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少年探偵とサイボーグ少女の血みどろ探偵日記  作者: 小夏雅彦
燃え上がる怒りと憎悪の炎
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13-報復戦

「……なんですって?

 それは確かなことなんですか、市長?」


 僕は彼の言葉が信じられず聞き返した。

 市長は声を潜め、もう一度言った。


「確かなことだ。

 ウチの斥候部隊が、行方不明になっていた行動隊長を発見した。

 そこにはオーバーシアの会員と思しき連中も多く出入りしている……

 十中八九、シティ内に隠されていた大型拠点に間違いない。

 俺たちはこれから、そこに強襲を仕掛ける」


 市長軍を直接動かすということは、余程の確証があるということだろう。これまでの作戦とは、文字通り次元が違う。僕は思わず生唾を飲み込み、そして続けた。


「市長、その強襲作戦に我々も参加させていただいてよろしいでしょうか?

 もちろん、市長軍の邪魔はしません。そちらの指示に従います」

「もちろん。キミたちの力なくして、ロスペイルと戦うことは出来ない」


 僕は礼を一つ言って、合流ポイントとして指定されたウェストエリアへと向かった。まさか学生と金持ちが暮らすウェストエリアを拠点にしていたとは思わなかった。だが、数年前摘発された新興宗教団体もノースエリアの金持ちを標的にしていたと聞いたことがある。金を大量に持ち、現世に飽いた者たちは救済にカブレるのかも知れない。


 まず、エイファさんに連絡を取った。周辺の監視カメラをジャックし、非合法的に情報を収集してもらうためだ。続けて突入部隊としてクーとエリヤさんに。ユキに連絡を取ろうとして、そしてやめた。この件で一番深い傷を負っているのはユキだ。


 比較的歳が近いのもあって、ユキとアリーシャはウマが合った。小さなお兄さんと妹と言う感じだった。いずれにしろ、あいつにとって幸せな時間だったことに変わりはないだろう。アリーシャがいなくなった後、ユキは気の毒になるくらい塞ぎ込んだ。


(ユキ、アリーシャの仇は僕が討つ。だから心配しないでいてくれ)


 スレイプニルは車庫で待機させた。朝凪幸三の協力により、遠くにいてもあれを呼び出せるようになったからだ。必要になったら呼べばいい。


 歩きながら、僕は目的地を見上げた。円蓋の屋根が特徴的な、ビザンティン様式めいた屋敷がそこにある。重厚感のある石造りの建築物で、周辺の住民からは『白屋敷』と呼ばれているそうだ。かつては人が住んでいたが、やがて美術館になり、ホテルになり、権利者も変わり何をしているのかよく分からなくなっている。そこに彼らは潜伏していた。


「虎之助くん、待っていたよ。クーデリアくんと朝凪さんは?」

「しばらくしたら来ると思いますよ。

 しかし……思っていたよりもみんな軽装ですね」


 僕は待ち合わせ場所であったカフェテラスに辿り着き、そこで変装した市長を見つけた。デニムのジャケットにチェーンアクセサリーを着けたジーンズ、挑発的なプリントが書かれたシャツ。それにサングラスをかけているだけで、いつもの市長の印象はどこかに消えていた。彼に声をかける人もいない、トラブルを避けているだけかもしれないが。


「奴さんに気付かれると面倒だ。

 本隊展開までの間に事が起こった場合の保険さ」


 周囲に待機している市長軍の兵士たちは、比較的軽装だ。大型拳銃を帯びているのは分かるが、しかしロスペイル相手にそれでは心もとない。カフェはちょうど『白屋敷』の真ん前に位置しており、見通しが立つとはいえ……


「アリーシャ=マックスベルの件に関しては、俺からもお悔やみを申し上げる。

 残念だったな、虎之助くん。キミたちの苦しみは想像してなお余るりある」


 そう言えば、市長はアリーシャの存在を最初から知っていたのだ。


「どうして僕たちからアリーシャを取り戻そうとしなかったんですか?

