12-Sideユキ:クラーク=スミスという男
ユキは反射的に駆け出し、連打を放った。
目の前の男の危険性が本能的に理解出来た。
「イヤーッ!」「ふん」「イヤーッ!」「ふん」「イヤーッ!」「ふん」
裂帛の気合とともに放たれた高速の連打、しかしそれはクラークによって軽く弾かれ、逸らされる! ユキは軽いフットワークで目まぐるしく立ち位置を変えるが、しかしクラークは足を動かすことすらもしない! ならばとユキは背後に回る!
無防備な背中にユキはパンチを繰り出す! しかし、クラークは手を後ろに回しあっさりとそれを受け止めた。更にクラークはクルリと反転、気付いた時にはユキは転がされていた。自らの回転エネルギーを使い、ユキの手を軽く捻ったのだ。これほど激しい攻防を繰り返したというのに、クラークは最初の位置から1mmも動いていない……!
「さすがは『十三階段』。
我々のような木っ端とはモノが違うということですな」
レバーブローを叩き込みながらクロウは言った。常人なら内臓が残らず破裂し、ロスペイルであっても浮き上がるほどの一撃を受けながらも、アリーシャは立っていた。
「実に素晴らしい力だ。
身体能力、特異能力、そして適性。どれをとっても素晴らしい。
彼女は我々を新しい段階へと導いてくれるだろう。
是非とも連れて帰りたいものだ」
クラークは指を鳴らした。
同時に、10を越える武装ロスペイルが工場内に出現!
「こんな数を……!」
「まずはセオリー通りに行ってみましょう。
数を使って押し潰します」
武装ロスペイルは一斉に発砲! ほぼ360度から銃弾が放たれ、アリーシャを襲う! しかし、彼女の対応は冷静だった。自らの眼前の空間を歪ませた。彼女は歪みに飲み込まれ、数歩分移動した。銃弾はすべて、空しく空を切った。
「なんと……!
自分自身さえ空間を使って移動させられるのか!?」
アリーシャは侵入して来た10のロスペイルを一瞥した。そしてそれだけですべてが終わった。ロスペイルは空間の歪みに飲み込まれ、致命部位を損傷。一斉に爆発四散した。
「素晴らしい! 何たる無慈悲さ、迅速さ!
それでこそです!」
クラークは両手を後ろに置きながらアリーシャに近付いた。アリーシャは得体のしれぬ敵を寄せ付けぬために拳を振るうが、しかしクラークは上半身の動きだけでそれを完全に避ける。懐に入ったところで彼は手を解き、右手で竜の咢を思わせる象形拳を作り出した。両足で大地をしっかり踏み締め、腰の捻りを肩へと伝え、そして掌に乗せ解き放つ。
胸板に一撃を受けたアリーシャの体が水平に吹っ飛んで行き、薄いトタン壁を突き破り裏路地に叩き出された。ユキはそれを呆然と見ていることしか出来なかった。
「聖女の相手は私に任せていただきます。
キミたちはそちらの少年をお願いしますよ」
「了解した、クラーク」
「言うまでもありませんが、殺さないように願います。
彼もまた、特別な存在です」
そう言ってクラークは壊れた壁を潜り抜け路地に出て行った。凄まじい戦闘の音と方向が響き渡るが、しかしそれはアリーシャのものだけだ。ユキは油断なく構えを取り、二人の強敵を見た。二人は左右に分かれ、ジリジリと広がっていく。
どちらから先に相手にすべきか? もちろん、クロウだ。ユキは包囲の輪が広がり切ったところを見計らい、タメを作り駆け出した。ジェイドですら対応することが出来なかった超高速のスプリント、ピジョットはスピードに翻弄され狙いをつけることが出来ない。
「小細工だな、小僧……! イヤーッ!」「グワーッ!?」
しかし、クロウは精密にして的確な狙撃でユキの肩を打ち抜いた。20mmAL弾は強固なアストラの装甲をも損壊せしめるだけの威力を持つ。ユキは駒のように回転しながら地面に転がった。呻き、立ち上がろうとするが、上手くいかなかった。
「スピードだけで私に勝てると思っていたのならば、それは思い違いだ。
重要なのは速さではない、どう動くかだ。
直線的で単調な動き、見切るのはそう難しくなかったぞ」
クロウはユキの頭に銃を向けた。痺れるような感覚、ユキは立ち上がれない。クロウはトリガーを引き絞る……否、その寸前で止まった。開いた窓から飛びかかる影を見たからだ。クロスガードで飛び蹴りを受け止め、反動後方ジャンプと共に投げられたダガーナイフをブリッジ姿勢で回避。バック転で襲撃者と距離を取りつつリロードを行った。
「大丈夫か、ユキくん。
見つけるのが遅くなってしまって、済まんな」
「エリヤ、さん? どうしてここが分かったんですか!?」
「そりゃ分かるだろ。あれだけ派手に爆発させてたんだからな。
もう大丈夫だぞ……」
そう言ったエリヤだったが、しかし横合いから飛んで来た白い触手によって腕を絡め取られた。顔をしかめるエリヤを見て、ピジョットは哄笑を上げた。
「ここに来てすぐ悪いがさっさと死んでもらうぜ!
まずは腕からだァーッ!」
ピジョットは触手に込める力を徐々に強める。
エリヤも腕に力を込めて対抗した。
「どうでもいいが、そんなところに突っ立ってていいのか?」
「あ!? 何言ってやがるんだ、手前!
俺のことを揺さ振ろうったって無駄――」
BRTTTTTT! 激しいモーターの回転音と火薬の炸裂音! ピジョットは一瞬で穴あきのスイスチーズめいた姿になり、爆発四散! いかに触手を再生させる力を持っていようとも、全身を撃ち抜かれれば当然死ぬのだ。エリヤは巻き付いた触手を解いた。
「だから言っただろう、そんなところにいていいのかって。
調子は上々みたいだな」
「もちろんです、エリヤさん!
あの程度ならどうってことありません!」
扉の影から飛び出して来たのはクーデリアだ。気配を感じさせぬアンブッシュでピジョットを葬ったクーデリアは崩落した壁の方に目を向け、走り出した。クロウは追わない。
「あっちが本命だと思ったが、いいのか?
あの子は強いぞ」
「知っているさ。だが同時にあいつがやられないことも知っている。
私がやるべきことは、来るべき時までお前たちの足止めをすることだ」
クロウは二挺拳銃を構えた。エリヤは刀を両手で持った。彼女が本気の構えを取ることは、そうない。図書館での交戦で彼女はクロウを油断ならぬ強敵と認めていた。ユキもゆっくりと立ち上がり、ぎこちない構えを取った。エリヤはユキに目配せした。その瞬間、クロウは発砲した。首を振りエリヤは銃弾をかわす。
戦いが始まった。




