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少年探偵とサイボーグ少女の血みどろ探偵日記  作者: 小夏雅彦
燃え上がる怒りと憎悪の炎
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13-プロメテウスの火

 オーバーシア、イーストエンド鉱区を占拠。その報がもたらされた時、市長軍は既に対応能力を欠いていた。『白屋敷』で犠牲を出し過ぎてしまったため、事態の収拾に予想以上の人員が必要になったのだ。加えて、あのオーリ=ガイラムの力。


(確保することすら出来んとは……!

 あれがオーバーシア盟主の力ってことかよ)


 ジャックは歯噛みし、軽く壁を叩いた。いま彼らは、イーストエンドの廃棄区画にいる。オーバーシアが占拠した鉱区とは隣接しており、彼らが何をしようとしているのか手に取るように分かる。見渡す限り一面の平野であり、戦力の展開はし易い。


「まだオーバーシア側に動きはないのかな? 市長?」


 煙草を咥えた女性がテントの中に入って来た。朝凪エリヤだ。彼女はガイラムの攻撃に晒されながらも、奇跡的に生きていた。万が一のために残しておいたクーデリアが彼女を助けた。密かに裏手から出た彼女が塀の向こう側から彼女を引き上げたのだ。


「トラさん、大丈夫ですかね……

 あの爆心地にいたなら、もしかしたらもう……」

「あいつは強い、心配はいらないさ。

 殺したって死ぬタマじゃないんだ」


 そういうエリヤも、どこか不安げな色を隠さなかった。だが、すぐに気を取り直し煙草をもみ消した。そこにはもう、戦士の顔があった。


「……で、これからどうするんだ?

 例の新兵器とやらを使って奴らを攻撃する?」


 正確に言うならば、『発掘再現兵器』だ。地下都市構造体の調査を進めていた市長軍調査隊が発見した古代の遺物を解析・再生産したものである。今回ランバネイル重工業からM7戦車8両と17型自走砲14台、更に戦闘ヘリ5機が試験的に貸与されている。


 いずれも、対ロスペイル戦であっても十分な成果を生み出すだろう。堅牢な戦車の装甲は並みの攻撃を通さず、強力な戦車砲は敵を一撃で爆発四散せしめる。自走砲は遠くにいながら曲射支援砲で鉱区を灰燼に帰すだろう。戦闘ヘリは言うに及ばず、だ。


 それでも……ジャックは漠然とした不安を想起せずにはいられなかった。そもそも、これら戦闘兵器の導入はもっと後になるはずだった。ランバネイルが予定を前倒ししたことによって今回の配備が鳴ったが、どのような原因でそれが成されたかは分かっていない。まるでこれが起こることを予見していたかのような手の早さだ。


 それは現場にも表れている。陣地の周辺にはどこから聞きつけたのか報道陣が殺到しており、兵士たちと喧々諤々の口論を繰り広げている。ランバネイルがプロモーションのために呼び出したのだろうが、邪魔と言うほかなかった。


「……? どうしたんですか、市長さん?

 何かおかしなことでも……?」

「ンッ……いや、何でもない。

 特に問題がないはずさ、何もな」


 そうだ、何も問題はない。オーバーシアは所詮宗教団体、戦闘のために作り上げられた市長軍と真正面から勝負は出来ない。そして彼らはトラの尾を踏んだしまった。このまま成す術なく崩壊する……そのはずだ。だがジャックの胸には不安が去来していた。それは危険なアンダーグラウンド時代に身に着けた、危険に対する鋭い嗅覚に由来する。


(その程度のことが分からないはずはないだろう?

 いや、オーバーシアの連中はそれを嫌って地下に潜っていたんじゃないのか?

 それが表に出て来たってことは……こちらに対抗する手段を得たからか?

 俺たちをもう脅威と見なさなくなったからか?)


 グルグルと空転する思考。

 その時彼は、その場にいた者は強烈な振動に襲われた。


「……地震か!? クソ、こんなタイミングで幸先が悪ィッ……!」


 苛立ちながらテントを出たジャックは、空を見上げ戦慄した。オーバーシアが占拠した鉱区はアン・デス山脈の端の方にあり、その下にある小さな工場街から形成されている。標高100m、決して低くないアン・デスの山が――割れていた。


 山頂が崩落し、そこから光の帯が伸びていた。七色の光は空中のある一点に収束し、そこからアトランダムな方向に向かって伸びていた。工場街に向かって。先ほどの地震はあれが原因か、などと納得する暇もなく次なる地震があった……否、それは地震ではない!


