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少年探偵とサイボーグ少女の血みどろ探偵日記  作者: 小夏雅彦
第四章:追放者の果実
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12-Sideトラ:グラビティ・テリトリー

 強烈な砲火を受けた御桜さんは、しかし無事だった。少なくとも頭と胴体が分かれていない、程度の意味ではあるが。吹き飛ばされ、地下街へと続く階段の奥へと消えて行った。子供たちもそれを追う。戦場に残ったのは僕とブラッドクランのみだ。


「ハーハーァッ! 決めてやったぜストライクをよォーッ!」


 影から出て来たのは、通常のロスペイルの倍は大きな体……否、鋼鉄の塊だった。手足には球体関節、体は流線型を考慮した滑らかなもの、頭部にはレーダードームとアンテナ、そしてカメラが搭載されていた。カメラは青白い光を放ちながら動き、僕を見た。


「ふっふっふ、ドーモ。俺の戦車軍団はどうだったかな?」

「貴様がマシンロスペイルか……!

 ならば、それも貴様の兵器というわけだ!」

「その通りだ。苦労したぜ、大戦時の兵器を使えるようにするにはな。

 だが、その苦労に見合うだけの成果はあったわけだ!

 この圧倒的力がよォーッ!」


 機械人形は砲を腰だめにして持ち、僕に向けて放った。戦車砲に匹敵する威力、更に連射速度もある。まるで戦車一個小隊から狙い撃ちにされているようだ! ギリギリのところで回避を繰り返す僕に、シャークが飛びかかって来る!


「イヤーッ!」「グワーッ!」


 ギザギザのガントレットを受け装甲が抉れ、僕は衝撃で吹っ飛ばされた。ゴロゴロと転がり砲弾を回避しつつも立ち上がり、シャークを睨んだ。


「ワカったか? 貴様はここで死ぬ!

 お前は俺のボーナスになるって寸法よーッ!」


 シャークは飛び上がり、頭から砂の中にタイブ! なおも僕を狙う砲弾を避けながら、地中に意識を集中した。来るなら来い、頭を出してきた時が貴様の最後だ!


 だがシャークは予想に反して顔を出してこなかった。代わりに、僕の両足首を地中から掴んで来た。これでは跳ぶことはおろか、避けることさえもできない。鋼鉄の巨神の中から、マシンがニヤニヤとした厭らしい笑みを浮かべる光景を幻視した。


 マシンがトリガーを引く。僕の主観時間が泥めいて鈍化し、ありとあらゆる感覚が研ぎ澄まされた。砲弾はゆっくりと、しかし凄まじい速度で僕の頭目掛けて進んで来る。回避も防御も不可能、万事休す。その時、僕の頭を閃光が駆け巡った。


 エイジアの装甲がひとりでに変形し、脚部に赤熱機構を収束させる。脚甲が白く発光し、砂を溶かした。その分だけ僕の体は沈み込み、更にブリッジすることで致命砲弾を避けた。


「グワーッ!? 熱い! な、何をする貴様ーッ!?」


 シャークが熱に怯んだ。

 その隙に僕は彼の手を蹴り、脱した。タンクの上に着地。


(あれはいったい? 僕はいったい何をしたんだ?)

(どうやら不利な戦いを強いられているようだな、虎之助さん)


 エイジアのHMD上に一つのモニターが映し出される。

 そこにいたのは、中年男性。鋭い目つき、蓄えられた顎髭、長い髪。

 いったい何者だ?


(私の名は朝凪幸三。エイジアの守護者。

 虎之助さん、キミに打開策を与えよう)

(朝凪幸三!? バカな、あなたは死んだはず!

 どうしてこんなところに!?)


 上空から砲弾が降り注ぐ。僕は連続側転でそれを回避しながら問答を続けた。


(私の体は既にその世界には存在しない。

 だが、私の記憶、及び情動データを保存し再構成してある。

 いわば私はAIだ、エイジアのサポートシステムだ)

(エイジアのサポートシステム……まさか、人間がそんなことになるなんて)

(驚いている暇はないぞ、虎之助さん! 敵が来る、迎え討て!)


 エイジアの動体センサーが地中から接近する物体を捉えた。マシンの砲撃を跳躍し回避、更に空中でシャークを待ち構え、飛び出してきた瞬間を狙いパンチを繰り出した。


「イヤーッ!」「グワーッ!?」


 鼻先を打たれシャークは悶絶、ビチビチと震えながら地上に落ちて行った。今度は地中に潜るような真似は出来ない。僕はスラスターで空を蹴り、シャークを追った。


「安息の地には二度と戻らせん。

 打ち上げられた魚がどうなるかは知っているな?」

「舐め、んじゃねえぞコラァーッ!

 手前如き、陸地に上がってようが問題ねえッ!」


 シャークは闘志をむき出しにしながら構えを取り、そして壮絶な打ち合いを開始した!


「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」

「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」


 丁々発止、筆舌にし難いほどの打撃戦! 一方でマシンはシャークを援護することが出来ない。シャークを常にマシンの射線上に置くように動いているからだ。一人では出来ないだろうが、いまの僕には朝凪さんの支援がある。彼がレーダーを常に確認しマシンの位置を探知し、僕がそれに従い動く。相手は鈍重なのでそれは簡単だった。


「イヤーッ!」「グワーッ!」


 バックナックルを屈んで回避、打ち上げた掌底がシャークの腹部を打った。その時、ついでに掌から刃を作り出し突いた。よろけながら後退したシャークに、追撃の後ろ回し蹴りを叩き込む。シャークは吹き飛んで行く、僕はそれを追い掛けた。


「ぐっ……バカめーッ!