 あなたは彼女を監視していた。当然僕たちが彼女を匿っていることも。

 それなのに、どうして僕たちの下に彼女を預けておいたんですか?

 その方が安全だと判断したからですか?」

「そうではない。彼女を求めていたのは、オーバーシアも一緒だ。

 彼らはアリーシャ君を取り戻すために、キミたちを消そうとするだろう。

 賢人会議にとって、イレギュラーの戦力であることはどちらも同じだ。

 要するに、共倒れを狙っていたんだろうな」

「……アリーシャが生きているかどうか、あいつらには関係なかったんですね」


 たった一人の少女の命が、運命と悪意に翻弄されて消えて行った。それを考えると暗澹たる気持ちになると同時に、怒りが湧き上がって来る。理不尽への怒りが。


「少なくとも、キミと一緒にいた時間彼女は幸せだったんじゃないかな。

 白い檻から抜け出し、自由な世界をキミたちと一緒に生きることが出来たんだ。

 それだけは誇るべきだ」

「ありがとうございます、市長。

 少なくとも……僕にとっては救いになるかもしれない」


 僕は『白屋敷』を睨んだ。この中には、アリーシャの死の遠因となった男がふんぞり返っている。彼はいま何を考えているのだろうか? 今回の功績で昇進だの、有り難いことがあったのだろうか? きっとそれを喜んでいるだろう。人の命を差し出すくらいだ。


 ならば、僕はその幸せを木端微塵に砕いてやる。お前の信じているものが、お前が悪徳を犯してまで手に入れたものが、どれほど無意味なものなのか教えてやる。少女が味わった痛みが如何ほどのものか、せめて鈍感な心が理解出来るように教えてやる。


 ギュッ、とコップを力強く握り締めた。ふと目を横合いに向けると、そこにはユキがいた。ユキはキョロキョロと周囲を見渡し、何かを探しているようだった。テラスから声を掛けようとしたが、すぐにユキは走り出し、角を曲がってどこかに行ってしまった。


「おや、あれは正幸くんじゃないのか?

 どうしてこんなところに……家は遠いだろ」

「ええ、僕もあいつがどうしてこんなところにいるのか、見当もつきません」


 この間の件で、食事も喉を通らないくらい憔悴していると聞いている。そんなユキが外出するなんて、よっぽどの事情があったのだろう。仕事の前とはいえ、猛烈に気になって来た。どうせ合流するまで何も出来ないんだ、支障が出ない範囲でユキを追おう……


 そう思った時、いきなり市長に腹を蹴られた。衝撃で後ろに倒れ、市長は反作用でやはり転がる。僕が一瞬前まで頭を置いていた場所を弾丸が通過し、奥にあったガラスを割った。降り注ぐ破片を浴びながら必死に転がり、立ち上がる。いつの間にか円蓋の上に狙撃銃を携えたロスペイルがいた。それが次弾を放ち、兵士と通行人を次々殺害する!


「マズい、作戦がばれていたのか……!? 市長!」


 僕は最悪の事態の到来を予感したが、市長は冷静だった。


「作戦が読まれちまったのは、仕方がねえ。

 だが、ここで止まってしまってはあの野郎の思うつぼだぜ、虎之助くん。

 作戦を変更、これより『白屋敷』に突入するぞ!」


 兵士たちは体勢を立て直し、物陰に隠れながら応戦した。明らかに火力不足だが、いまも本隊がここに近付いて来ている。それが来るまでの間耐えればいい、ならば!


「ここにいる人々を守るのが、僕の仕事だ……! 変身!」


 キースフィアをバックルに挿入し、変身。エイジアへと変わり、銃火の中に身を置いた。大口径の狙撃銃弾を強化手甲で防ぎ、ガトリング弾を装甲で受け止める!


 壮絶なる市街戦の幕が開いた。

 人々は混沌の炎に飲み込まれる!


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