 それは多くの、そして巨大な物体の移動によって生じたものだ! 七色の光を受けた物体、すなわちロスペイルは走りながらも形を変え、巨大化していく! 彼らが市長軍の500m圏内に接近したころには、体長10mを越える巨大な怪物へと変貌していた! 呆然とそれを見上げているうちに、前線に展開していた歩兵たちが吹き飛ばされ死んだ!


「何、だあれは……!?

 ロスペイルだろうが、あんなバカげた変化をするはずがねえ」


 ジャックは己が見ている光景が信じられなかった。


「これじゃあ、まるで『エデンの林檎』じゃあねえか……!」


 クーデリアが頭を抑えた。

 痛みに、フラッシュバックに耐えているようだった。


「『プロメテウスの火』……まさか、この時代に完成しているなんて」

「何だって? クーちゃん、キミいったいなんて言った?」


 クーデリアはきょとんとした表情を浮かべた。自分の言っていることが理解出来ていないようだった。ジャックは戦闘部隊に指示を出し、兵器群を中心に迎撃を行うよう命令した。もちろん、歩兵たちを前線から下げるもの忘れない。


「えーっと……『プロメテウスの火』。

 林檎の力は彼等の身に余るもの、だからその力を分割するために開発された。

 あの虹色の光は、『エデンの林檎』のそれなんです」


 虹がどういうものか、エリヤは理解していなかった。だが光線のことを指しているのだということは、話の流れから分かった。理解すれば理解するほど悪い状況だと分かる。


「つまり化け物どもは林檎の力によって力を強化されている、というわけか。

 しかも分割したもんだから一体一体への負担はそれほど大きくないのだろう。

 アリーシャくんや御桜くんと違い、組織立った行動で敵を追い詰めている。

 どうすれば対抗出来るんだ?」


 クーデリアは自らに訪れた変化に戸惑いながら、記憶を必死に手繰り寄せた。


「……メルカバナイン。

 地下に埋設された戦艦に、『プロメテウスの火』のコアユニットがあるはず。

 でも、火が灯ったならば戦艦も飛び立つ準備が整っているはず……!」


 再び振動があった。しかも、今度はただの揺れではない。地面が割れているのだ。『プロメテウスの火』が放たれた山頂がまず崩落し、それが露わになった。巨大な切妻型の金属塊と円柱。それが船のブリッジだとエリヤには分かった。


「この遠目に見てもあれだけのデカさか……!

 浮かび上がったらどうなることか」

「メルカバナインは全長1Kmを越える巨大戦艦です。

 浮上するだけで大量の粉じんを辺りに舞い上げ、地盤を破壊するでしょう……

 市長、いつでも撤退出来るように準備を」

「そう簡単に撤退なんぞ出来るか、背を向けた瞬間に蹂躙されるぞ!」


 戦車の砲弾がロスペイルの腹に突き刺さり、榴散弾が彼らの体を抉る。ヘリから放たれた情け容赦のないガトリング掃射が血煙を舞い上げる。だが、強化ロスペイルたちは止まらない! 腕を振りかざし兵士を倒し、エネルギー弾を放ち戦闘兵器を攻撃する! 最新科学によって武装しているはずの市長軍が、押されている!


 何かきっかけが欲しい。

 そう思っていたジャックだが、最悪の方向でそれは現れた。


「ッハ……ハハハハハハ、ッハハハハハハハハッ!」


 哄笑と砂煙を上げ、巨大質量が市長軍に向けて突進してくる!

 その名はベヒモスロスペイル、七色の光を受けた彼は、体長こそ変わらないが以前とは比較にならないほどの筋密度をもってして攻撃を仕掛けて来る! 彼は頭から生えた角を戦車と地面の間に差し込み、持ち上げた。あっさりと鋼鉄の戦車が宙を舞い、吐き出された炎によって爆散した。


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