 少しでも距離が離れたのならば……俺の勝ちだ!」


 シャークは空中で身を翻し、砂の中に飛び込んで行った。


「グワッハッハッハ!

 一度でも砂に潜れば俺の勝ちは確定……グワーッ!?」


 シャークは腹が引き攣るような痛みを覚えたことだろう。それもそのはず、掌底の際に打ち込んでいたのは単なる刃ではない、小型の銛だ。そして、それには同じくエイジアの装甲から作り出したワイヤーロープが付いていた。つまり、僕はいま地中のシャークに引きずられているような形になっているのだ。もうこれで逃がさない。


(楽しい波乗りよ!

 虎之助くん、分かっておるだろうがエイジアの力は無限だ!

 それに制限をかけるのは己のみ! 可能性を縛るな、分かったな!)

(分かっていますよ。これですべてを終わらせてやる……!)


 マシンは地上の状況を察知し、砲撃支援を行って来た。僕はワイヤーを右に左に引きシャークの軌道を操作し回避。ワイヤーを動かす度に苦悶の叫びが聞こえて来た。


「AAAAAARGU! 貴様ァッ、よくもやってくれやがったなァーッ!」


 たまらずシャークが飛び出してくる。だが、それもワイヤーを伝って来た動きで感知していた。僕は右手でワイヤーを掴み、渾身の力を込めてそれを投げた。


「イィィィィィィ……ヤァァァァァァァーッ!」「グワーッ!?」


 投げられたシャークが到達した場所。

 それは砲撃の降り注ぐデッドゾーン!


「グワーッ! グワーッ! グワーッ! やめっ、グワーッ! グワーッ!」


 マシンは慌てて砲撃を中止するが、しかし一度放った弾を止めることは出来ない。雨霰の如く降り注ぐ榴散弾がシャークの肉体を粉砕する。


「お、の、れ! 貴様は、貴様だけは俺がぶっ殺してやるゥーッ!」


 それでも、シャークは死ななかった。立ち上がり、爆発的な勢いで地を蹴り僕に突進を仕掛けて来る。放たれる右の拳、僕はそれに手の甲を添えた。まるでそこを避けるかのように軌道を歪めた。反撃の右フックを撃ち込む、シャークの頭はまるで右拳に引かれるように近付いて来た。そして、接触。打撃のエネルギーがシャークの頭部で解放された。


 シャークの首が千切れ、頭が吹き飛んだ。

 シャークロスペイルは爆発四散!


「シャークが死んだ!?

 ええい、肉の壁がいなければこちらは力を十全に活かし切れん!

 撤退だ、撤退! なぜか貴様の力もあいつには効かぬのだろう!?」


 マシンは後部に同乗していた相棒に声をかけ、撤退した。僕はそちらに注意を向けながらも、両手を見た。先ほどシャークと戦った時の力、あれはいったい……


(あれは重力の力だ、虎之助さん)

「重力?」

(正確に言うならば、キミは左手の斥力でシャークの拳を弾いた。

 そして右手の引力でシャークの頭を引きつけた。

 エイジアには元から重力を操作する力が与えられている)


 エイファさんは赤熱機構を、何らかの重力的フィールドで拳に圧し止めていると言っていた。そのことだろうか? だが、万物を司る重力を操るなんて……


「こう言ってしまっては何ですけど、まるでカミサマの力みたいですね」

(古代人の力は神にも匹敵していたということだろう。

 その力を使いこなすために、もっとこの力を使うことだ。

 ともかくここを襲う敵は消えた)


 僕は一旦変身を解除し、地下街に戻った。御桜さんの様子を見なければ。


「……やあ、結城さん。

 これは、かっこ悪いところ見せちゃったかな」


 御桜さんは生きていた。ただし、半死半生と言った有り様だったが。人の形に戻ってなお、痛々しい傷は消えていない。僕はあまりの様子に思わず息を飲んだ。


「ブラッドクランを追い掛けるんだろう?

 行きな、さっそく足手纏いになっちまった」

「そんなことはありません!

 御桜さんがいてくれなかったら、僕は……」

「やっぱり優しいな、結城さんは。

 これ、持って行ってくれ。あたしが調べたんだ……」


 そう言って、彼女は一枚のすり切れかかった紙を差し出して来た。どうやら、周辺一帯の地図のようだ。一月の間に調べ上げたのだろうか……


「行ってきな。行って、あいつらをぶっ倒してきてくれ。

 そうすりゃ、留飲が下がるよ」

「……分かりました。ありがとうございます、御桜さん。

 僕は、行きます」


 地図を胸元に持っていき、一瞬目を閉じる。

 覚悟を決め、そして踵を返した。


(ブラッドクラン。

 お前たちが何をしようとしているのかは知らない。だが……!)


 ブラッドクランは虎之助の闘志に火をつけた!

 彼らは知らぬ、自らがなにを目覚めさせてしまったのかを。

 彼らは無邪気な信仰により破滅の道を歩み出したのだ!


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