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少年探偵とサイボーグ少女の血みどろ探偵日記  作者: 小夏雅彦
燃え上がる怒りと憎悪の炎
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14-人の戦い

 シティ、ザ・タワー最上階。絶大なる権力を持つメガコーポ役員、政治家、市長ですらも立ち入ることの出来ない聖域。旧世代、ここは地上へと逃れた人々を監視するために作られた。地下都市構造体運営員会より選ばれた者たちが穢れた地上での業務を代行し、それが後にシティ議会へと続いて行くことになる。葬り去られた歴史を知る者は稀だ。


 100年。それだけの時間をかけて、彼らは地下都市構造体で起こったロスペイル・ハザードの記憶を風化させた。真実を知る者を暗殺し、懐柔し、持ち込まれた記録を捻じ曲げた。地下都市への入り口を封鎖し、来るべき時を待った。すなわち、オリジンの損傷を完全に回復し、全人類ロスペイル化を達成するその日を。


「時は来たれり、と言ったところです。

 主よ。世界が我々のものになる時が来ました」


 そこは闇に覆われていた。ロスペイルの知覚能力を持ってすれば、闇は問題にならないからだ。四方を覆う黒壇の壁は電子的、物理的な感傷のほとんどを跳ね除ける。シティでもっとも安全な場所、それがザ・タワー最上階なのだ。


『100年の時を経てオリジンの損傷は完全に塞がれた。

 計画を実行する時が来た』


 くぐもった声が聞こえて来た。それを放つは、しわがれたミイラめいたロスペイル。彼はいま、何本ものコードに接続され、全身を拘束されている。彼の名はマインドシーカーロスペイル、オーバーシア『十三階段』最後の一人だ。

 彼の持つ精神感応能力を、『賢人会議』は利用しようとしていた。オリジンは人間に内在するロスペイル因子に働きかける力を持っている。単体でも十分過ぎるほどの力を持っているが、マインドシーカーの持つ精神的な、すなわち脳に干渉する力を利用することで数倍にも効果を高められる。ゆくゆくはオリジンなしでもその能力を再現出来るだろう。


『階下には羽虫がたむろしているようだな。

 エルファス、対処せよ』

「かしこまりました、主よ。

 『賢人会議』が末席、あなた様のために戦いましょう」


 銀髪の青年、エルファス=ヘイスティングは『賢人会議』の末席にして実働隊であった。秘密を保つために、人は多く動員出来ない。『賢人会議』の頭目たるノイマンロスペイルは極めて脆弱な存在であり、守られなければならない存在だった。


 思えば長かった。エルファスは回想する。最初の数年はもう一度オリジンを作ることが出来ないかと試行錯誤を行った。いまはすでにいない連邦系――すなわち、地下都市構造体を作り上げた旧世代の政治結社――の策謀により、オリジンはあわや爆殺されかかった。如何に強大な力を持とうとも、誕生前であれば無力な胎児に過ぎないのだ。

 彼は残された物からオリジンを再構成しようと試行錯誤した。だが、ダメだった。誕生したロスペイルのほとんどは紛い物であり、空間と事象を制御するオリジンのパワーを部分的にしか再現していなかった。それらを消すことも、また手間であった。

 だからこそ彼らは100年と言う、ほぼ無限に近い生を持つロスペイルにあっても決して短くない時間を費やさなければならなかった。実験を加速させるためには合法的かつ民主的な議会とは別の勢力を作らなければならなかったので、彼はオーバーシアを作った。オリジン実験の失敗作の一つを頭目に据え、操りやすいようにしながら。


 小さな努力が実を結び、今日に至った。

 だからこそ、失敗は許さぬ。


『行け、エルファス。役に立て。私がお前を見初めたのだから……』


 エルファスは恭しく一礼し、踵を返した。彼が部屋から出ると、厚さ10cmを越える鉄製のドアが三つ閉まった。その隙間から覗いたノイマンロスペイル、その姿は……脳が、シリンダーに満ちた緑色の液体の中に浮かんでいるだけだった……!


「役に立つ。立ちますとも。

 そのために私はこれまで生きて来たのですから」


 歩くエルファスの体が黒く染まり、解けた。彼は黒い影となった。




 一方その頃、市長軍ランドキャリアー。重装甲化されたバンの中で彼らはモニターを睨んだ。そこにはザ・タワー周辺の、阿鼻叫喚が映し出されていた。

 少なくとも20は下らぬ武装ロスペイルが逃げ惑う人々を惨殺している。警察も出動しているが、火力に圧倒的な差がある。役には立つまい。ロスペイルたちは不必要な殺戮、侵攻を行おうとはせず、ザ・タワー周辺を守るように巡回している。タワーの頂上には不穏な光。


「恐らく、連中が塔の頂上で何かをしようとしてやがるんだろうな」

「ああ、にしてもこれだけの数をよく仕入れたもんだぜ……」


 中にはオーバーシアが作り上げた武装ロスペイルだけではなく、固有種も存在する。恐らくはオーバーシア弾圧を逃れ、地下に潜っていた連中だろう。


「どうするんですか、市長? 僕たちはあそこで、どうすれば……」

「ザ・タワーに突入し、最上階まで登る。

 その手段は、まあ……追々考えるとする」

「オイオイ、行き当たりばったりでどうにかなると思ってるのか?」

「仕方ねえだろ。上に入れるのは限られた人間……

 すなわち、シティを裏から支配する『賢人会議』の関係者のみ。

 俺の知る限り、エルファス=ヘイスティングって男ただ一人だ。

 中に突入したとして、どうやって昇ればいいのか分からねえよ」


 エルファス=ヘイスティングの名には、エリヤも聞き覚えがあった。シティの裏を統括する犯罪結社『ギルド』の幹部。それを聞いても、エリヤはそれほど不思議には思わなかった。むしろ、得心したくらいだ。裏と表、両面から街を支配していたのか、と。


「人間の社会を支配し、その裏でオーバーシアのような連中も飼っていた。

 ここまでスムーズに戦力を移譲したとなると、そう考えるのが妥当だろう。

 鮮やかと言うほかないな」

「クソどもの掌で踊っていたかと思うと、イライラしてくるぜ」


 ジャックは吐き捨てた。

 そこまで言ったところで、ドライバーが警告を発した。


「敵ロスペイル部隊、こちらに接近してきます! 市長、ご指示を!」

「ここで迎え撃つ。挟撃に注意しつつ、円形に陣地を構成。

 くれぐれも攻め入ろうなんて思うな、相手の戦力はこっちの数倍だ。

 奥に入るのは……俺たちの仕事だからな」


 ハッチを開き、三人は一斉に飛び出した。砲火がロスペイルのいくらかをなぎ払うが、それをかわし、あるいは耐え、武装ロスペイルが迫る。その中でいくらかの危険な特殊攻撃が発動した。彼らは兵士たちを守りながら、ザ・タワーへと突き進んで行った。


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