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少年探偵とサイボーグ少女の血みどろ探偵日記  作者: 小夏雅彦
燃え上がる怒りと憎悪の炎
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13-堕ちる聖天使

 船全体を揺るがす振動があった。そのせいで、倒れた僕に止めを刺そうとしたガイラムも動きを止めた。彼は慌てて振り返り、モニターを見た。


「何だ、これは? 市長軍の砲撃か?

 だがメルカバナインを害せるほどの威力は……」


 モニターの一つが炎を捉えた。

 ガイラムは目を見開き、叫んだ。


「違う、これは! これは、船の内側から爆発しているのかッ!」


 然り。どうやら間に合ったようだ。

 船が次第に高度を下げて行っているのが分かる。


「エンジンがやられたのか?

 だが、エンジンルームの前は二人が押さえているはずだ!

 それにセキュリティに引っかからず、中に入ることなど……」


 エンジンルームの監視モニターを見て、ガイラムはまた言葉を失った。そこにいたのは、黄金の鎧を纏ったもう一人の戦士。彼は全力をもって部屋を破壊していた。


「ジェイド……セラフだと!?

 バカな、いったいどうやってこの船に……」


 始まる前から潜り込んでいたらしい。僕たちは船内通路で偶然彼と出会い、即席の共闘体制を作り上げた。僕たちが派手に目を引き、その隙にジェイドがエンジンを破壊する。もっとも、彼一人ではここまで出来なかっただろう。朝凪幸三の助力がなければ。


(メルカバのシステムハッキングが功を奏したようだな、虎之助くん。

 彼らはメルカバを掌握しながら艦内システムを熟知していなかった。

 それが我々の明暗を分けた……)

(ありがとう、朝凪さん。

 とは言っても、これからいったいどうすればいいか……)


 一通り船を破壊し終え、メインジェネレーターに括りつけられたロスペイルを殺害したジェイドは監視カメラを破壊しどこかに消えて行った。ガイラムの方が小刻みに震える。


「このッ……クズガキどもが……!

 この私の、私の創世を阻みおってーッ!」


 ガイラムは怒りのままに、僕のことをサッカーボールの如く蹴り上げた! 吹き飛ばされた僕はコンソールに叩きつけられ、それを破壊。尚も怒りが収まらないガイラムは、何度もストンピングを繰り出して来た。もはや避ける意志も力も存在しなかった。


「この世界はクソだ! そしてクソッタレの世界を変える権利が私にはある!

 支配に疑問を持たぬ大衆も、大衆をアリめいて使役するメガコーポたちも!

 そしてメガコーポを傀儡めいて操る市議会と賢人会議の俗物どもを!

 排除する権利を私は持っている!」


 ガイラムは妄言を吐きながら僕を蹴る。

 そこにはカリスマ性など存在しなかった。


「貴様は何だ、エイジアの小僧?

 与えられた力に疑問を抱くこともなく、ただ漫然とロスペイルを殺す!

 貴様は所詮傀儡だ、そんなものが私を阻むなど許されないぞ!」


 勝手なことを言ってくれて。何度も悩んで、何度もくじけて来た。その末に掴み取ったこの答えを、与えられたものなどと。ふざけたことを、言ってくれる……!


 コンソールに電流が走り、爆発した。

 モニター上に『自爆』の文字が表示される。


「チィーッ、旧世代の機密保持プログラムが作動したか……

 メルカバを廃棄せねばならんとは遺憾だが……仕方があるまい。

 だがッ、貴様はッ、決して許さんぞッ!」


 ガイラムは細い杭のような槍を生成し、それを僕の腹に突き刺した。


「グワーッ……! グワーッ!?」

「苦しみ死ね。メルカバナインは落ちるが、それまでに爆発するだろう。

 お前は炎に飲まれ、無様に火葬されて死ぬのだ。エイジア。

 仮に生き残ったとしても、落下の衝撃をその身で受け止めることになる。

 最後の瞬間を後悔して生きるがいい、エイジア!」


 それで留飲を下げた、とでも言わんばかりの笑顔をガイラムは作り、そして踵を返した。手を伸ばすが、しかしエイジアの装甲が光の粒子に還元され、ドライバーへと戻って行く。腹に突き込まれた槍は一撃で死に至るような重要臓器をすべて避けているものの、その分だけ激しく痛むようになっている。脱出は、不可能だった。


 コンソールが爆発し、モニターが弾ける。

 そこかしこで破壊が巻き起こり、それが僕のすぐ横を通り抜けて行った。

 死の気配が僕のすぐそこまで迫っていた。


■◆■◆■◆■◆■◆■◆■


 周辺一帯に展開して他ロスペイルが痙攣し、のたうち回った。それはメルカバナインから伸びる光が途絶えたのとまったく同時だった。上空へと浮上した戦艦から火の手が上がり、上昇の時とは比較にならない速度で落下していった。


「マズいぞ、あれは……!

