表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
少年探偵とサイボーグ少女の血みどろ探偵日記  作者: 小夏雅彦
第一章:サイボーグ少女と雷の魔物
13/149

04-地下構造体

 果たして敵は何者か。殺された幹部はすべて、頭部を粉砕されていた。まるで重機か何かに押し潰されたかのように。少なくとも、人間の仕業ではあるまい。


「このような殺され方をするなんて……

 何か心当たりはありますか?」

「我々はヤクザです。

 住民や敵対組織からの恨みを買うことは多分にしてあるでしょう」


 ……それはそうか。恨みを抱いている人間をリストアップすれば、1ダースでは足りないだろう。だがターゲットを絞るためにも、情報は必要だ。


「ここ最近、何か大きな争いはありませんでしたか?

 抗争だとか、トラブルだとか」

「ここ最近の大きな騒ぎと言えば、誘致反対抗争ぐらいでしょうか?」

「そうですね。

 チェン・インダリストに都市開発部門とやらから一方的な通知が来ました。

 その土地はあなたたちのものではない、不法占拠しているものだと。

 都市から土地を買い取り開発する。だから即刻そこから出て行け、と」


 法的根拠で武装した無法者、ということか。

 それなら相当な反発があったのだろう。


「そこで人死にだとか……大きな争いがあったんですか?」

「幸いその場で死者は出ませんでした。

 ですが後に死人が出たと聞いています」

「不幸な事故です。

 当たりどころが悪く、脳を損傷して亡くなったと」


 恐らくはその被害者がロスペイルとなり、組の人間を殺しているのだろう。


「その誘致闘争とやらがあった場所に、案内していただけますか?」




 僕が案内されたのは、都市境に近い場所にある空き地だった。


「……ここまで来ると、さすがに境界(・・)がよく分かるな」


 僕はぼんやりと、境目を見つめた。

 黄金の壁の如く(・・・・・・・)絶え間なく何かが噴き(・・・・・・・・・・)出している(・・・・・)


 この街の由来を、もはや誰も知らない。

 この壁の由来を知る者も皆無だ。


 分かっていることは、この壁は人を拒絶し、飲み込むということ。壁の向こう側にあるという『外』を目指し、多くの人が飲み込まれた。大気も、水も、物質も通すが、なぜか人だけは通さない。

 壁の向こう側から戻ってきたものは皆無だった。


 いつしか人々は、僕も含めて壁があるのが当たり前だと認識した。だが、目の前に来てみるとさすがに異物感が先立つ。この壁はいつから、どんな目的であるのだろうか?


「先月ここで誘致闘争があった。

 凄い熱気でな、見せたかったくらいだ」


 僕を案内してくれたスキンヘッドの男が、懐かし気に口を開いた。人はいなくなり、機材もほとんど撤去されている。そこで何かがあったなど、はた目からは分からない。


「工事は進んでいたんですね。

 それも、結構深くまで掘ってある」

「反対を押し切って工事を開始したんで、俺たちも熱くなってね。

 こう言っちゃあ聞こえが悪いが、ほとんど暴徒みたいになってた。

 あの場で人が死んでいたかもしれん」


 ぞっとするような一言だ。

 そんなことにならなくて本当によかった。


「しかし、これだけ掘って出て行っちゃうなんて。

 何を考えているんでしょう?」

「途中で有毒ガスが噴出して来たのだそうだ。

 埋めたくても埋められん」


 なるほど、そう言うことか。だが、この下にロスペイルが誕生した秘密が隠されているかも知れない。僕は穴の底を見た、それほど深くない。それに段差もある。


「お、オイ坊主! あぶねえぞ、戻って来い!」


 僕は穴の中に足を踏み入れた。男は追いかけてこない、好都合だ。

 僕はエイジアを装着した。浄化機能もエイジアは有しているため、並大抵のガスならば問題にならない。だが、進んで行くにつれておかしなことに気付いた。ガスがまったくないのだ。


(まあ、あれだけ開けっ広げになっていればみんな抜けちゃうのかな?)


 若干肩透かしを食らった気分になるが、安全ならばそれに越したことはない。穴は相当深く、そして広く掘られている。僕は辺りを見回し、何かないかを探した。


 そして、それはあった。

 土の間から、金属光沢を放つ扉が顔を出していた。


「あれは……でも、ここから先に建物は」


 壁の周辺に建物はない。ということは、この扉は最初から埋まっていたことになる。僕は土砂をどかし、扉に手をかけた。少し力を込めると、扉はゆっくりと開いた。蝶番がきしむ音も、何もしなかった。その奥には、更によく分からない光景が広がっていた。


 青白く光る床と天井。それには細いラインがいくつも描かれており、その中を光が行き来している。都市でこんなものを見たことはない。細長い通路を歩いて行くと、開けた空間に出た。

 10×10mの真四角な部屋、真ん中には棺桶めいた物体が鎮座されている。それはサーバーのような物体に接続されている。何に使うものなのか?


 だが、それを調べる前にエイジアのセンサーが動体を捉えた。僕はバックステップでそれを回避、打ち下ろされた拳が床を打った。現れたのは金属塊の怪物。


「こいつが……鵲組の人間を殺したロスペイルか!」


 ロスペイルは反応を返すことすらなく、僕に向かって跳びかかって来る!




