で静止した。
「……! 電磁的なエネルギーを用いた障壁、至近距離は危険です!」
クーが叫ぶよりも先に、エネルギーがオリジンの体から放出された。凄まじい力に煽られ、僕は吹き飛ばされ粒子障壁の手前まで押し出された。あれに当たれば命はない。空中でぐるりと半回転し方向を転換、障壁すれすれで体勢を立て直し、空を蹴った。
「イヤーッ! イヤーッ! イヤーッ! イヤーッ! イヤーッ!」
その勢いを乗せ、素早い五連打を放った。オリジンは拳を緩く握り込んだ構えを取り、僕の攻撃を捌いた。あからさまに格闘技の動き、取り込んだガイラムの力、記憶をも活用しているのだろうか? 連撃により開いた胴に重い一撃が叩き込まれる。
「グワーッ!」
ただのパンチ一発がなんて重さだ! クーはMWSを変形させブレードを形成、背後からオリジンに切りかかった。しかしオリジンは驚くべき柔軟さを持ってして腕を後ろに回して受け止めた。回転する刃も、その筋力によって押し止められる。
強烈なバックキックを放ちクーを迎撃しようとするオリジン。だがその寸前で彼女は身を引いた。刀身をチェーンソーから通常の物に変換、再び切りかかる。僕も痛む体を強いて踏み込み、両サイドからの連撃を繰り出した。
オリジンの体表が泡立ち、腕が生えて来る。僕の両手のラッシュ、そしてクーの二刀攻撃を受け止めるためのものだ。たった一人で二人を相手にしているというのに、それを感じさせない。むしろ、オリジンの方が優位に立っているだろう。
「グワーッ!」「グワーッ!」
そして僕たちはほぼ同時に、開脚ジャンプからの蹴りを喰らった。左右に吹き飛ばされる僕たち、オリジンが追うのは損傷が大きく、そして装甲が弱いクーだ。4本腕のラッシュを受け、クーは体勢を立て直すこともままならない。このままでは障壁に激突する!
「クソ、オリジン……! させてたまるかよッ!」
体勢を立て直しつつ意識を集中させ、障壁の中心に大型の重力スフィアを発生させる。大気や光さえもそれに引かれ軌道を歪める。僕は引力の檻を滑るようにして移動し、加速を得た。オリジンよりも、クーよりも、激突よりも早く二人の戦いに割り込んだ。
オリジンは加速のついた蹴りをガードした。だが彼を吹き飛ばし、クーの腕を掴むには十分だった。オリジンは蹴りを受けていないかのように振る舞い、再び飛びかかる。4本腕のラッシュを重力障壁によって逸らし、後退。障壁の中心部へ移動する。
何度打っても、打たれても、オリジンのマネキンめいた顔にはいかなる感情も浮かばない。真の意味で、オリジンには何もない。オーリ=ガイラムのようにエゴを持ってしてこの世界を支配しようという野望も、あるいは人を殺したいと願うことも、何もない。彼はがらんどうの存在であり、それゆえに欲望を持つ者の願いを投影してしまったのだろう。
「技もキレもとんでもないですね。
このままじゃやられちゃいますよ、トラさん」
「ちょっと待っていてくれ、クー。
どうすればこいつを倒せるか考えてるから……!」
オリジンは腕を広げた。彼の背中に青白い翼が浮かび上がった。それはバチバチと火花を散らし、絶えず流動していた。雷の翼、電磁波で周囲の景色が歪んでいく。
僕はクーを後ろに回し、黒く輝く手甲を掲げた。挟み込むようにして振り払われた翼を防具、そして重力場によって受け止める。指向性を持った雷が僕を苛む、重力波を逃れて到来した電磁場が内側の僕を苛んだ。血管の一つ一つが千切れたような感覚。
クーは自らの身に施した可憐偽装を解除し、MWSと完全に一体化した。僕の影から跳び上がり、翼を避け、オリジン本体に蹴り掛かる。高度に武装化された足を、オリジンはこともなさげに受け止めた。クーは反動で上方に跳び、慣性に従って下方に落ちる。落ちながら彼女は何度も足を振り下ろした。オリジンはそれを容易く防ぐ。
「ダメだ、クー! 後退しろ!」
3本の腕でクーの攻撃を防ぐオリジン。その内の1本をオリジンは胸元に持って行った。緩く握り込まれた拳の中に、白熱する球体が浮かび上がる。クーも危険な破壊力を込められたそれに反応し、避けようとした。だが、そのスピードは彼女の想像以上だった。
ドウッ、奇妙な発射音と共に白熱球が消えた。彼女の腹が背中から打ち抜かれ、風穴が開いた。叫ぶ間もなかった。クーの全身から力が抜け、MWSと分離した。
「き……さぁっ!」
保身も生存も考えず僕は駆け出した。全力のストレートを繰り出すが、オリジンの腕によって防がれる。クーが落ちて行く、粒子障壁へと。あのままでは、死――
クーの肉体からMWSが零れ落ちる。クルクルと円弧を描きながら落ちて行くそれを、何故か僕は目で追った。そして、それを掴んだ。脳髄を稲妻めいた勢いで駆け巡ったそれを、考えることすらなく僕は信じた。これだけがオリジンを殺すただ一つの方法だと。
エイジアとMWSは同じ未来の技術によって作られたものだ。ならば、その二つを合わせることが出来るのではないだろうか? 少なくともエイジアの装甲展開システムと、MWSの武装展開システムには共通する点が多い。僕は願った。
左手に握り込んだMWSがエイジアの装甲と一体化し、その力を増幅させた。手甲が禍々しき悪魔を象徴するような、鋭角的な形へと変わった。その時、オリジンの目が初めて見開かれたような気がした。各部位にブースターを生成、押し込む。全赤熱機構を右腕に収束、加熱する。右手甲があの日見た天球の如き神聖な輝きを帯びた。
オリジンの腕が焼け溶ける。反撃のためにオリジンは逆の腕を振り上げた。だがそれよりも、拳がオリジンの頭部に到達する方が速かった。如何に強大な力を持つロスペイルと言えど……頭部を粉砕されれば死ぬ!
頭を失ったオリジンが地に落ちて行く。黄金の粒子障壁が解除され、放たれた砲弾が勢い余って僕たちの方に飛んでくる。僕はジグザグに飛びそれを避け、彼女に手を伸ばした。