 メルカバが堕ちる! 市長軍、総員退避だ!」


 軍の指揮を一任されていた連隊長が怒声を張り上げた。撤退に迷いがあるものは、一人としていなかった。エネルギー供給を断たれた強化ロスペイルたちは、最初の爆炎が上がる頃にはすべて爆発四散していた。彼らは距離を取り、超常の光景を見つめた。


「そうか……やったのか!

 やりやがったのか、虎之助くん……!」


 戦場の中心でジャックとユキはそれを見た。メルカバの甲板から何か黒いものが飛び出し、ブースター炎の赤い線を空に描いた。それは空中を旋回したかと思うと、二人の下へと向かって行った。構えは取らない、彼らにとっても見知った顔だったからだ。


「どうやら無事に帰って来たみたいだな、二人とも」

「中々スリリングな戦いだったよ……

 どうやら、こっちはすべて終わったみたいだな」


 エリヤは周囲を見た。哀れなロスペイルたちが爆発四散した痕跡を。


「こうなってしまうと、さすがに同情心が湧き上がって来るよ。

 彼らは彼らなりの理想を信じ、そして身を捧げて来たというのにな。

 その結末が爆発四散とは、報われない」

「信じるべきものを間違えちまった結果ってことだろうな。

 まったく、仕方ねえ連中だ」


 メルカバナインは爆発し、細かないくつもの破片となりながら大地に落下した。衝撃波が周囲の物体をなぎ払い、粉塵を舞い上げた。後退が少し遅れていれば、これに巻き込まれて何人もの死傷者が出ていただろう。エリヤたちはそれを声もなく見守った。


 粉塵が晴れた時、そこには威容を誇っていた空中戦艦は既に存在しなかった。あるのは、燃えるガラクタだけ。なぜあれほどの質量の物体が浮かび上がることが出来たのか? どのような力を持っているのか? そもそも本当に飛ぶのか……もはや再現することの出来ぬ旧世界の遺産、世界の神秘はかくして、永遠に失われることとなった。


「……そうだ、虎之助くんは? 一緒じゃなかったのか、お前ら」


 ジャックははっとしたように顔を上げ、言った。

 エリヤたちは目を伏せる。


「……船内で別れて、それっきりだ。

 通信も繋がらん、ノイズが酷いせいだと思いたい」


 そういうエリヤの表情は険しかった。虎之助の生存が絶望的だということは彼女が一番よく理解している。諦めきれないクーデリアとユキが、一歩足を踏み出した。


 その時、彼らは炎の中からゆっくりと歩み出るものを見た。


「神秘は永遠に失われてしまったか。だが、いい。

 私が生きていること、ただそれだけが奇跡なのだから。

 私一人があればいい。衆生の救済は私の力こそが成し遂げるもの」


 オーバーシア教主、オーリ=ガイラムは傷一つ、煤汚れ一つすらない姿で瓦礫の山から歩み出て来た。彼の周囲にプラズマ球体が浮かび上がり、そして天高く舞い上がった。空中で炸裂したそれは地上に降り注ぎ、待機していた市長軍を殺戮した。


「オーリ=ガイラム!? 生きていたのか……ならば、あいつは」

「死んだよ。キミたちの希望、エイジアは。

 彼が最後にどんな命乞いをしたか知りたいかね?

 無様なものだった。直接見せてあげられないのが残念だが……」


 そう言った時には、MWSを手甲に変形させたクーデリアが殴りかかっていた。ガイラムはそれを捌くが、続けてユキの爪が彼の顔面を狙った。首を逸らし腕を肩に乗せ、投げた。空中でグルグルと回転しながらユキは着地、クーデリアと共にガイラムを包囲した。


「命乞いなんて、するはずがありません。

 あの人は、そう言う人ですからね」

「でも、兄さんを侮辱するのは許せない。あなたは、ここで倒す」


 二人と、そしてエリヤ、ジャックの気持ちは同じだった。ジャックは即座に甲殻剣を生成し、エリヤは刀を抜いた。ガイラムは苦笑し、目を伏せる。


「どうやら救いようのない愚か者ばかりのようだな、キミたちは」


 四方から彼らは一斉に襲い掛かる。

 ガイラムはプラズマ球を周囲に旋回させた!


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