 頭から突進を仕掛けて来る怪物。受け止めるか、回避するか。一瞬の逡巡の後、僕は横に転がってそれを避けた。そして、それは正解だった。怪物は壁に激突し、部屋全体を揺らした。壁そのものに損傷はないが、しかし衝撃は逃がしきれない!


(こいつ、何てパワーだ!

 それにこの部屋、こいつの攻撃を受けてもビクともしないなんて……

 どういう作りをしているんだ? ここはいったい何なんだ?)


 僕は立ち上がり、構えを取った。

 ロスペイルは荒く削り取った岩の塊をいくつも連ねたような姿をしていた。一応人型をしているが、ゴツゴツした体躯は人間のそれとはかけ離れている。あの質量から繰り出される一撃には注意が必要だ。


 ロスペイルは拳を振り上げ、乱雑な一撃を繰り出した。僕は腕をクロスさせそれを受け止めようとした。だが、凄まじい圧力を受け切れない。ワイヤーに惹かれたように吹っ飛び、壁に激突。ロスペイルは逆の手を振り上げ、止めとばかりに拳を繰り出す!


 痛む体に鞭打ち、しゃがみ込みでそれを回避。起き上がりと同時に肘を打った。だが、凄まじいパワーによって支えられた腕はビクともしない。緩慢な動作で放たれた反撃を、身を低くして回避。背後に回り、僕は渾身の力を込めた連打を叩き込んだ。だが、ビクともしない。


 ロスペイルはバックキックを繰り出して来た。僕は上体を逸らしそれを回避、連続バック転で距離を取った。とはいえ、部屋は10m四方。すぐに終点についてしまう。


(厄介な攻撃力と防御力だな。

 スピードがないのが救いだが……)


 恐るべき強固な(ソリッド)ロスペイル。

 これを攻略するにはどうすればいい?


 ソリッドは踏み込み、腕を薙ぐ。バックジャンプを打ち、更に背後の壁を蹴り再跳躍、壁に手を付く。ロスペイルのなぎ払いを避けつつ、上方を取った。腕で体全体を押し、全体重を掛けたストンピングをソリッドの頭に繰り出す!

 手応えはあった、ソリッドの首がミシリと歪んだ。

 だが、足りない。ソリッドは苛立たし気に体を震わせた。


 ソリッドの体から飛び降り、前転を打つ。反撃に出ようとしたが、ソリッドは恐るべき速度で反転していた。頭上から拳を振り下ろし、僕を押し潰そうとする!


(速い……!

 死の寸前で力を振り絞っているってことか!?)


 それならどれだけいいことか。

 それなら僕の攻撃はまだ通用している。そうでなかったら?


 僕は側転を打ち、バック転を打ち、三角跳びでソリッドの攻撃を避けた。

 狭い室内でソリッドはその能力を最大限に活用している。僕は、ソリッドのパワーに圧倒されていた。この強大なロスペイルを倒すためには、力が足りない!


(ブーストを作動させたとしても、こいつを溶かし尽くせるか?

 そう出来なきゃ終わりだ。

 エネルギーの大半を消費するブーストはここでは使えない……!)


 どうすればいい?

 こいつが組の人間を殺した化け物に違いない。

 だが、僕ではこいつに敵わない。

 それでも勝たなければならない。

 依頼された以上は、こいつを……


 倒す必要はない。

 ようするに、こいつを永遠に閉じ込めておけばいいのだから。


(そしてこの部屋はおあつらえ向きだ。

 こいつのパワーでも壊せない場所……!)


 僕はバック転を打ち、振り下ろされたソリッドの拳を回避。そのまま中腰姿勢になり、待った。ソリッドは僕を追い、渾身の力を込めて拳を振り下ろした。

 僕はその瞬間、地を蹴った。ソリッドの股下を潜り拳撃を回避。そのまま入り口に向かって駆けた。ソリッドは僕の姿を追う、だがスピードではこちらに敵うはずがない。


 僕は扉を閉め、ブースト機構を作動させた。赤熱機構は作動させず、純粋に力だけを増強させる。そして周囲の岩盤を殴りつけた。岩が崩れ、土が滑り落ち扉を完全に塞いだ。 


 これだけでは足りない。

 周辺にあった土砂を下に落とすため、僕は穴から飛び出した。


「うわぁっ!? な、何だお前!

 あ、あの小僧なのか?」


 僕を誘導していた男が悲鳴を上げ、尻もちをついた。

 だが、答えている暇はない。


 辺りを見回すと、土砂を積んだまま放棄されているダンプカーを見つけた。僕はその車体を、力任せに持ち出した。さすがにダンプとなると持ち上げるのが難しい。だが、ブーストを発動させることによって僕は問題を解決した。積み込まれていた土砂が穴に向かって滑り落ちる。あれほどの質量をどうこうすることは、ソリッドにも無理だろう。


「ハァッ、ハァッ……

 こ、これで、出てこれないはず……!」


 僕はキースフィアを抜き、装着を解除した。そしてそのままへたり込んでしまった。肉体的な疲労もさることながら、精神的な重圧から解放されたことが大きい。


「ボ、坊主。いったいどうなったんだ?

 中でスゲエ音がしたけど……」

「……コンクリでも詰めて、ここを覆ってください。

 そうすれば、全部終わりだ」


 それ以上はダメだった。

 僕は目を閉じ、意識を手放した。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